神村学園高等部 山本 卓弥選手【後編】 「目指すは『相手投手から嫌がられ、仲間から信頼される打者』」
後編では秋季大会で見せた成長の模様、そしてこの冬、どんな課題を取組んできたか。また選抜へ向けての意気込み、目指す打者像を語る。
巧打者から強打者へ
山本 卓弥選手(神村学園)
夏が終わり、新チームでは山本をはじめ、北庄司 恭兵、新里 武臣の投手陣、捕手の豊田 翔吾、内野手の都甲 将央…前チームから主力で活躍した選手を擁する神村学園の新チームはこの年代の優勝候補筆頭に目されていた。だが、新チーム最初の公式戦となった秋の南薩地区大会(8月)では準決勝で鹿児島城西に敗れて、秋の県大会のシード権を逃した。新チームは出だしでつまずいた。
「鹿児島城西とは1年生大会の時にも決勝で当たって負けていたので、強い相手だというイメージがありました。相手の名前にこちらがいつも以上に構えてしまっていて、自分たちの野球を信じきれませんでした。エラーが多くて負けるべくして負けた試合でした」
この負けを糧に、「守備練習を多く取り入れて、守備から攻撃のリズムを作る野球」を心掛けるようになった秋の県大会は危なげなく勝ち上がり、決勝では鹿児島城西にリベンジして、鹿児島を制した。不動の4番に座った山本も主砲としてチームをけん引した。
打撃フォームも、一本足だったのを摺り足に替えたことにより下半身の力を使えるようになった。4回戦の樟南戦ではバックスクリーンに特大アーチを放っている。
「左打者でライトスタンドにホームランを打つ選手は多いけど、バックスクリーンに打ったのがすごい」と小田監督も絶賛する一打だった。
九州大会は準々決勝・東福岡戦、2対5の3点ビハインドで迎えた9回裏に同点に追いつき、延長11回サヨナラ勝ちで4強入りし、2年連続となるセンバツを大きく手繰り寄せた。
昨年から結果を残しているだけに、今年は注目の打者に挙げられる一方で、各チームからも厳しくマークされることが予想される。この冬は「マークされていても打てるだけの勝負強い打者になる」ことを目指して、レベルアップに取り組んだ。
「オフシーズンの間は、バットを振ったり、ノックを受けたり、技術練習を多く取り入れました。ウエイトトレーニングなども全員が積極的に取り組んだので、全員にパワーがついて秋以上にチーム全体が打てるようになったと思います。パワーをつけるだけでなく、股関節周りの柔軟性を上げることも昨年からの課題でした。練習前のアップで重点的にやったことでだいぶ柔らかくなり、打席に入っても、下半身に粘りが出て、変化球なども今まで以上に待てるようになったと思います」
自身の成長ぶりに手応えを感じている。
持っている素質は見てきた中でもナンバーワン
小田監督はこの10年、神村学園の選手を見てきた中で、柿澤 貴裕(現楽天)のような、プロに行くような強打者もいたが、「打者として持っている素質は山本がナンバーワン」と高く評価する。恵まれたサイズに加えて、50m6秒1のスピードもあり、走攻守3拍子そろっている。将来のプロ入りもさることながら「18Uの日本代表も目指して欲しい」と高い目標を掲げることを期待する。
山本 卓弥選手(神村学園)
インタビューの締めくくりに、山本に自身の目指す理想の打者像や打撃論などを語ってもらった。
「得意なコースもありますが、それ以上に苦手とするコースや球種があまりなくて広角に打ち返せるのが僕の持ち味だと思います。2ストライクに追い込まれても、相手の勝負球に対してしっかり身体が反応する。1年生の頃は、ボールを当てにいくことが多かったけど、監督さんからは『お前はそんな打者じゃない。最後まで振り切れ』とフルスイングすることをずっと指導され続けて、今の打撃スタイルができたと思います。
全国では、マークされるのは分かっているので、マークされても打てるような勝負強い打者になる。それがチームの中で僕が求められている役割です。今でも調子が悪い時は、緊張して頭が真っ白になることがあります。それを克服するために、打席でいかに冷静になれるかを練習で意識しています。打席に立つまではいろんな準備をしてリラックスすることを心掛け、いざ打席に立ったら無心になって練習してきたことを信じて強く振ることだけを意識する。そんな打者になることをイメージしています」
前はただ必死でやるだけだったけど、今は凡打に終わっても、自分の良い時のフォームと比べて、どこが悪かったのか、周りにアドバイスももらいながらチェックして修正を心掛けるようになった。山本は調子が良いとき、悪いときのチェックポイントも説明してくれた。
「調子が良い時は、身体の中、おへその前でボールをとらえられています。これが悪い時は早過ぎて突っ込んでしまったり、遅れて詰まったり、身体の外でボールをとらえています。自分がボールをとらえるポイントがはっきり分かるようになりました」
そして最後に自身が目指す打者像とは、
「自分が憧れる選手はオリックスの糸井 嘉男さんです。中学の頃から意識していて、走攻守三拍子そろった選手に自分もなりたいです。相手投手からは嫌がられ、チームメートからは『あいつなら絶対打ってくれる』と信頼される。そんな打者になることを今、目指しています」
巧打者から強打者へ成長した山本。今度は走攻守のすべてを求めて、周りから絶対的な信頼感を得られる打者を目指し、チームをけん引するつもりだ。
(文・政 純一郎)