Interview

英明高等学校 田中 寛大投手【後編】 テーマは「力みのなさ」と「調子が悪いなかでも勝つ」こと

2015.03.19

 何かを変えたい!と思って取り組んだのが「ライアン投法」だった。この投法を武器に、みるみる球速が伸びていった田中寛大。そしてフォームに手応えを得た田中は、四国大会優勝を導く投球を見せる。そして一冬超えて、田中はどんな投手を目指しているのかについて語ってもらった。

夏の経験を糧に「悪い中でも結果を出す」

田中 寛大投手(英明高校)

――昨夏はエース左腕・赤川 大和投手(駒澤大進学予定)の故障で、初戦の先発指名を受けました。

田中 寛大投手(以下、「田中」) 赤川さんが故障していたのは判っていたので、投げる準備はできていました。

――結果は2失点完投。ただ、チームは高松桜井に完封負けで初戦敗退でした。

田中 公式戦の先発は初めてだったので、腕を振って投げるだけでした。ですので、自分のピッチングはできていませんでした。が、その中でも2点に抑えられたことはよかったと思います。

――ここでの球速は?

田中 最速140キロです。

――13キロ上がったわけですね。この経験があって、新チームで取り組むことも定まったと思います。

田中 ツーシームの習得へ本格的に取り組みました。ツーシームは夏前から投げ始めてはいたのですが、試合で使えるレベルになかったんです。このツーシームが使えるようになったことで、投球の幅も広がりました。ツーシームがよくなると三振も奪えるようになりました。

――そもそも、ツーシームを習得しようと思ったきっかけは?

田中 スライダーと逆方向に曲がる変化球が欲しかったんです。ツーシームがあれば打者も狙いを絞りづらくなるし、ストレートもより活きてくると考えました。

――このツーシームを使うことに手ごたえを感じた試合はありますか?

田中 「これ」という試合はなくて、練習試合で投げていくうちによくなった感じです。ただ、秋に入ってからの調子はよくなかったですね。秋の県大会初戦藤井学園寒川戦(116球6安打2与四死球4奪三振9回完封)も自分の調子はよくなくて、打線が打ってくれたおかげでたまたま完封できたと思っています。

――それは意外ですね。逆に言えば、調子がよくない中でも試合を作る、結果を出す術を覚えたのですか?

田中 いや、手ごたえはないんです(苦笑)。あえていえば、藤井学園寒川戦より四国大会準決勝高知戦で調子がよくない中でも結果を残せた(8回6安打2与四死球6奪三振完封)ことはよかったと思っています。藤井学園寒川戦は変化球が浮いてストレートも真ん中付近に入っていましたが、高知戦は「ここは絶対変化球低め」というときにその通り決まってくれた。ここぞの時には自分の思ったところに決められました。

――高知戦で「思ったところに決められた」理由は?

田中 四国大会の時は脚を下ろした時のタメの時間を長くしたかったので、県大会より右脚の上がりを小さくしたんです。脚上げを意識しなかったことがよかったかもしれません。それと藤井学園寒川戦ではブルペンでの調子がよくてマウンドに立ったら悪かった。「なんでかな?」と思いながら投げていたんです。
対して高知戦ではブルペンから調子が悪くて「調子が悪いなりのピッチングをしよう」と思って試合に入れました。「スピードはなくてもいいから、低めに集めよう」と思って投げていましたね。

――ということは昨秋のベストピッチは?

田中 高知戦です!調子の悪い時に0点に抑えられたので。

――対して、県大会準々決勝・三本松戦(延長11回・7失点)の時は?

田中 ブルペンでの調子は悪くなかったんですけど、厳しいところを全て打ち込まれました。力のなさを感じた試合ですね。

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[page_break:「力のなさ」を強みに、いざセンバツへ]

「力のなさ」を強みに、いざセンバツへ

香川中央との練習試合初戦で大きく右脚を上げる田中 寛大投手(英明高校)

――今、田中選手が話した「力のなさ」は冬の練習への大きなキーワードにもなったと思います。

田中 自分はこれまで真っ直ぐにこだわりを持ってきたんですが、四国大会明治神宮大会だと140キロ程度のボールでは通用しません。敦賀気比戦(試合レポート)は自分が小学校から野球をやってきた中で一番悔しい試合。調子がよくない中、コントロールを意識していたのに、ボールにしたいところでストライクに入って。自分のピッチングができなかったし、力のなさを痛感しました。ですから、変化球も「ワンバウンドになる変化球」を練習してきました。

――「ワンバウンドになる」……。興味深い発言ですね。もう少し具体的に教えてください。

田中 夏休みから低めを意識して投げることを続けてきた中で、この冬はツーシームをワンバウンドで狙って投げる練習をしてきました。ストレートの軌道で打者が振ってくる中で、スイングしてしまうボールです。

――そういう鍛錬を積んだ末、センバツがいよいよやってきます。改めてどんなピッチングをしたいですか?

田中 先ほど言ったように140キロを投げるピッチャーはいっぱいいるので、センバツではそれ以外の決め球で勝負したい。チェンジアップやフォークも試していますが、練習試合の中で修正していきたいですね。

――フォーム的には修正を施しているところは?

田中 最近意識しているのは腹筋です。これまでは背筋ばかりを使っていたので、手も使いながら全て前で操作するイメージで投げています。キャッチボールからその部分は意識していますね。感触は悪くないですが、あとは打者が立ってどうなるかです。

――正直、センバツへは楽しみが大きいですか?不安が大きいですか?

田中 どっちもありますね。いい打者と対戦できるのは楽しみですが、今のままの制球力ではいい結果は出ないでしょうし。どこと当たっても自分のピッチングができたらと思います。

――そのセンバツを超え、最終的にはどんな投手になりたいですか?

田中 今は下半身も弱いし、前で操作できず背筋ばかりで投げています。腹筋も弱いですし、身体が全くできていないと思っています。まずはそこを鍛えて、軸足にしっかり力を溜めて。身体全体で投げる投手になって、140キロ前半でも球質が変わるようになりたい。センバツ後もそこを続けていきたいですね。

――NPB・MLBの選手で思い描く投手像はありますか?

田中 フォーム的には脚を上げる小川 泰弘さん(東京ヤクルトスワローズ)インタビュー、変化球はダルビッシュ有さん(テキサス・レンジャーズ)です。考え方やイメージとかも僕とは違いますし、スライダーやフォークの握り方は参考にしています。これまで、あまり投げていない球種も本を読んで試してみたりしていますね。しっくり来る球種があるかもしれないので。

――脚を上げるきっかけになった「試してみる」が、そこにつながっているのですね?

田中 そうですね。

――では最後にセンバツでの目標と、田中 寛大投手自身の夢を聞かせてください!

田中 昨秋は県大会四国大会と打線に助けてもらっていたので「今度は自分がみんなを助けて、役に立ちたい」気持ちでここまでやってきました。甲子園では9回の中で1イニングずつ全力を尽くして投げていきたいと思います。
そして自分は野球をやっている限り、プロ野球選手を目指してやっていますが、現時点ではまだまだ力不足。これから技術面でも、精神面でも、肉体的にもワンランク・ツーランク上にいけるよう、必死にがんばりたいです。

――本音で応えてくれたインタビュー、ありがとうございました!

田中 ありがとうございました。

 インタビュー翌日の3月8日・練習試合初戦となる香川中央戦。田中 寛大は147球を費やし6安打2与四死球8奪三振1失点完投。香川 智彦監督も「投手中心で見ていたがもう1つ」と評し、田中も「あれだけ球数が多かったらリズムが悪くなる」と認めるように、決して褒められた内容ではなかった。

 ただし、2回表にワンバウンドを振らせた三振は、正にインタビュー中に出てきた「ワンバウンドツーシーム」。学びの材料を英明の大黒柱は着実に得ている。
「あれはよかったです」。そのことを聞くとわずかに笑みを見せた田中 寛大。「力のなさ」を強みにする左腕は、聖地でも成長の歩みを止めることはない。

(文・寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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