Interview

初芝橋本高等学校 黒瀬 健太選手 「全国区の強打者が目指すは、誰もが信頼する打者」

2015.03.13

 初芝橋本黒瀬 健太(2年)は、4番・キャプテン・捕手としてチームの中心にどっかり座る。人を惹きつける無邪気な笑顔の持ち主で、身長180cm、体重96kgの体格も親しみが持ちやすい。そんなこともあり、芝野監督をはじめとした首脳陣は黒瀬のことを「くろちゃん」と呼ぶ。初対面の人間に対しても、人見知りせず、すぐに溶け込むことができて、すぐに「くろちゃん」と呼ばせてしまうほどのキャラクター性。

 そして人間性の良さを現すエピソードとしては、ハーフスイングのチェックを要求する時、中には塁審を指差すだけの捕手もいるが黒瀬は主審に「スイングお願いします」と丁寧に告げる。そういった態度や愛くるしいキャラクターもあいまって県内での彼の評判は抜群にいいのだ。

 選手としては二塁送球1.8秒の強肩も光るが、何よりの魅力は長打力。ラストイヤーを前に描いたアーチはすでに72本。昨年のドラフトで巨人から1位指名を受けた岡本 和真智辯学園(インタビュー・2014年3月 2014年8月の高校通算本塁打が73本だったからその長打力は間違いなく超高校級。1年時に16本塁打を放ち大器の片鱗を見せつけると2年時に56発とスラッガーとしての素質が開花。複数球団のスカウトが熱視線を送る右の大砲は、昨年最後の練習試合で5打数5ホーマーと爆発し飛躍の1年を締めくくった。
そんな黒瀬 健太の成長の過程を振り返っていく。

当たれば飛ぶ、から全国区の強打者へ

黒瀬 健太選手(初芝橋本)

「今はこうして注目されてますけど、当時は誰もこうなるとは思っていなかったです」

 チームを率いる芝野監督は黒瀬の入学時の印象をこう語る。人懐っこい笑顔と丸っこい体格で誰からも愛されるキャラクターの新入生は、抜群の飛距離を誇る反面、課題も多かった。右手の強さに頼って上体だけで打っていたため最初は内野ゴロばかり。タイミングを取るのも苦手。芝野監督に「軸足を動かすな」と言われると軸足を全く使わずに打つ。

 入学早々に出場機会をつかんでいたが、5月から7月までで放った本塁打は2本のみ。それでも「持ってるスイングは凄まじい」と大きな期待をかけていた芝野監督は黒瀬の課題1つ1つと向き合う。右手はバットを握るのではなく軽く触れるだけとアドバイスを送り、タイミングの取り方や軸足の正しい使い方も覚えさせた。芝野監督は基本的にフォームをいじらない。選手が本来持っている長所を殺しかねないからだ。芝野監督が行ったのは打撃フォームの”改造”ではなく、打てない原因の”排除”。その過程で研究熱心な黒瀬は自分から質問に来る。

「まっすぐ待ってる時に外にスライダーが来ると打てないんですけどどうしたらいいですか?」
対応出来るようになると今度は
「外を待っているとインコースが打てないんです」

捌けるようになると次は・・・課題を克服する度に一歩一歩着実に成長し、今では芝野監督が打撃投手を務め予告無しで変化球を混ぜて1箱投げても空振りが奪えない。

「軟投派でもしっかり待って打てる。こういう体型なのでインコース苦手やろと投げられても捌ける。僕らが見たいのはもっと鋭い変化球、もっと速い球をどうするか」

黒瀬を打ち取るには小手先だけのごまかしでは通用せず、高いレベルの投球が要求される。

 通算本塁打数から豪快な打撃を想像していた人が驚くのは、黒瀬の打撃の柔らかさだ。苦手なランニングにも妥協せずに取り組み8キロ走のタイムは10分以上も短縮。入学時から体重自体にそれほど変化は無いが、明らかにその質は脂肪から筋肉へと変わっている。上体だけの力で打っていた当たれば飛ぶと評判の新入生は、わずか1年半で全国区の強打者となった。

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[page_break:人間性を大きく成長させたキャプテン就任]

人間性を大きく成長させたキャプテン就任

黒瀬 健太選手(初芝橋本)

 黒瀬は主砲としてだけでなく主将としても信頼が厚い。
「周りもよく見えていろんなところに気がついて、頼りになるしチームの支えになっています」
黒瀬の後の5番を打つ椿本 育未(2年)がキャプテンとしての黒瀬をこう評価すると、主戦・和田 佳樹(2年)も、
「練習の雰囲気が悪かったら止めて話してくれるし、まとめるのがうまくてしっかり者」と口を揃える。

 ただ、黒瀬のキャプテン就任はすんなり決まったものではなかったと芝野監督は明かす。
「彼にするかすごく迷った。他のしっかりした子をキャプテンにして黒瀬を副キャプテンにするのか。肩書きの無い普通の部員として伸び伸びやらせる方がいいのか」

 ちなみに芝野監督と共に指導に当たる2人のコーチの意見は、キャプテンではなく副キャプテンだった。それでも芝野監督は「実力よりもリーダーシップとか練習態度で中心になってほしい。地位が人を作る、とも言いますけどキャプテンになったらそれが出てくる」と黒瀬をキャプテンに指名。この読みは見事に当たり自覚と責任が出たことで、それまでは自分のことだけをする普通の選手だったのが周りにも目を配れるようになった。

「キャッチャーは自分が打てなくても仕事がいっぱい。打者・黒瀬よりも捕手・黒瀬を大きくしたかった。バッティングの調子が悪いとすぐ顔に出ていたのが無くなった。自分が打てなくてもリードして抑えると楽しそうな顔をするようになりました」

 全体練習後の自主練習は打撃練習ばかりだったが、今はグラウンドでやる自主練習は9割が捕手としての練習。もちろん寮ではバットを振っているのだろうが守備練習によって下半身が鍛えられたからなのかキャプテンになって以降、打球の質も飛躍的に上昇。[stadium]紀三井寺球場[/stadium]では中田 翔(現日本ハム)(インタビュー・2009年 2014年の170m弾を機に設置された防球ネット、通称中田ネットを越える場外弾を放った。

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[page_break:本塁打量産の秘訣はタイミングとポイント / ラストイヤーにスマイルを全国に届けられるか]

本塁打量産の秘訣はタイミングとポイント

黒瀬 健太選手(初芝橋本)

 自分のタイミングで、ポイントをしっかり前で捉える。黒瀬によればこれが本塁打量産の秘訣なのだという。
「他のチームで長打を打てる選手もいいポイントで捉えてるなぁと思います」
中田ネットを越えた場外弾については「(ポイントを)前で打ったのがわかって、軽かったです。力で持って行くホームランじゃなくてその時のホームランは軽く打てました。気持ち良かったです」
会心の一撃はパワーではなくタイミングとポイントから生み出される。

 冬には芯を少々外しても飛ばせる金属バットではなく、しっかり捉えないと折れてしまう竹バットで練習に励む。
「1年の冬はウエイトをしっかりやって竹バットで打撃練習。監督さんからはタイミングの取り方と足の上げ方を教えていただきました」

 最初は痛くて全然振れなかったと言うが、春になると打球が変わり年間の本塁打数も3倍以上に増えた。この冬は、
「まだ芯で捉える率が悪いんで確実に芯で打てるように取り組んでます。タイミングもしっかり合わせられるようにそこはずっと考えてやってました」

 練習試合解禁となり迎えた今年初の実戦では2打席金属バットで打った後、「ずっと竹バットで練習して、金属バットを持った時にグリップ気持ち悪かったんで」と3打席目からは木製バットで打席に立つ。この冬も金属バットより竹バットの方がしっくりくるほど振り込んだ。

ラストイヤーにスマイルを全国に届けられるか

 黒瀬はどんなに注目を集めても全く驕らず、天狗になるような雰囲気は微塵も無い。

「指導者の方とか、チームのみんなとか、保護者の皆さんに黒瀬やったら任せられるというぐらい信頼される選手になりたいです」
なかなか、「保護者の皆さん」と回答できる選手はそういないだろう。これも初芝橋本が重視する人間性の高さの証明。

 24時間野球がしたい無邪気な野球少年のまま育ち、芝野監督が「ドラゴンボールの孫悟空かDr.スランプアラレちゃんみたいなやつ」と例えるほど強い相手に出会うとワクワクしている。芝野監督はフリー打撃で自らもゲージに入って打つこともあるが、その姿を誰よりも真剣に見つめるのが黒瀬だという。30代後半を迎えた監督がなぜ全力で振らなくても柵越えを打てるのか、その答えを求めて思考を巡らす。秋に敗れた箕島戦のビデオを何度も見直し敗因を徹底的に分析するなど向上心の塊の黒瀬、ニコニコした笑顔の裏には誰よりも強い負けん気と執念を秘めている。

 初芝橋本は14年前の夏に甲子園出場を果たしているが、光星学院(現八戸学院光星)に2対9で敗れ初戦敗退。全国的な知名度は高くなく、実力は超高校級の黒瀬もまだ知る人ぞ知るという存在。全国屈指のスラッガーに残された甲子園出場のチャンスはあと1度だけ。飛び切りのスマイルを全国に届けることが出来るか。長打力と柔らかさと丸っこい笑顔が特徴のくろちゃんがラストイヤーに挑む。

(文・小中 翔太

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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