Interview

花咲徳栄高等学校 大瀧 愛斗選手【後編】 「スランプから脱却させた岩井隆監督の魔法の一言」

2015.10.07

 前編では入学時から3年春までの過程を振り返っていきました。そして後編では飛躍を遂げた夏の埼玉大会甲子園の振り返り、そのきっかけとなるエピソードを紹介!高卒プロ志望届けを提出し、現在、取り組んでいることを伺いました。

チームメイトとの話し合いでチームが勝つことを最優先に

「我武者羅」と刺繍されたグローブを見せる大瀧 愛斗選手(花咲徳栄高等学校)

 大きな課題を一つクリアした大瀧 愛斗だが、肝心のバッティングでは不調が続いていた。
春の埼玉県大会では、また1試合に1安打しか打てなくて。準々決勝の聖望学園戦では、2点リードされている8回に二死満塁で打順が回ってきたんですけれど、『真っ直ぐを狙え』という指示だったのに、なぜか変化球を当てにいってしまって。結局、ショートゴロに打ち取られ、負けてしまった。その日、あまりにも試合内容が良くないという事でミーティングが開かれて、21時くらいまでやっていたんですけれど、自分はいつものように意見が出せませんでした」

 ミーティングが終わり、1人で食堂に向かっていた大瀧。その時、不意にチームメートの里見 治紀に話し掛けられた。
「里見はすごく周りが見えていて、自分のバッティングフォームのわずかな変化にも気付いて、いつもアドバイスしてくれるんですけれど、『ミーティングで何か言いたそうだったけれど、どうしたの?』って声を掛けられて、2人で話し合う事になったんです」

 里見は大瀧と共に2年時からレギュラーとしてプレーしており、3年になった今年も5番を打つ主力選手だったが、彼も結果が出ずに苦しんでいた。
「その時、『自分たちは他のチームメートよりも練習しているのに、何で打てないんだろう』という話になって。いろいろと原因を探していく中で、それは『自分が良いプレーをできればいい』と考えてしまって、『チームの勝利が最優先なのに、そういうプレーができていなかったからじゃないか』って気が付いたんです」

 プロを意識するあまり、知らず知らずのうちに個人プレーに走っていた大瀧は、そんな自分を反省し、この日を境に心を入れ替えた。
春季大会で負けた次の日、急遽、練習試合が組まれたんですけれど、『自分の為じゃなく、チームの為に』と思って試合に臨んだら、自分も里見もホームランを打ったんです。試合後、『昨日まで打てなかったのに、何で今日は打てるんだろう』って思っていたんですけれど、里見と『これからも、この気持ちを信じてやっていこうぜ』って誓い合ったんです」

 以前はホームランを狙っていた場面でも、相手の守備陣形を見てセーフティバントを試みるなど、フォア・ザ・チームの精神とともに復調した大瀧だった。

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[page_break:見えない呪縛から解き放たれた岩井監督の一言]

見えない呪縛から解放させた岩井隆監督の一言

第97回選手権大会2回戦・三沢商戦でランニング2点本塁打を放つ大瀧 愛斗選手(花咲徳栄高等学校)

 ところが、夏の選手権が目前に迫るなか、再びスランプに陥ってしまう。
埼玉大会が始まる1週間くらい前から、バットにボールが当たらなくなってしまったんです。里見にもフォームを見てもらったんですけれど、全然、理由が分からなくて。それで、初戦の4日前くらいに、岩井監督に『ちょっと来い』と呼ばれて。打順を下げるとかそういう事を言われるのかなと思って、おそるおそる行ったんですけれど、監督は『夜の自主練で、お前が最後までバッティング練習をしている事を、俺は知っている。そして、チームの中で一番厳しく指導してきたけれど、それはお前ならできると思っていたからだ。だから、今までやってきた事を信じて、自分の事を信じて頑張れ』と言ってくれたんです」

 この一言で、見えない呪縛から解き放たれた大瀧は、人が変わったように打ち始めた。
「翌日のバッティング練習では、バットを振ったらほとんどホームランという感じで。自分でも信じられないというか、ビックリしたんですけれど、本当に急に変わったんです」

 この埼玉大会で、大瀧は打率.455、2本塁打、9打点を記録。入学時、先輩の若月 健矢から「岩井監督を信じろ」と諭された大瀧が、最後の夏に、その岩井監督から「自分を信じろ」と言われて調子を取り戻したのは、果たして偶然だったのか、それとも必然だったのか……。とにもかくにも、大瀧は甲子園の大舞台でも好調をキープ。初戦三沢商戦では、ランニングホームランを放った。

「打った瞬間は『ちょっと上がりすぎたけれど、良いスピンがかかっているから打球は伸びるな』と思っていて。セカンドベースを回ってショートの定位置くらいまで走った時に、まだボールの近くに誰もいなかったので「あ、これは行ける」と思って、ホームを突きました。花咲徳栄では『打った瞬間、全力疾走』を徹底しているのですが、自分も走塁では一歩目のスタートを早く切る事を意識しているので、それが甲子園でもちゃんと実践できたと思います」

 この一歩目のスタートを早く切る意識は、守備面でも効果をあらわしている。準々決勝東海大相模戦では1点リードした6回、この打席まで7打数連続安打だった磯網 栄登の左中間への大飛球に対し、ジャンプ一番、見事なダイビングキャッチを決めた。
「小学生の頃からセンターをやってきているので、ピッチャーが投げたボールのコースを見て、バッターが振り始めた瞬間に反応できるところがあるんですけれど。あの時も、ボールが真ん中寄りの高めに行ったのを見て、一歩目のスタートがすぐに切れたので捕る事ができました」

 また、この試合ではバッティングで密かにリベンジを達成していた。
東海大相模とは、新チームが始まってすぐに練習試合をやっていて。ピッチャーの吉田 凌にスライダーで三振を取られたんですが、実は『絶対にスライダーが来る』と確信していたのに三振させられたんです。

 それで、甲子園で対戦する事が決まって『絶対にスライダーを打ってやる。スライダーを打たないと気が済まない』と思っていたんですね。そうしたら、2打席目に狙い通りスライダーをライト前に打つ事ができて、小笠原 慎之介に対しても一番自信を持っていそうなストレートをヒットにできたので、自信になりました。ただ、この試合は喜びよりも『勝ちたかった』という気持ちが大きかったですね」

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[page_break:プロではオコエ選手を追い抜く!]

プロではオコエ選手を追い抜く!

スイングをする大瀧 愛斗選手(花咲徳栄高等学校)

 大瀧と同じく、走攻守の三拍子が揃った高校生の外野手といえば、関東一オコエ 瑠偉(2015年インタビュー 【前編】 【後編】)選手がいるが……。

甲子園で残した成績を見ても、オコエ選手には負けていないと思っています(大瀧:打率.500/14打数7安打、1走本塁打、4打点。オコエ選手:打率.333/18打数6安打、1本塁打、6打点)。でも、オコエ選手はU-18に選ばれて、自分は選ばれていないし、注目度でも負けていると思うので、それはプロに行ってから絶対に見返してやろうって思います」

 現在、大瀧は来たるべき時に備え、木製バットで遠くへ飛ばす為の練習をしている。
「金属と木製では打ち方が違うんですよね。金属バットでは、スイングの軌道でVの字を描くように振って、ボールに逆スピンをかけて飛ばすんですけれど、木製のバットで同じ事をやるとファウルかゴロになってしまうんです。だから、岩井先生には『きちんと体重移動をして、バットのヘッドを返しながら、ボールを運ぶように打ちなさい』と教えてもらったので、今はそれを意識してスイングをしています」

 最後に、大瀧にプロへの意識を尋ねたが、その思いはかなり強いようだ。
「苦しい時に支えてくれた親や友人に恩返しをする為にも、プロには『なりたい』ではなくて、『ならなくてはいけない』と思っています。もしプロに行けたら、自分の良いところをアピールして代走でも守備固めでも何でもいいのでとにかく試合に出て、1年目から結果を出したいと思っています。そして、打席に立った時も、守備についた時も、ランナーとして出塁した時も、どこにいても魅せる事ができるようなプレーヤーになりたいです」

 大瀧 愛斗は、負けず嫌いな選手だ。だから、誰よりもバットを振るし、誰よりもウエイトトレーニングをするし、誰よりも食べる。そして、一度、抑えられたピッチャーには雪辱を誓い、同じポジションの野手にはライバル心を燃やす。この並外れた負けず嫌いの性格は大きな長所であり、レベルアップの原動力になる。ならば、大瀧が次にどんなステージへ進んだとしても、そこで成長し続けるのは間違いないだろう。

(取材・写真/大平 明


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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