Interview

宮本 慎也氏【前編】「走る意欲は大きなアドバンテージになる」

2015.04.23

 現役時代、遊撃手として6度、三塁手として4度ゴールデングラブ賞を受賞。打ってもシュアな打撃で、大学・社会人を経由しながらも通算2千本安打(2133安打)を達成した元東京ヤクルトの宮本 慎也氏。常に次の塁を狙う積極的な走塁でもチームに貢献した。PL学園高時代は2年夏に全国制覇を経験し、同志社大、プリンスホテルでも中心選手として活躍と、アマチュア時代の経歴も華やかだ。

 現在は野球評論家をはじめ、幅広く活躍中の宮本氏に、走塁に関するご自身の経験や、球児へのアドバイスなど、じっくり語っていただきました。

“仕方ない”では済まされなかったプロの世界

宮本 慎也氏

 プロの世界に飛び込んだ者は誰しも“プロの洗礼”を受けるといわれる。94年のドラフト2位でプリンスホテル(00年限りで解散)からヤクルト(現東京ヤクルト)に入団した宮本 慎也氏も、プロ入り間もなくはアマチュアとの違いを感じたという。

「体力面や打撃面でも先輩たちとは差があると思いましたが、一番は走塁でした。たとえばファーストライナーで、一塁走者がベースに戻れずにアウトになった時、アマチュアなら“仕方ない”で終わりますよね。でもプロでは、ヤクルトでは、それでは済まされなかったのです」

 当時のヤクルトの監督は「ツバメ軍団」を3度の日本一に導いた名将・野村 克也氏。走塁においても高いレベルを求めていたのだろう。そうした環境で選手時代を送ったからか、宮本氏は走塁に対して厳しい目を持つ。

「今年4月1日のヤクルト対阪神の試合でこんなことがありました。場面はヤクルトが1点を追う8回一死一、二塁。川端 慎吾市立和歌山商高出身)が打った右翼フェンス際の飛球を、福留 孝介PL学園高-日本生命出身)が捕球する仕草を見せたんです。これを見た二塁走者の荒木 貴裕帝京三高-近畿大出身)は右飛と思い、二、三塁間からベースに戻り、タッチアップに備えました。しかし福留が捕球の体勢をしたのは、実はフェイクで、打球はフェンス直撃打に。スタートが遅れた荒木は本塁で憤死しました。

 確かに風もあり、判断が難しかったでしょう。そのため、荒木を擁護するコメントも多かったようです。ですが、一死ですからね。ここはセオリー通り、二塁走者の荒木は、ハーフウェイでなければならなかった。無死ならタッチアップ、一死ならハーフウェイという基本を見落としていたのが、生還できなかった要因だと思います」

 話を戻そう。失敗が許されない中、宮本氏はすっかり、積極的な走塁ができなくなってしまった。「無理に次の塁を狙わず、安全に安全にという意識でしたね。とにかく怒られないようにしてました」と述壊する。そんな宮本氏が変わったのがプロ入り3年目。ちなみに宮本氏はこの年、遊撃のレギュラーに定着し、初のゴールデングラブ賞を獲得している。

「僕はそもそもホームランバッターではないし、プロで生き残っていくには、もっと走塁に興味を持たなければと気付きました。ただマークされた中で盗塁できるほどの脚力はなかったので、ならば盗塁ではなく、走塁で勝負しようと。そこから、ちょっとでもスキがあれば、先の塁を目指すようになったのです」

 走塁で影響を受けたのは同僚で先輩の飯田 哲也選手(拓大紅陵高出身、現福岡ソフトバンク守備・走塁コーチ)だった。宮本氏は「飯田さんの走塁はよく見てましたね。スライディングも参考にさせてもらいました」と話す。

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勝つための走塁特集
[page_break:偽装スタートの積み重ねが勝敗を分けることも]

偽装スタートの積み重ねが勝敗を分けることも

宮本 慎也氏

 PL学園高、同志社大、プリンスホテルとアマチュア野球のエリートコースを歩んできた宮本氏。だが意外にも「ベースランニングをしたり、ゲームノックでランナーについたりと、走塁の基本的な練習はやりましたが、アマチュア時代は細かい指導を受けたことはない」という。

「僕らの時はまだそういう時代だったのだと思います。今は高校野球でも、自分らの時よりもきっちり走塁練習をしているし、意識やレベルも高いように感じます。特に昨夏の甲子園大会優勝した大阪桐蔭高がそうでしたね。僕は決勝を球場で観戦したのですが、リードの仕方といい、プレッシャーのかけ方といい、やはり全国制覇するチームは走塁においてもひと味違うと感じました」

 ただ、アマチュアとプロでは当然、走塁のレベルは違う。プロという修羅場で19年の選手生活を送り、オリンピック(04年、08年)やWBC(06年)といった国際舞台でもプレーした宮本氏に「その経験を踏まえて、走塁面で高校球児にアドバイスはありますか?」と訊ねると、こんな答えが返ってきた。

「1つは塁に出たら、たとえ走らなくても“走るぞ”というのを相手に見せることです。たとえば一塁走者がスタートを切れば、ショートは1歩、二塁ベースの方に踏み出します。すると踏み出したことで、三遊間に飛んだゴロに追いつけず、ゲッツーになったはずの打球がヒットになることもあるんです。1球1球スタートを切るのは、確かにしんどいかもしれません。でも、その積み重ねがこうした結果を生み、それが試合の勝敗を分ける。野球ではこういうことがたくさんあります。

 そもそも野球は、打った、投げた、それだけで決着がつくスポーツではありませんからね。1球1球、偽装スタートすれば、必然的にけん制球をもらうことが多くなりますが、相手のプレーが増えれば、それだけ相手のミスが起きる確率も高まる。これも覚えておいてほしいですね。それに偽装スタートは足が遅くてもできます。ですから、是非チームとして取り組んでほしい。打撃や守備の練習は個人でもできますが、走塁練習はチームでやらないと、実戦的な状況も作れませんからね。

 その結果、“走る意欲”がチームに浸透すれば、相手は守っていて重圧を感じるし、警戒するようにもなる。戦う上で大きなアドバンテージになるはずです」

 前編では、宮本氏がプロで生き残るためになぜ走塁にこだわるようになったのかという理由を聞かせていただいた。後編では普段の走塁練習で意識すると、より走塁がレベルアップする考え方などを教えていただいた。語る言葉の一つ一つに説得力のある今回のインタビュー。後編もお楽しみに!

(インタビュー・文/上原 伸一

勝つための走塁特集

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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