Interview

小坂 誠 ファーム内野守備コーチ(北海道日本ハムファイターズ) 【前編】「名手・小坂を生み出したバックグラウンド」

2015.02.04

 現役時代、『平成の牛若丸』と称され、ゴールデングラブ賞を4度受賞し、90年代後半から00年代前半のパ・リーグを代表とする遊撃手として活躍した北海道日本ハムファイターズの小坂 誠2軍内野守備コーチ。特に優れていたのは、スピードがある遊撃守備だった。小坂コーチはどのようにしてスピードがある遊撃守備を作り上げたのか。

 また、守備の考え、現役時代の取り組み、守備で生きてきた選手の正直な思いも話していただいた。

高校、社会人時代は守備で評価される選手ではなかった

小坂誠ファーム内野守備コーチ
(北海道日本ハムファイターズ)

「守備で評価されることは凄く嬉しいことですが、プロ入りしてからも全く自信はなかったですし、不安も多かったです。しかし、出場している以上は常に周囲から信頼される守備者を目標に取り組んでいました。高校、社会人時代の私は今以上に技術、体力においても、同年代の選手には及びませんでした。特に私立高校の遊撃手たちはレベルが高かったですから」

 多くのファンは守備を評価される小坂コーチの姿しか知らないので、意外な言葉に聞こえるだろう。だが、これまでの小坂コーチの野球人生、野球選手としての考え方について聞くと、自分の正直な気持ちと、上手くいかない自分自身の守備と向き合いながらも、野球人生を送ってきたのが解る。

 高校時代(宮城・柴田高校)から話を振り返る。小坂コーチ自身は他の選手を観察することを心掛けていた。

「チームメイトと他校の試合や、当時の[stadium]県営宮城球場[/stadium]でプロ野球の試合などに足を運び、選手の動きを観察するように努めていました。自分自身と照らし合わせて、自分には何が足りない選手なのか、現状より上達するには何をすればよいのか。考えて工夫することを高校時代から心掛けていました。今振り返ると、その考えて工夫することが大きかったと思います」

 高校卒業後、宮城県の社会人チーム「JR東日本東北」へ入社してプロに指名されるまでの5年間を過ごす。この5年間が小坂コーチにとって重要な期間となった。現役時代、167センチしかなかった小坂コーチが更に上の世界で対抗する為に考えたことは、筋力を上げることと、スピードと体力を高めることであった。

ウエイトトレーニング、短距離走、長距離走、そして技術練習の反復に時間を費やした。この5年間の鍛錬がプロ1年目から試合に出場する体力的な土台を築く形となった。守備に関しては特に入社3年目までは自分が体現したい守備が出来ずに、思い悩んだ時期が続いていた。

「高校の時は3年生になってから、やっと私学の選手の打球の速度、走者のスピードに対して、最低限の対応をすることが可能になりましたが、今度は金属バットを持った社会人の強者が相手。打球の速さが全く違います。最初はそのスピードについていけずに、何度となくエラーをしてしまいました」
 

 その時に考えたことは「自分は不器用なので、何としてでも身体で止めること」だった。
「技術の高い選手であれば捕球も可能ですが、自分の場合はそのような選手には程遠い技術だったので、ただ、『漠然と守っていては駄目』と考え、どんな形であれ如何に速い打球に対応出来るか、そして、投手が投げるタイミングと打者のインパクトに合わせて素早く反応する動きを練習から意識して取り組むように心掛けていました」

 自分がイメージ通りに捕球出来る頻度が増えたのが4年目。しかし、社会人のレベルは高く、5年目は更に守備を磨くことに努めた。
本人は「上手くない選手」と話すが、その後、社会人野球でも評価対象の選手として、1996年ドラフト5位で千葉ロッテマリーンズに指名され、プロの扉をこじ開けたのだ。そして、一人のコーチと選手の出会いが小坂コーチの守備力を大きく高めることになる。

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[page_break:レン・サカタコーチと酒井 忠晴選手との出会いが大きな影響を与える]

レン・サカタコーチと酒井 忠晴選手との出会いが大きな影響を与える

小坂誠ファーム内野守備コーチ
(北海道日本ハムファイターズ)

 入団時に出会ったコーチはレン・サカタ氏。レン氏は日系アメリカ人三世で、現役時代は1977年から1987年の11年間、ミルウォーキー・ブルワーズ、ボルチモア・オリオールズ、オークランド・アスレチックス、ニューヨーク・ヤンキースの4球団に在籍し、堅守の内野手として活躍を見せた。レン氏からメジャー仕込みの守備を学ぶこととなったのだ。

「私にとって大きな影響を与えて下さった方です。守備の基本的な考え方、脚の使い方、身体の使い方など手取り足取り教えて頂きました」

 そして、もう1人小坂コーチに影響を与えたのが1996年に中日からロッテに移籍した酒井 忠晴選手。小坂コーチは酒井選手の守備について次のようなことを語っている。
「入団1年目に一緒にプレーする機会があったのですが、まさに別世界のプレーでした。堅実さとトータルバランスではヤクルトに在籍していた宮本さんを挙げさせていただきますが、酒井さんには違う表現力がありました。ですからコンビを組んだ時の守備動作はとても勉強になりました」

 特に酒井選手の守備で参考になったことは。

「脚の使い方とハンドリングです。プロの世界では1歩遅いだけでも命取り。捕球してから直ぐに送球に移るためには、いかにスムーズに脚運びが出来るかを考えます。要するに『脚で捕る』という意識です。私は遊撃手なので、三遊間へ飛んだ打球に対して併殺動作を行う場合、捕球した時に如何にして身体が流れることなく送球が出来るか。脚の使い方は普段とは違うので高校生に教えるのは難しいと考えます。

 しかし、その脚の動きと体重移動を体得して脚の動きがスムーズになると、余分な動きを省くことが可能になり、併殺の時に時間が短縮出来るのです。私の場合、素早く動ける脚の使い方を練習して、失敗を恐れずに身体に覚え込ませる反復練習を心掛けました。
高校、社会人野球は土のグラウンドが多いですが、プロ野球は人工芝の球場が多い。人工芝のグラウンドでは、脚の踏ん張りに対する反動が大きいので、如何に身体全体で踏ん張り、自分自身のリズムとテンポで相手が捕球しやすい送球が投げられるのかを意識していました。」

 また失敗する動きで共通することは・・・?

「やはり脚が動かないこと(動きが止まること)ですね。指導する立場になって改めて判ることなのですが、捕球の際にミスをする選手の多くは、脚が充分使えずに身体が止まっていることが多いのです。そして、動く時に股を割った状態で捕球しなさいと言われることがあります。これは私の見解ですので理解し難い方もいると思いますが、それは捕球する際に股が割れていても、次の動作に移る為の体重移動が出来る状態を作っておかないと、常に打球を『待って捕る』ことが多くなりますし、打球の変化に対応し難くなります。

 これでは股を割った姿勢を作っている意味が無くなると考えます。この動作も皆一緒に見えたとしても、個々の感覚があるので指導するのは難しく伝わりにくいことが多いので、本人の感覚を磨いていくことが大事になります。
また、「来た球を捕る」という表現がありますが、それは技術が長けている人が使う言葉であって、私の場合には「来た球に対して、次の動作に移りやすいポイントで捕球することを考え、脚力を活かして捕りに行く」という意識で取り組んでいました。それはキャッチボールからも同様です」

 守備の話を聞くといつも実感することだが、守備の動きは実に細かい。覚えることは実に多いと実感する。

 ここまでアマチュア時代とプロ入り当初のエピソードを中心に振り返りました。後編では、ポジショニング、打球の判断はどんな考えで磨いてきたのか。また守って当たり前というプレッシャーの中、どう向き合ってきたかについて語っていただきます!(続きを読む)

(インタビュー・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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