Interview

小坂 誠 ファーム内野守備コーチ(北海道日本ハムファイターズ)【後編】「守備の名手しか分からないプレッシャー」

2015.02.04

 前編では、小坂コーチの守備を築いた原点について語ってきました。後編では小坂コーチがプロ入り後どんな考えで守備を磨いてきたかについて語っていただきます。また「守って当たり前」というプレッシャーの中、小坂コーチはどうやって戦ってきたのか。そして改めてプロのショートとして成功した背景を語っていただきました。

常に実戦に即した練習を重ねて感覚を磨くことに努めた

小坂誠ファーム内野守備コーチ
(北海道日本ハムファイターズ)

 小坂コーチの守備は、高校、社会人、そしてプロの世界と経験を積むことによって守備に対する意識が強くなっていく。何故なら、今までの考えでは通用しないと認識していたからである。プロでは通用しないと実感し、感覚を磨く為の反復練習を重ねたことで少しずつ技術力を上げることが可能になった。そのひとつがポジショニングである。

「あらゆる情報からポジショニングを考えます。例えば、右投手対右打者、右投手対左打者では打球の回転や軌道も違いますし、スイングの軌道と投手の配球を見ながらその打球を予測します。中には打球方向が顕著に出ている選手もいますので、そのような場合は予測が立て易いです。常に準備することは当然なのですが、投手でもゴロを打たせてアウトを取る技巧派なのか、奪三振の多い速球派なのかでも頭に入れておくべきだと考えます。

 投手が投げるタイミングに合わせ、打者のインパクトの瞬間にタイミングを合わせることに集中して素早く反応する準備をします。この作業は自分のところに打球が来なくても1球1球反応することを反復していました」

 ポジショニングの大切さは高校球児も実感していると思うが、ここまで考えることは出来ることだろうか。小坂コーチは
「意識すれば出来ることです。せめて、その打者の傾向でも頭に入れておくことが出来れば、自分自身の助けになります」
グラウンドに立っている守備者としてあらゆる状況を考えながら守備位置をとっていたことが理解出来る。

 当時のパ・リーグは松井 稼頭央(当時西武)2013年インタビュー2015年インタビュー、イチロー(当時オリックス)、村松 有人(元ダイエー)など脚の速い選手が多かった。そういう選手に対しても、小坂コーチは焦りなくプレーが出来ていた。どうやってプレーしていたのだろうか。

「今までもお話しましたが、脚が速い選手に対しても、慌ててしまいエラーをしてしまうことは、私もありましたし、そのような悩みを抱える高校球児の気持ちは痛い程理解出来ます。

 プロの世界では、1つのバウンドに対する判断ミスで、セーフになってしまいます。例えば、私が現役時代の人工芝はよく弾む特徴がありました。その弾むバウンドに対して待って捕球してしまうと打者走者を生かしてしまう確率は高くなります。自分のところに飛んで来た打球を弾む前の段階で捕球するのか、勢い良く前に出てショートバウンドの瞬間に捕球して直ぐに送球するか。そのくらい意識して練習から取り組むことで、実戦に繋げてきました。

 私の場合は練習の際、脚の速い打者走者を想定し、出来る限り前で捕球することで判断力を磨きました。バウンドが合わない場合はステップを使い半身で捕球する練習も反復していました。常にバウンドが合う訳ではないので、如何に脚を使えるかが大切になってきます。常に試合と同じ状況を想定しながら、反復練習に取り組むことが大切だと考えます」

 また、小坂コーチはダイビングキャッチしてからも直ぐに起き上がって投げられる選手だった。

「本来は打球方向を読んで、『正面で捕球することが理想』なので、ダイビングで捕ることは決して喜ばしいことではないのですが、プロ野球のスピードを要求される世界において『この打球は抜かせたくない』という強い意識から身体が反応します。直ぐに起き上がって投げなければアウトは取れませんし、メジャー選手のような、肩やリストの強さを持ち合わせた選手ではありませんので、アウトにするためには捕球後直ぐに投げることが必要になります。速さと確実性を身につけなければなりません」

 アウトにするために様々な場面を想定しながら、毎日の練習を積み重ね、守備力を磨いてきたのだ。

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守備者としてのプレッシャーとの向き合い方

小坂誠ファーム内野守備コーチ
(北海道日本ハムファイターズ)

 小坂コーチは幾度もチームに貢献。周囲から賞賛され、やがてファンとマスコミには守備範囲の広さを「小坂ゾーン」と評されるようになった。だが、小坂コーチは名声のために練習を重ねてきたのではない。この世界に入って、守備と脚で生きるしかないと考えたからこそ取り組んできたのだ。

「入団した時、身体のサイズも一番小さかったですし、入団発表の時、隣に居るのは大きい選手ばかりだったので、とんでもない世界に入ったなと。僕自身、打撃を期待されている選手ではなかったので、この世界で勝負していくには、せめて守備と脚しかないと考えました」

 そうして小坂コーチは守備者としての技術を着実に高めるよう取り組むこととなる。しかし、守備が役割の選手は当然「守って当たり前」と思われる。そういうプレッシャーと小坂コーチは向き合ってきた。

「プレッシャーは感じます。しかし、そのプレッシャーがあるからこそ良いプレーに繋がると考えます。若い時にはミスをした後、態度を露骨に出してしまい、監督やコーチに怒られましたし、先輩にも切り替えることを諭されたことを思い出します。1シーズン長丁場の世界、ミスとのつき合い方も重要だと痛感しました」

 では、小坂コーチはどうやってミスとつき合ってきたのだろうか。

「日々、事前の練習から精一杯の準備をした中で、積極的なミスをしてしまったら割り切ることに努めました。ミスをしても反省は試合後にし、ゲーム内では引きずらない。引きずってしまうとチーム内にも伝染する可能性があります。私もみなさんもミスをしたくて守っているのではありません。当たり前といわれているプレーを当たり前に捌くことを心掛けて常に守っているのです。

 それが出来なかった時は、自分が許せないですし非常に悔しくて仕方がありませんが、そのプレーに対して、普通に捌けなかった悔しさが次へのステップアップに繋がると考えますし、繫がなければ自分自身のレベルも下がっていきます。自分自身の技術レベルを下げることがあってはなりませんので、常に自分自身と向き合って律していくことが大切だと考えてきました」

 小坂コーチは「準備」という言葉を大事にされる。小坂コーチに聞いてみた。今までの野球人生を通して、雑なプレーをしたことは一切ないかと聞くと、

「それはないです。雑なプレーはあり得ませんし、絶対にしてはいけないことです。ミスはありますが一生懸命プレーしている中で起こったこと。雑なプレーは全くありませんし、あってはいけません。気持ちを切るようなこともしてはいけません。特にプロの世界は『代わりの選手』が常に存在します。自分の仕事場を守っていかなければなりません」

 一瞬の気の緩みが命取り。プロの世界はまさにシビアである。こういう緊張感だと身体が硬くなってしまいそうだ。小坂コーチはどうやって緊張をほぐしていたのか。

「緊張で身体が硬くなっていると感じたら、出来る限り身体を動かすように心掛けていました。ただじっとしていると身体が動かないので、やや心拍数を上げることを意識して、守備では「動から動」のイメージを大切にして試合に臨んでいました」

 プレッシャーとのつき合い方も自分なりに考えていたことが窺える。

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成功に結び付けるための「失敗から学ぶ」ことの大切さ

小坂誠ファーム内野守備コーチ
(北海道日本ハムファイターズ)

 小坂コーチは守備のひとつひとつの動き、プレッシャーへの向き合い方に対して、自分が何をしたのかが説明出来る。高いレベルで活躍してきた選手は自分の取り組み方を言語化出来ることがとても大切になる。

 そして小坂コーチ自身の経験から「成功と失敗の経験をバランスよく活かしていくことも大事」と語る。

「プロの世界に入るまで、守備においてもたくさんの経験を積み重ねてきましたし、自分自身がイメージした通りの守備動作を体得するための反復練習を重ねることで、イメージ通りのプレーが少しずつ体現出来るようになってきました。守備を改善するために必要になった要因は「過去の積み重なった失敗」を有効に活かすことでした。

 次にその失敗(ミス)を起こさないようにするにはどうすればよいのかを考えて反復練習に取り組むとともに、私の場合は周囲のプロ選手よりも体格や体力に恵まれていませんでしたので、体力のある選手と同じ事をしたとしても太刀打ち出来ないことは目に見えています。ですので、私の場合は自分の持ち合わせている体力と体格の中で、他の選手とは違う自分にしか出来ない技術を身につけるように努めました」

 小坂コーチの遊撃守備を築き上げたのは、経験してきた失敗を無駄にしない考え方と言えるかもしれない。小坂コーチにとって幸運だった要因は、レン・サカタコーチ、酒井選手のように要所において、守備の能力に長けている方々と巡り会ったことではないだろうか。高校、社会人、プロ野球それぞれの段階で守備能力のある人々との出会いが、小坂コーチの守備に対する理論を確立していったと考えられる。
最後に小坂コーチの守備に対する心念とは・・・。

「『正確に、しかも速く』が心念です。それが一番難しいですし、野球の世界では要求される技術です。自分の周辺に飛んできた打球に対しては確実に捌くこと。捕球出来るか否かの打球に対しても最後まで諦めないこと。上手くなるための泥臭い練習を疎かにしないこと。難しいと思われる打球を簡単に捌く技術を身につけること。
そして、チーム、投手、捕手、周囲の野手に信頼される守備者になることを常に心に懸けて取り組んできました」

 如何にして守備でチームに信頼される選手になっていくか。二遊間を守り、守備が上手くなりたい球児は小坂コーチの考えを踏襲出来るものが多いはずである。

(インタビュー・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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