Interview

埼玉西武ライオンズ 中村 剛也選手「『脱力・効率論』で目指す頂」

2015.02.12

 昨シーズンはチームメイトのエルネスト・メヒア一塁手と共に34本塁打を記録し、2年ぶり5度目となるパ・リーグ最多本塁打のタイトルを獲得した埼玉西武ライオンズ・中村 剛也三塁手。「おかわり君」の豪打は円熟・安定の時を迎えようとしている。

 今年は万全の体調で3年ぶりに開幕から出場を続け、現在リーグ2位の4本塁打(4月16日現在)。体調が万全なら今年もHRキングが期待される日本が誇るスラッガー。その中村選手が今年、挑戦するものとは?そのベースにある、高校球児にも大いに参考となる「脱力・効率論」も含めて検証していく。

2015年の挑戦「開幕一軍」と記した理由

中村 剛也選手(埼玉西武ライオンズ)

「開幕一軍」

 埼玉西武ライオンズ・中村 剛也三塁手が「2015年・挑戦」のテーマとして迷わず記したのはこれであった。なぜ「開幕一軍」なのか?

「僕はここ2年間、けがで開幕戦に出場できていなかったので、そこに挑戦します」

 2013年は左ひざ前十字靭帯・半月板修復手術の回復途上。昨シーズンも背中の張りにより、開幕一軍を逃した。1000試合出場・250本塁打を達成し2年ぶり本塁打王と周囲から見れば輝かしい結果も、「けがをしたことは事実ですから悔しさはそんなにないですが、まだできたと思うことはあります」。これが本音である。
 

 だからこそ、順調に滑り出した2015年、「けがさえしなければ、なんとかやれる」という状況からスタートできる嬉しさと、宮崎・南郷町の陽射しをいっぱいに浴びながら、中村選手は今年もある「ルーティーン」を続けている。

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[page_break:「めいっぱいから力を抜いていく」バッティング理論]

「めいっぱいから力を抜いていく」バッティング理論

中村 剛也選手(埼玉西武ライオンズ)

 フルスイング、フルスイング、フルスイング。2月3日のフリーバッティングにおいて中村三塁手はひたすらに振っていた。力みかえるぐらいに。が、これは本人いわく理想の20%。「僕は楽に飛ばしたいし、力を抜いて効率を上げたいと思っている」過程にすぎない。

「下半身で力を出して、上半身に行って、バットの芯に伝わる。そこを効率よく、ロスなく伝えたい意識はあります。下半身全部から溜めて、伝える感じ」これが、中村選手流、力の伝え方。

「今でも完全につかめているわけではないですが、2008年の途中からちょっとずつできるようになって、2009年からもうちょっとできるようになってきました」

 2008年は46本塁打で大阪桐蔭高卒8年目にして初の最多本塁打タイトルを獲得。ちなみに初の規定打席到達と同時に40本塁打以上を達成したNPB選手は過去に1985年・西武ライオンズの秋山 幸二(当時三塁手・前福岡ソフトバンクホークス監督)、2004年の横浜ベイスターズ・多村 仁(外野手・現横浜DeNAベイスターズ)に続く史上3人目の快挙でもあった。

 そしてこの年、「4番・三塁手」として埼玉西武ライオンズの4年ぶりリーグV・クライマックスシリーズ・日本シリーズ制覇とアジアシリーズ初制覇に貢献した中村選手は、さらに翌年も最多本塁打と打点王の2冠を獲得。上昇カーブは先ほどの弁と見事なまでに一致しているのだ。

「言葉にしたら意味が解らなくなると思うんです。それぐらいよく判らない感覚」と当人も認める世界。ただ、そこに至るまでの積み上げは極めて論理的である。中村選手はキャンプ当初からフルスイングをする訳をこう教えてくれた。
「キャンプ当初は久々に屋外で打つことになるので、感覚のズレとかがあって飛距離が出ないことがあるんですよ。それが慣れてくると力を入れなくても飛距離が出るようになってくる。ですので、最初「めいっぱい」ですることは意識しています」

 徐々に力を入れて最後に最大限の力を入れるのではなく「めいっぱい」から力を抜く。その流れの中で感覚を呼び起こす。中村選手はこうして、アドレナリンが出ても自分をコントロールできる状況を整えていくのだ。

 高校球児におきかえれば、春先になって室内でのティーやマシン打撃中心から屋外フリーバッティングに移行した際や、最後の夏を戦う上で応用できる考え方。頭の片隅に留めておけば、いざという時に役立てることができるだろう。

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[page_break:「こだわりはない」用具にあっても、主義を貫く / 「まあまあ」の先にある栄冠]

「こだわりはない」用具にあっても、主義を貫く

中村 剛也選手(埼玉西武ライオンズ)

 このように「感覚」を養う「効率性」を貫いている中村選手。その動きを司る用具に対しても、主義を曲げることはない。

 例えば驚異的な飛距離を生み出すバット。中村選手のバットは930グラムより重いものを使っているが、これについても
「自分では重いバットを使っている意識もないですし、たまに軽く感じるときもありますが、重いと感じたことはないです。大体、適当に『このくらいのものを作ってください』と言っています」

 というコメントを残す一方で、効率性を出すためのワンポイントは忘れていない。グリップへのこだわりである。

「もともとは4年前に使っていたバットがしっくり来ず、その年の終わりに『もうちょっとグリップを太くして』と要望を出して、出来上がったバットを使っていたんです。ただ、一昨年に規定(バットの太さについて)が変わったのでいったん細くして、バランスを整えながらグリップを太くしました。僕はグリップの太い方が握りやすいので」

 今季、再び三塁手としてのフル出場を狙う武器となるグラブもそうだ。「力が入るとグラブが動かなくなる。力を抜いて、グラブを柔らかく使いたいイメージ」を具現化すべく、手の感覚に近いグラブを中村選手は使用している。

 カッコよさ。それもいい。でも、最終的には自分が最も使いやすい感覚が最も大事。中村選手の用具への「こだわりのないこだわり」はそのことも教えてくれる。

「まあまあ」の先にある栄冠

「意外と個人に興味がないんで……」

 意外な言葉が中村選手から漏れたのは、インタビュー終盤のことであった。「やはり去年はいろいろと悔しかったし、しっかり優勝争いをしないとライオンズはダメ。しっかりやっていきたいと思います」

 25歳の時に味わった栄冠を再び味わいたい想いが、今季の中村選手の身体を突き動かす。では、具体的にチームへ貢献する術とは?
「とりあえずホームラン。いっぱい打っても満足することはないんですけど、自分でシーズンが終わったときに「まあまあ打ったな」と言えるくらいにはしたいですね。それが何本塁打かは判りませんが」

 こう言い切ってスマイルを見せる中村 剛也選手。その身体には「脱力・効率論」で目指す頂への確かな自信が宿っている。

(インタビュー・寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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