Interview

札幌日本大学高等学校 山本 龍之介投手「3年計画最終年 才能開花の時」

2015.03.30

 今年の北海道を代表する投手と呼ばれるのが札幌日大山本 龍之介だ。182センチ80キロと均整の取れた体格から投げ込む140キロ台の速球が高く評価されている。
しかしそんな彼の成長過程を知る者は少ない。入学当時のエピソード、札幌日大に進むきっかけ、これまでの成長過程に迫った。

中学時代から光っていたマウンド上での立ち振る舞い

山本 龍之介選手(札幌日大)

 プロ注目の右腕がひと冬越えてパワーアップした。札幌日大山本 龍之介投手(3年)は3月21日の実戦初戦で自身の変化を実感した。
関東遠征前の調整登板。ほんの軽く投げたはずのボールが自己最速にあと2キロと迫る139キロをマークした。

「力を入れず、フォームを意識して投げただけだったので」
と山本自身が一番驚いた。体と心を鍛えた3年計画の最終年、才能が一気に開花しようとしている。
入学時は、もやしのように体が細く、体の固い選手だった。身長180センチで体重は70キロ弱。それでも森本 卓朗監督は札幌真駒内リトルシニアで投げていた時から山本に無限の可能性を感じていた。

「マウンド上の立ち振る舞い、立ち姿が綺麗でした。間違いなく、将来プロに行く子だなと思いました」

 日大出身の森本監督の同期には巨人・村田 修一2013年インタビューやヤクルト・館山 昌平2008年インタビュー関連記事らそうそうたるメンバーがいる。一流選手とプレーしてきた指揮官の目に狂いはなかった。2年春に背番号1で公式戦デビューすると、プロのスカウトから注目を集め、練習見学に訪れるスカウトもいる。

 この2年間、体重増加と股関節などの柔軟性を養う努力を続けてきた。高校入学と同時に、小さかった弁当箱を容量2リットルの大きなものに変えた。さらに、練習後にはプロテインを摂取したり、おにぎりを食べて、空腹の時間を減らした。1年の冬には体重が75キロまで増加。
「入学時に比べると、ストレートの重さと質が変わりました。フォームにも安定感が出てきて、どっしりしたフォームになりました」と山本は着実なステップアップを振り返る。

 さらにこの冬には、ウエイトトレーニングで徹底的に下半身をいじめ、身長182センチ、体重80キロの均整のとれた体を手に入れた。ユニホームは、太もも部分がはちきれそうなくらいピッチピチだ。
「ウエイトで下半身を重点的に鍛えた結果です。去年はユニホームがブカブカでした。親にも体つきが変わったねと言われます」と山本は胸を張る。

 もうひとつの課題だった柔軟性も大幅に改善された。森本監督が説明する。
「年単位で継続しなくてはいけないことなので、時間がかかるだろうと思っていました。入学時は股関節が固く、体重移動がスムーズに出来なかったのですが、かなり良くなりました」

 自宅でもストレッチを欠かさず、毎日地道に積み重ねた努力の結果だ。股関節の柔軟性が向上したことにより、頭と体が合致。理解はしていても、なかなか体で表現できなかった理想のフォームにやっと辿り着いた。

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打ち込まれて変わった意識

山本 龍之介選手(札幌日大)

 山本が理想とする投手は、オリックスの金子 千尋だ。「コントロールが良くて、どんな球種も勝負球になり、幅広い投球ができる。ああいうピッチャーになりたいです」と憧れの言葉を口にする。「全部が自信のある球になれば、抑えられますから」と動画で金子の投球を見ながら自分の投球に置き換え、イメージをふくらませている。

 元々は、金子とは正反対の投球スタイルだった。最も自信のある直球を軸にして、スライダーを交えるシンプルな配球が基本。変化球に苦手意識があったため、これまでの大会ではカーブもほとんど使わなかった。だが、昨秋以降、スプリットとカーブの練習に時間を割いている。「武器であるストレートを生かすためにも緩急を使えたら」と意識が変わった。

 転機となったのは、昨夏の南北海道大会準決勝の東海大四戦だ。5回に2番手で登板し、1イニングで6点を失った。

「力が入って、高めに浮いたストレートを打たれました。力を入れた真っすぐではなく、軽く投げて低めに伸びるような球を投げないといけないと思いました」
と振り返る山本。スピードガンに表示される球速の追求ではなく、打たれない直球を意識するようになった。

「投げる直前までは力を抜いて、リリースで100%の力を出せるように心がけています」と理想を追い求める。同時に、新球・スプリットの習得にも取り組み始めた。

 山本の意識の変化を森本監督は高く評価している。
「あの試合をきっかけに変わりました。それまでは、真っすぐにこだわって、真っすぐだけに意識がありました。嫌いなもの(変化球)もやるというのは、探究心が出てきたということ。人としての成長を感じます。欲があると伸びますから」
と目を細める。

 忘れられない2年夏の敗戦について山本は「得るものがありました。いい経験でした」と語る。そう言い切ることができるのは、あの体験を絶対に無駄にしないという強い思いがあるからだ。
「ピンチの場面で、バッターしか見ていませんでした。周りが見えずに、自分だけの世界に入っていた時、先輩から声をかけられたんです。“周りを1回見た方が楽になれるぞ”って」

 以来、ピンチの時には必ず空を見上げる。そしてリラックスして、力を抜く。
肉体ばかりではなく、精神的にもたくましくなった山本は、昨秋の北海道大会で大きな成長を示した。準決勝北海戦に先発して9回7安打3失点、9三振を奪った。九回表に奪われた勝ち越し点は、味方のダブルエラーで失ったものだった。

「力的には相手と変わりませんでした。今の自分は通用するんだと感じました。低めの制球力がつけば、長打もピンチも防げると思います」
甲子園ラストチャンスとなる3年夏に向けて、収穫と課題がはっきり見えた。

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[page_break:野球でも生活面でも手本に]

野球でも生活面でも手本に


森本監督(右)と山本 龍之介選手(札幌日大)

 今夏までに球速145キロ越えを予測する森本監督が山本に求めるものは、負けない投手になることだ。
「球が速いに越したことはないですが、チームを勝たせることができる投手になるには、数字に表れない部分が大事です」
と話す。それはチームメイトの信頼感を得ることや、ここ一番での勝負強さや粘りを指している。

 山本の自覚は十分だ。「野球の面もそうですが、生活面でも他の選手の手本になるように一番努力すれば、信頼は得られると思います」とサラリと言う。いかにも優等生発言に聞こえるが、札幌日大に入学を決めた動機を知れば、自然に出た言葉であることがよくわかる。

 中学3年の夏、山本が[stadium]札幌円山球場[/stadium]を訪れた時のことだ。南北海道大会決勝で札幌日大札幌第一が死闘を繰り広げていた。6対5で札幌第一が勝利したこの試合、山本の心に響いたのは、喜ぶ札幌第一の選手の姿ではなく、スタンドにいた札幌日大のベンチ外選手だった。

「応援する姿や観客への対応が、高校生とは思えないくらいに素晴らしいものでした。地元なのに名前くらいしか知らなかったのですが、この高校で野球をやろうと、その時に決めました。普通は勝った方に行くのでしょうけれど」と笑う。

 人々から応援される魅力あるチーム—。森本監督が実践するチームづくりに共鳴した山本は、野球以外の活動にも全力投球してきた。学業では常に学年トップ20を維持し、この冬からは週1回、登校時にゴミ拾いを行っている。体づくりと心構えの2つを山本育成プランの中心に据えてきた森本監督は「元々しっかりやっていますが、現状に満足するとそれが限界になってしまいますから」とこれまでの取り組みを評価しながらも、さらなる成長を期待する。

 最後の夏、山本はもちろん甲子園のマウンドに上がるつもりでいる。
「過信ではないですが、やるべきことをやれば必ず行けると思います」と力を込める。仲間と一緒に聖地でプレーしたいという強い思いとともに、甲子園で自分の力を試したいという気持ちもある。将来の目標はプロ野球選手。甲子園で活躍し、大学で活躍して、プロ入りという青写真を描いている。

「夏に向けて一回り大きくなれば、全国でも勝てるピッチャーだと思っています」と森本監督の期待も大きい。心技体をバランスよく鍛えて迎えた3年計画の3年目。すべての条件は整った。雪解けとともに、才能開花の時は近づいている。

(インタビュー・文/石川 加奈子

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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