Interview

佼成学園高等学校 小玉 和樹投手【後編】「『春都大会準優勝』の先にある『41年ぶり』夢舞台」

2015.05.15

 高校生規格を超越した1年生・清宮 幸太郎早稲田実・一塁手)の出現により、例年以上に沸いた春季東京都大会。そんな激戦区でノーシードから名門・帝京試合レポート)、センバツ帰りの東海大菅生を倒し(試合レポート)大会準優勝。4年ぶり3度目の関東大会出場を決めたのは19661968年春、1974年夏に[stadium]甲子園[/stadium]出場経験を持つ古豪・佼成学園である。

 その原動力となったのは168センチのエース・主将の右腕・小玉 和樹投手。準決勝まで4試合連続完投勝利。特に準々決勝では優勝候補と呼び声が高かった帝京打線に対し1失点。準決勝では東海大菅生に対して5点を失っても、粘りのピッチング。そして5月16日から開幕した関東大会ではいきなり昨秋の関東大会ベスト8東海大甲府と対戦。強打者揃う東海大甲府打線相手に4失点完投勝利で、ベスト8進出を決めた。昨秋都立篠崎相手(試合レポート)のコールド負けから大きく成長した姿を披露した。

 では、なぜ彼は春に飛躍を遂げることができたのか?後編では春の収穫とこれからの課題、そして夢について語って頂きました。

手にした「制球力」を配球に活かす

小玉 和樹投手(佼成学園)

 3月8日・練習試合解禁。新フォームの効果はてきめんだった。

「同じフォームで投げ続けることができたことで球数が減りましたし、ボール球が少なく、思い通りに打たせて取ることができました。以前は三振を多く取ることにこだわっていましたが、この時は取れればいいかなというぐらいの感覚。内野ゴロを打たせてとっていこうと常に考えて投げて、打ち取れるようになったんです」
 

 手にした「制球力」配球も昨秋までとは一変した。

「単打OKという考え方になりましたね。1ストライク、0ストライクから甘めに投げて引っかけさせるために配球面を工夫したり、何でもかんでも良いところに投げるだけではなく、ボール球を打たせる組立てをするように捕手と相談するようになりました。また真っ直ぐでもスピードを変えたり、場面に応じて、思い切り投げる場面と、7、8分の力でコースを投げ分ける場面とを分けたり、視野は広くなったと実感しています。やっとなんですけど、見られるようになりました」

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[page_break:「割り切り」と磨いたストレートで駆け上がる]

「割り切り」と磨いたストレートで駆け上がる

小玉 和樹投手(佼成学園)

 かくして自信を持って臨んだ春季都大会。初登板の3回戦法政大高戦で1失点完投勝利と小玉 和樹は上々の滑り出しを見せる。秋季都大会4強相手に唯一の失点は3回裏二死三塁からの適時打。が、これもエースにとっては「計算済」の出来事だった。

「不用意にストライクをとりにいった点は反省ですが、あの場面、四球でためて逆に一、三塁になるよりも、打たれて二死一塁になったほうがチーム的に良かったかなと今になって思います。藤田監督には序盤の失点はOKといわれていましたし、1点にとどめることができて切り替えができるようになりました」

 チームへの痛手を最小限に留めたことにより佼成学園打線は、6回表に逆転に成功し、4回戦進出。

 4回戦八王子戦でも小玉 和樹の精神状態は安定していた。
「相手の横森 拓也投手も良くて、なかなかヒットを打ってもらえない試合でした。でも、その中でも抜くところを抜いたし、四球もなかったので、リズム良く投げられました」
結果は2試合連続1失点完投につながる。

 そして準々決勝の相手は名門・強打を誇る帝京。球場は両翼91m・中堅116mと狭い[stadium]明治神宮第二球場[/stadium]。オーバーフェンスの危険も高い。普通の投手ならば「ホームランだけは打たれたくない」と考えるのが当然である。

 しかし、ここでも小玉は割り切りの発想を駆使した。

帝京打線ならばホームランは1本、2本出ると思ったので、捕手と相談して『ホームランは2本まで』と話し合っていたんです。ただ、もちろん打たれても本塁打はソロ、2ランまでですよ。この割り切りができるようになりましたね。気持ち的に楽になりました。ホームランに気を付けようとして、四球で走者をためて一発を打たれて大量失点は最悪ですから。
結果、初回にソロ本塁打を打たれましたけど、そこで割り切れたのが、大きな勝因だと思いますね」

 心に加え、技術も輝いた。磨いてきたストレートで2回以降、帝京打線を手玉に取る小玉。
「力のある真っ直ぐをコーナーであったり、高めのボール球でも振らせられたり、あとはやはり遅い変化球を、しっかりとカウントを稼いで効果的に真っ直ぐ打たせることができたのはよかったですね」

 4安打1失点完投。理想通りの投球ができた帝京戦であった。

 そんなエースの成長を最も近くで見てきた藤田 直毅監督はこう小玉のことを讃える。
「本人にとって自信になった大会だと思います。それは野球選手としてターニングポイントになったと後に語れるぐらいの大会だったのではないでしょうか」

 手にしたものは4年ぶり3度目の春季関東大会出場権。2012年夏の西東京大会決勝戦日大三を9回二死まで追い込んだ先輩たちの実績を超える道を佼成学園は歩んでいる。

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関東大会出場で得た「反省」と「視野確保法」

小玉 和樹投手(佼成学園)

 ただ、小玉自身は全く満足していない。準決勝東海大菅生戦では5失点完投。チームは目標の関東大会出場を決めたとはいえ、小玉にとっては反省が残る内容だったからだ。
「絶対に負けられない試合で3回まで6対0と先行してくれた中、7回裏の4点は気持ちが緩んだのかなと思います。結局、最後まで集中しきれなかったのが反省点ですね」

 では、都大会7試合を通じての反省点とは?

「去年までと感じ方が変わってきたというか。去年は強い相手と戦っても、自分から集中が切れて自滅する感じで、何も残らなかったのですが、今では投げながら抑え方を、試合中に感じとっています。ここまでの投球ができて自分自身、視野が広がったと思います」

 多くの球児が憧れるワード「視野を広くする」。冬の苦闘、春の経験を経て小玉 和樹はその方法論まで到達することができた。

 ではどうすれば視野を広げられるのか。
「ボールが先行したときに、わざとロージンを触って自分から周りの選手1人に1人に声をかけるようにしています。間をとって、野手に頼むぞと、自分の中で一人にならないようにやりました。そうなると、こういう投球をしたいというのが見えてくるんです」

 この感覚はきっと夏にも活きるはずだ。

群雄割拠の夏・西東京大会へ向けての「成長計画」

 こうして佼成学園にとっては上々の結果に終わった春の都大会。しかし、夏の西東京大会で頂点を極めるにはまだまだ高い壁が待ち受けている。

 特に今年の西東京は打者のレベルが非常に高い。小玉は8回表途中からの登板で無失点に抑えたものの、決勝戦では27安打25得点4本塁打、大会6試合で13本塁打を放った強力打線・日大三

一方、大会3本塁打の加藤 雅樹(3年)、和製ベーブ・ルースと呼び声が高い清宮 幸太郎(1年)のスラッガー2人をそろえる早稲田実業。さらに140キロ右腕を打ち崩す打力がある都立日野など。

 が、「打撃は甘い球でも打ち損じを誘うような攻め方ができれば、アウトはアウトです。厳しいところに投げても打者がそのコースを狙い球にしていたら打たれますし、そこが投球の難しいところでもあります」
と語る小玉 和樹もそこは心得ている。来る夏までの成長計画もしっかりと見据えている。

「夏までの課題は相手打者にフルスイングをさせない投球ですね。詰まってでも長打にすることができる打者が多いので、やはりコーナーと緩急を使って、狙い球を外す投球が必要です」

 かつ持ち味は失わない。
「一番大事なのは自分にとって自信のあるボールで打ち取れる配球を組み立てること。自分の良いボールは真っ直ぐ。相手の手が出ない真っ直ぐが理想なので、そこまでいく過程として変化球をうまく使って、速いと感じさせる投球を心掛けています」

 正解というものがない配球。一定のコースへ投げ分ける制球力をベースに何を打者に印象付けるのか?その思考も頭に入れた中、彼の投球は新たな高みへ到達しようとしている。事実、5月のゴールデンウィークに行われた練習試合では最速143キロを記録。本人は「調子はまだまだ」と話すが、「勝てる投手」へと成長した168センチ右腕の進化は留まるところを知らない。

 その先にあるものは、3年越しの「あとワンアウト」。そして40年の時空を超えた「佼成学園・41年ぶり2度目の夏の甲子園出場」。OBたちの願いを叶え、自らの夢を現実にするために、今日も小玉 和樹は前を向く。

(インタビュー・文/河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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