Interview

北海道日本ハムファイターズ 西川 遥輝選手「根拠あるプレーを魅せるための準備力」

2015.06.28

 昨季43盗塁で自身初の個人タイトルを手にした北海道日本ハムファイターズの西川 遥輝。その成功率も8割近い高水準だったのだが、それでも本人はシーズン終盤の疲労による失敗が重ならなければ9割近い数字にできたと考えている。盗塁成功の確率を上げる秘訣に迫る。

確信を持った盗塁が出来るための準備

西川 遥輝選手(北海道日本ハムファイターズ)

 西川の盗塁観は非常にポジティブだ。
「僕の場合は一塁に出たら、ここは走らない方がいいというケースを除いて、常に盗塁をするつもりでいて、スタートも切ります。その中で100%セーフになると思えた時だけ、そのまま行くという感じです。僕は一歩目でアウトか、セーフかがわかります。

ピッチャーのクイックの速さ、キャッチャーの送球能力を踏まえて、このスタートだとどうなるか。そこでアウトだと思ったら止まっています」

 100%セーフになれると判断した時だけ走るというスタンスなのだから、実際に100%は無理でも、それに近いものを目指すのは当然で、高い盗塁成功率を実現しているのもうなずける。ただし、100%と縛ってしまったら、かえって慎重になってスタートが切れなくなってしまいそうだが、それだけの練習と研究をしてきたから言えるのだろう。

「よく盗塁するには勇気が要ると言われますけど、自分の中で100%セーフの確信を持てれば失敗のリスクを考えることもないわけで、勇気も要らないんです。高校野球の場合、一発勝負ということで難しさもあるかもしれませんけど、走ってこられるのは相手にとっては嫌ですし、積極的に盗塁していいと思います」

「確信」を持てるようになる。そのためには、まず自分のリード幅を覚える。当然ながら牽制でアウトになることは絶対に避けなければいけないのだが、かといってわずか3秒ちょっとの勝負。少しでもリードは広げておきたい。

「走ることもそうですが、帰塁の速さも人それぞれなので、牽制球が来てもセーフになれるリード幅というのは自分で見つけなくてはいけない。それは練習でも取り組めますし、高校野球は練習試合が多いですから、アウトになってもいいので、どこまでリードを取れるのかを覚えていくことが大切です」

 次にスタート。一歩目は全力でいかないことがポイントだという。
「構えているときの体重のかけ方は6対4か7対3くらいで右足にかけています。動き出しは右足を体の軸の下に一度戻して、左足がそれを追い越していく形です。ただ、これも人によってベストのやり方は違うと思うので、一番スタートが切りやすい居心地の良いバランスとか、反応良く走り出せる動き方を探っていってほしいですね。そのことを頭に入れながら続けていれば、これだというのが見つかると思います。

 それから一歩目の足の蹴りは『がっつかない』というか、100%の力でいってしまうとグラウンドの土が掘れてしまうことがある。ですから、少しゆとりというか、軟らかさを持つようにして、流れるようにスタートを切ろうというふうには考えています」

 スライディングは「近く」「速く」「強く」を心掛けている。
「僕はあまり上手くないんですよね。スライディングで言えば陽(岱鋼)さん2013年インタビュー2014年インタビュー12014年インタビュー2が一番上手いです。スピードが落ちないですし、強い、速いスライディングは陽さんがナンバー1ですね。ただ、ベースの近くでのスライディングは怪我のリスクもあります。僕らはプロなのでそれを背負ってやっていますが、高校生には無理はしてほしくないです。これもいろいろ試して、自分に合ったものを見つけてもらいたいです」


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[page_break:高校時代、二度の骨折を経験するも、今出来ることをやり続けた]

高校時代、二度の骨折を経験するも、今出来ることをやり続けた

西川 遥輝選手(北海道日本ハムファイターズ)

 自分の形を探求する。一朝一夕で得られるものではないが、能力を最大限に発揮するためには最も大事なことだろう。西川 遥輝のそれはスパイクにも表れている。アドバイザリー契約を結ぶアディダスジャパンに刃の位置でリクエストを出したという。

「中央やや上の位置の刃を抜く選手も多いんですが、僕はその刃の引っかかりがほしいんですね。それで、つけてもらいました。きっちり足の型を取って作ってもらっていますし、履いたときのフィーリングが良ければそれでいいんですけど、そこだけはお願いしました」

 見出した形は、実戦で多くの経験を重ねて磨き上げていく。
「最初にも言いましたが、どんどんトライして、ピッチャーのクイックのレベルがこのくらいで、スタートの速さがこれくらいだったらセーフになる、アウトになるというのを自分の中でわかるようになるのが一番いいと思います。

そういう準備ができるか、どうか。プロみたいに何度も同じピッチャーと対戦するわけではないですから、癖はそんなに見なくていいと思いますし、そこまで速いクイックができるピッチャーもいないでしょうから、高校生ならスタートさえ決まれば高い確率でセーフになれると思います」

 足を速くするためには瞬発系のトレーニング。短い距離のダッシュや、ハードルを跳んだり、台の上にジャンプで上がる方法などもプロ入り後に行ったという。ただし、必ずしもすぐに効果が出るわけではないということと、瞬発系のトレーニングは体にかかる負荷が大きいだけに、十分な準備と計画性を持って臨む姿勢を忘れてはならない。

「スライディングもそうですけど、高校野球は2年半と期間が限られている。それだけに、もったいない時間は過ごしてほしくない。防げる故障は防いでもらいたいです」

智辯和歌山高校時代、二度の骨折をしている西川らしいエールだが、当時、怪我とはどのように向き合っていたのか。バッティングもできない、ボールを投げることもできない。モチベーション維持が難しかったはずだが。

「いえ、あまり落ち込んではいなかったですね。怪我をする箇所にもよりますけど、足だったら座りながら打つことができる。トレーニングだって、たくさんできる。その時その時で、できることは数多くあると思います。怪我をしても、何もできないわけじゃない。怪我をしたところをケアするために、他の筋肉で補うためのトレーニングをしてもいい。怪我や故障をしてしまっても、落ち込むことはないと思います。

 僕の場合はやれることは走ることしかなかったのですが、ずっと走っていました。それで下半身が鍛えられて、バッティングにもいい影響が出たと言えたらいいのですが、そこはなんとも分かりません。ただ、メンタルは強くなったと思います」

 体のケアに対する意識も高まった。
「プレー中の怪我は仕方がないと思いますが、故障は自分がしっかりと準備をしたり、ケアなどを行うことで防げたり、程度を小さく収められることもある。プレー中に二度骨折するなど怪我はありましたが、筋肉系の故障はしないようにと思ってやっていました。

 僕は怪我と故障は違うと考えていて、怪我は突発的で防げなくても、疲れがたまっているのに何もせずに肉離れを起こしてしまうとか、そういうものに対してはやれることがある。そこは自分ができる精一杯の準備をするべきじゃないですかね」


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西川流コンディショニングケアの方法

西川 遥輝選手(北海道日本ハムファイターズ)

 厳しい練習で知られる智辯和歌山なだけに、西川 遥輝も疲労を感じながら汗を流す日々を送っていた。だが、故障をしてからでは遅いと、近くの整骨院に通うになった。

「2年生くらいだったと思います。体の疲れが抜けにくいタイプでしたし、関節も硬い方だったので、きちんとケアをしないとダメだなと。夜9時、10時と遅くても診てもらえるところがあったので練習が終わってから行くようになりました」

 長丁場のペナントレースを戦うプロに入ってからは、一層、コンディショニングに気を遣うようになった。
「体が疲れていると感じたら早く寝たり、あとはお風呂での半身浴。もともとお風呂が好きなのですが、ファンの方に入浴剤をいただいたりもするので、それを入れて湯船に浸かりながら本を読んだり、リフレッシュできる時間にもしています。

 熱いのが好きなので43度くらいのお湯で、その日の気分によるのですが20分くらいは入っていますね。お風呂から出た後はストレッチも欠かしません。自分の中で決まったメニューがあって、疲れを抜けやすくしています。ストレッチはお風呂上がりにやるとすごく気持ち良いんですよね。ただ、時間は20分もやっていません。長い時間にしてしまうと面倒になってしまったり、続かないので。こういうことは毎日、継続することが大事です」

 誰にでもできる当然のことを、いかに積み重ねていけるか。実はそうしたところが大きな差を生むのだろう。そしてもう1つ、おろそかにしてはいけない“当たり前”が食事だ。

「僕は高校生のとき、夏場は全然、食べられませんでした。暑さがしんどくて、つい水分を過剰に摂ってしまっていたんです。水分でお腹が膨れてしまって、ご飯が食べられない。結果、疲れが抜けない。体がフレッシュに戻らないので、またしんどくなる。その悪循環でした。

疲れた状態だと怪我もしやすいわけで、ちゃんと食事を摂ることはその防止にもなる。あまり重要だと感じていない球児もいるかもしれませんが、食事はプロに入ってもすごく大事だと実感しています。それも1つの準備だと思います」

 インタビュー中、西川は何度も「準備」という言葉を口にした。生まれ持った足の速さもあるのだろうが、西川がプロで盗塁を武器にできているのは、それ相応の理由があるのだ。「勝敗は試合が始まる前に7割決まっている」と話す強豪高校の指導者もいる。何をするにしても、しっかりとした準備ができたか、できなかったかによって結果は変わってくるのである。

(インタビュー/鷲崎 文彦


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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