Interview

オリックス・バファローズ 金子千尋投手「『ハイクオリティピッチング』の変遷とベース」

2015.07.21

 前半戦最終登板となった7月13日の千葉ロッテ戦では8回3分の2を投げ3失点(自責点2)。1936年の阪急ブレーブス創設以来1万試合目のメモリアルゲームで白星をもたらしたオリックス・バファローズのエース・金子千尋投手。昨年2度目の最多勝を獲得した右腕が現在の偽らざる心境と、ハイクオリティピッチングの変遷とベースを語る。

「罪悪感」からの巻き返しへ

金子千尋投手(オリックス・バファローズ)

「開幕から投げられなかった罪悪感、悔しさがあります。開幕3連敗で“チームの歯車”のようなものがずれてしまいました」

 前半戦を終えて最下位に終わってしまったチームを振り返る中、金子投手からまず出たのはこのような悔恨の言葉であった。昨年11月の右ひじ骨棘除去手術からの復帰に時間を要し、今季初登板は5月23日。

金子千尋投手(以下、「金子」) 今年に関しては、ひじの状態を最優先しています。去年までは、ローテーションの中で次の試合に向けて調整はしながら、一ヶ月後までを考えていました。でも、今は、先のことは考えられていません。

 マウンド上では淡々と投げ、口調も穏やか。だが、語られる言葉は極めて深刻だ。だからこそ、金子投手は後半戦の巻き返しに強い想いを抱いている。

金子 気持ちをしっかり切り替えて毎日毎日やるしかないですから。

 そこには確たる覚悟がある。

投げ込みを「しなかった」高校時代と「してけがをした」社会人時代

 そんな金子投手といえば、低めを外さない強いストレートと多彩な変化球が持ち味。ただ、高校時代(長野商)は「夏に向けて投げ込みをするという記憶はあまりない」と話す。では、どのように高校時代を過ごしていたのだろうか?

金子 監督(当時の長野商山寺 昭徳監督)が僕に任せてくれていたので、週末に組まれている練習試合にしか投げていませんでした。当時は投げること、特にブルペンで投げることが好きではなかったので。また、野手としても試合に出ていたので、ピッチャーの練習以外の練習を普段やっていて、練習試合でピッチャーの練習をする感じでした。まさに「中六日」みたいな感じですね。
もちろん、ピッチング練習もしますが、これが僕の高校時代の当たり前でした。なので「投げすぎ」で肩を痛めるということはありませんでした。

 ただ、吉見 一起(現:中日ドラゴンズ)ら好投手が居並ぶ社会人野球の名門・トヨタ自動車では、さすがにマイペース調整というわけにはいかない。

金子 ピッチング練習もするようになり、体が追いついていませんでしたね。まわりにすごいピッチャーが沢山いたので、アピールしなければいけないという焦りから、投げ込みなどをして怪我が多くなりました。
高校時代に投げている数が少ないので、そういうことになりました。結果的にそれがあったから今の自分がいると思います。当時は思っていませんでしたが・・・・・・。

 ただ、球質のよさは折り紙つき。そこがオリックス・バファローズの目に留まった。かくして2004年・自由獲得枠でプロ入り。2006年・2007年は中継ぎで経験を積んだ。


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[page_break:フォームを意識して「低め」を編み出す / 変化球からストレートへの意識。そしてアプローチの大事さ]

フォームを意識して「低め」を編み出す

金子千尋投手(オリックス・バファローズ)

 そして2007年後半戦からは晴れて先発ローテーションに入った金子千尋投手。ここで中継ぎ時代から意識下にあったことの「気付き」がその後のピッチングスタイルを決定付けていく。

金子 試合で沢山投げさせてもらうようになってから、低めを意識して投げたり、逆に意識しないで低めに行ったり行かなかったりということがある中で「何がそうさせているのか」を考えて行き着いたのは「ピッチングフォーム」ですね。
投げたくてそこに投げるのではなく、この投げ方ならそこに行くという投げ方をすること。ということは力む必要もなくなるわけです。

 意識を「コース」でなく「フォーム」に置く。常識とは逆の理論。さらに自らの特徴をつかんだからこそ行き着いた結論だ。

金子 僕の場合は、低めに投げようとすると、上体が突っ込んでしまい、肩の開きが早くなり、ボールが抜けることがあるので、低めを意識しなくなりました。さらに「投手は高めの方が強い球がいく」とよく言われますが、僕はそれをうまく利用しようと思いました。そのために、どういう変化球が必要なのか、どういうピッチングスタイルが必要なのかを意識するようになりました。

 僕はフォームの中で無理がなく、何も考えずに投げられれば高めにいきます。立ち投げのような感じで。そうするとリラックスして投げられるようになって、意識してないのに低めに行くんですよ。「あ、この感覚なら低めに行くんだ」と。
この感覚をつかんだことで、下半身を我慢すると上半身がついてきて、しっかり前で放せる。これがはまりました。僕の中でそれが徐々に当たり前のフォームになってきました。

変化球からストレートへの意識。そしてアプローチの大事さ

 加えて、金子投手の意識はフォームに加え、球種にも施されている。

金子 変化球を投げていて「この変化球だと低めにいく」という球があったので、その時のフォームにストレートも近づけるようにしました。よく「ストレートに合わせるために腕を振る」とかあると思いますが、その逆ですね。低めにいく変化球を参考にしてストレートを投げる感じです。

 ここまで金子投手の話を聞いた高校球児の皆さんは、ひょっとしたら疑問に思うかもしれない。「この理論は指導者から教わっている理論とは全く違う」と。
ただ、大事なのはそれぞれの「意識」に対しどのようにアプローチをかけるかだ。

 現に金子投手は、「『低めにいく変化球は何を意識すればできるのだろう』ということを意識していますね。例えば、体をちょっと後ろに残して、リリースを前に持ってくることや、ただリリースを体の前に持ってくるだけではなく、顔の前でのリリースを意識するなどですね」と話した後、「それを自分の中で探す作業が大切」と話している。


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[page_break:技術を支える食と休養で「全力で挑む」]

技術を支える食と休養で「全力で挑む」

 こうしてハイクオリティなピッチング技術の変遷を自ら明かしてくれた金子千尋投手。もちろん、その技術を支えるのは「食」と「休養」である。「野球は体を炎症させるスポーツ」と認識した上で、エースはこの部分にもしっかりと目を向ける。

金子 野球は非日常の動きしかしないので、炎症をそれ以上させない食生活をいろいろな先生から教わって実行しています。僕は本来トレーニングをやらないと不安になるタイプなので、常に何かやっていたいと思ってしまうんです。ただ、そういう時はあまり結果が出ない。特にこういう立場になってからは「やらなければいけない」と思ってしまうんですが、他の選手の立場に立って客観的に考えると、「お前、少しやりすぎだ」と思ってしまう状態。
だから「休む勇気・やらない勇気」も必要です。「今日は普通の練習と治療だけ」というように、メリハリを意識しています。

 そして休養の根幹を司る「睡眠」も。金子投手は現在、遠征用と自宅用でマットレスを使い分け、休養にも万全の策を敷いている。

金子 体をよい状態に保つには寝ることが必要ですし、質のいい休養をとるには同じ時間の中でいかに深い眠りになるかが大切ですから、遠征先はポータブルタイプを持ち歩き、家はオーダーメイドの少し分厚いものにしています。
マットレスにこだわるようになってからは夜中に起きなくなって、しっかり寝た感じになりました。起きた時にいかに疲れが取れているかでパフォーマンスも変わってきますから、今では不可欠なものになりましたし、これがないと寝られない感じですね。

 その先にはオリックス・バファローズと金子千尋投手の後半戦反抗が。

金子 まだまだ試合はあるので、何が起こるかわかりません。かといって先のことを考えてしまうと、よくないので。しっかり自分ができることをやって、目の前の試合に全力で挑む。この積み重ねが結果としていい方向につながると思いますし、はまればすごいチームになると思うので。今は個人が出来ることをしっかりやることが大切です。

 その中心にいるのはもちろんオリックス・バファローズのエース・金子千尋である。

(取材・構成:寺下 友徳


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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