Interview

埼玉西武ライオンズ 中村 剛也選手「スラッガーが語る脱力の思考」

2015.07.06

 7月7日現在、今季78試合で本塁打数25本。さらに、打点も79をマークし、ともにリーグトップの数字だ。過去に5回の本塁打王と、2回の打点王に輝いている埼玉西武ライオンズ・中村剛也選手。大阪桐蔭時代も通算本塁打83本を放って、2002年にプロ入り。今年でプロ14年目を迎えた中村は、チームの不動の4番となり、さらには、日本トップの実力を誇るスラッガーに成長した。
今回は、そんな中村選手のバッティング理論を小関順二氏が深く探っていく。

大阪桐蔭時代のバッティングと比べて

中村 剛也選手(埼玉西武ライオンズ)

 本塁打王5回、打点王2回のタイトル歴がある中村 剛也(西武)は現役プロ野球最高のホームラン打者と言っていい。最もその長打力に注目が集まったのは2011年。この年、反発係数を低く抑えた「統一球」が採用され、プロ野球全体の総本塁打数は前年の1605本から939本に激減した。国際基準に合わせようという掛け声に呼応した結果だが、NPBとMLB(メジャーリーグ機構)の公式球を比べると、MLB公式球の弾みのほうが強かったというマスコミ報道もある(日本の統一球の方が飛ばなかった)。

 セ・リーグの本塁打王はバレンティン(ヤクルト)の31本、パ・リーグの本塁打2位は松田 宣浩(ソフトバンク)2014年インタビューの25本という低空飛行の中、48本塁打をかっ飛ばしてパの本塁打王に輝いた中村の長打力は群を抜いていた。

“記録の神様”の異名を取った宇佐美 徹也氏は『プロ野球データブック』(講談社文庫)の中で、1946(昭和21)年に20本塁打を放って本塁打王になった大下 弘を「2位打者との本数比較も力量が抜けているかどうかを知る一つの方法」と断った上で、「2位飯島 滋弥(セネタース)に8本差をつけた大下のパワーが抜けていることは歴然だ」と書いている。

 さらに大下の20本塁打が「リーグ総本数の9.5%に当たる」と紹介。20本塁打以上放ってこの比率が8パーセント以上を記録しているのは、同書が紹介する1994年までの中では、53年の中西 太(西鉄)9.3パーセント、62年の野村 克也(南海)8.5パーセント、66年の王 貞治(巨人)8.0パーセントくらいしか見当たらない。

 では、中村の2011年の48本塁打はリーグ全体で何パーセントを占めていたのだろう。この年のパ・リーグの総本塁打は454本なので、中村の48本は実に10.6パーセントに相当する(ちなみにバレンティンの31本塁打は6.4パーセント)。歴代の強打者と比較しても中村のホームランを打つ能力は群を抜いて高いと言っていい。

 この中村を大阪桐蔭3年当時、取材したことがある。このときは今とはまったく異なる打ち方をしていた。グリップの位置が高く、バットのヘッドを投手の方向に入れ、下半身は振り子スタイルで打っていた。つまり、無駄な動作が多かった。それがどう変わっていったのか、本人の言葉で紹介してもらう。

「高校のときは打ちやすいように打っていたのでああいう形になったんですけど、ヘッドを入れたりしているとプロのピッチャーに対応しきれないと思ったので、そういうのはやめました。プロに入ったときは無駄がすごく多かったんですけど、やっと気づいたという感じですかね」

 この変化は2008年のことだったという。この年、中村は46本塁打を放って初の本塁打王に輝いている。それより3年前の05年に22本塁打を放って一度ブレイクしているが、翌06年から2年間は9本、7本と推移してプロの壁に泣いている。

「あのときは高校のときにくらべたらヘッドの入り方はそれほどでもなかったと思うんですけど、バットを結構上に構えていて。2005年はたまたまそれで打っていたんですけど、そこから打てなくなったので、それを全部省こうと思って」


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[page_break:ストレートにタイミングを合わせて変化球に対応]

ストレートにタイミングを合わせて変化球に対応

中村 剛也選手(埼玉西武ライオンズ)

 グリップの位置は、現在はヘソより少し上のみぞおちあたりだろうか。高校時代からプロ入り6年目の07年までは耳の上あたりで構えていたので大きな変化と言っていい。
もう一つ興味深いのは好球必打の姿勢である。西谷 浩一大阪桐蔭高監督は中学生球児を見るときの判断基準を次のように話している。

「1球目から振っていける選手かどうか、という点です。ボールを見て、見て、という子はどうしても時間がかかる。(中略)平田や浅村なんか典型的ですよね。彼らは中学の時からそれができていた。技術云々より、性格的なことが大きいと思います」(Number Web「スラッガー養成校の謎を追え」)

 中村はどうかというと、浅村たちほど極端な早打ちはしていない。0ストライクのボールカウント(つまりファーストストライク打ち)からの打数は本塁打王になった08年は114打数、09年は127打数、11年は116打数で、全体の20~25%程度である。これが浅村になると13年は約36%に達する。さらにこの年、浅村の初球打ちは112打数に達している。3ケタの初球打ちは浅村以外ではマートン(阪神)がいるだけである。浅村は打点王、マートンは最多安打に輝いているので、早打ちは好打者の条件と言ってもいいと思うが、中村は早打ちには一定の距離を置いている。

 私が「浅村にくらべると穏やかですね」と言うと、「まあ穏やかですね。見てればわかりますけど」とあの人懐っこい笑顔で返し、「ああいう打ち方ってタイミングが取れないとできないことなので、そういうのは凄いなと思います」と浅村を評価する。

 そのタイミングの取り方については「どのピッチャーに対してもタイミングはしっかり取ろうと思っているし、より一定のタイミングで取ろうとしています」と言う。私が「ステップの出し方なんかは、とにかくフォームを崩さないというのが大事で、始動の動きも小さい動きで投手にタイミングを狂わされないようにというのがあると思うんですけど」と言うと、
「そうですね。どの球種に対してもあまり崩されたくないので。真っ直ぐを待っていて変化球がきても、変化球を待っているかのように振りたいというのがあるので、そこは考えながらやっています」と言う。

 ストレート待ちのタイミングか変化球待ちのタイミングか聞くと、
「基本はストレートにタイミングを合わせます。そこで変化球と思った瞬間にちょっと間(ま)を作ったり、それで振りにいくという感じで」と答えてくれた。

 始動のタイミングは、多くの日本人打者は投手が足を踏み出すタイミングで始動するが、中村は投手がバックスイングで手を下げる動きに合わせて足を上げるので、多くの日本人打者より始動が早い。始動が早い分、投手の動きにタイミングを狂わされる危険性も増すが、上・下半身の動きが小さく、バットは構えた位置からスパッと出ていくので早い始動が欠点にならない。むしろ早くトップの形を作ることによって、投手の動きにゆったりと備えることができる。

「前はそんなの考えてなくて、だいたいのタイミングでやっていたんですけど、ここ何年かはずっとそういうふうにやっていますね」
ミートポイントについては2011年に本塁打王になったとき、大久保 博元・現楽天監督(08年の西武打撃コーチ)の「ミートポイントを投手寄りに置いて打つように」というアドバイスがスポーツマスコミをにぎわせた。そのあたりの心境については一問一答で紹介する。


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ホームランの打ち損ないがホームラン!

中村 剛也選手(埼玉西武ライオンズ)

中村 プロに入ったときは近くで打とうとしてたんですけど、やっぱりそれだと長打も出づらいかなと思いまして。あとプロのピッチャーの球というのはキレも凄くよくて、なかなか捉え切れなかったこともあったので、2008年に大久保さんに、『もうちょっと前で打て』と言われて、2008年は自分の中ではすごくピッチャー寄りで打っていたんですけど。今は特に何も考えてないですね。

――11年は以前よりもポイントがキャッチャー寄りになったのかなと思って見ていたんですが?

中村 どうなんですかね。でも結局ホームランを打っているときのミートポイントって、写真とか見たら、どのバッターもだいたい一緒のところで打ってますよね。

――前でもないし後ろでもないということですか?

中村 はい。右バッターだったら踏み込んだ左足の先あたりで捉えています。引っ張ってホームランを打っているときはだいたいそのあたりで、そこを前というか後ろというかは、見ている人が勝手に判断すればいいと。

 何という力の抜けた考え方だろう。「脱力」というのはピッチングでもバッティングでも最近のトレンドで、打者はインパクトの瞬間だけ、投手はリリースのときだけ力を入れるという考え方を多くの選手が口にするが、考え方そのものが脱力しているという選手は多くない。
この中村 剛也で驚かされたのが「ホームランを狙って、その打ち損ないがホームランになる」というかつての発言だ。その真意を問うと、こんな答えが返ってきた。

中村 ホームランは打ちたいので、ヒットを狙うときも結構あるんですけど、ホームランを狙ってその打ち損ないがホームランだったらいいじゃないですか。
だから完璧なホームランを目指して、そこでちょっとのミスでもぎりぎりスタンドに入ると。

――横浜でやった雨の日でしたっけ(6月5日のDeNA戦)、ちょっとこすった感じでセンターの右側ぐらいにいったあの感じでしょうか?

中村 あれは球場の狭さとか風とかもあって、僕の中ではあれはライトフライ、犠牲フライ的な感じなんですけど。

――もうちょっとちゃんとしたものですか?

中村 そうですね。でもああいうのに近いですね。

 そして高校生へのアドバイスを最後に聞いた。
「しっかり自分で考えて何事にも取り組んだらいいんじゃないですかね。言われるがままじゃなくて。うちの高校はガツガツ教えるという感じではないので、みんな自分で考えてやっていると思うんですけど」

 最後に特上のアドバイスが聞けた。

(インタビュー:小関 順二


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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