Interview

徳島インディゴソックス・入野 貴大投手&殖栗 正登トレーナー 対談 Vol.1

2015.01.14

2014年「最速153キロ・NPB入り」への確かなメカニズム

「7年目の結実」。2014年、東北楽天ゴールデンイーグルス(以下、東北楽天)・ドラフト5巡目指名を受け、晴れてNPBの世界に進む四国アイランドリーグplus・徳島インディゴソックス(以下、徳島)入野 貴大投手。

 その決め手となったのは、27試合登板で16勝3敗2セーブ・129回3分の2を投げ、被安打133、奪三振126、与四死球38、防御率2.38。チームを初の独立リーグ日本一に導き、自身も初の年間MVPに輝いた圧倒的な成績もさることながら、昨年から一気に6キロスピードを伸ばし、最速153キロに達したストレートであった。
ではなぜ、入野投手は25歳にして球速を上げることができたのか?

 今回は、そのキーマンである徳島ストレングス&コンディショニングトレーナー・殖栗 正登氏とのクロストークを企画。実際に球速アップとNPB入りの確かなメカニズムを積んだ徳島県内某所にある球団トレーニング施設内で、これからNPBを目指す選手たちにも参考となるであろう「一年間のプロセス」に迫った。

第一印象は「メンタル的なチャレンジ精神と視野の広さ」

入野 貴大投手

――まず殖栗トレーナーから聞きましょう。2013年は高知ファイティングドッグス(以下、高知)のトレーナーだった目から、「徳島の入野投手」をどう捉えていたのですか?

殖栗 正登・ストレングス&コンディショニングトレーナー(以下、殖栗) 井川 博文(愛媛マンダリンパイレーツ<以下、愛媛>2011年在籍、2012~2013年・高知。昨シーズンに最速150キロをマークした右サイドハンド)から、入野のことはよく聞いていました。「愛媛で仲がよかった」ということと「球が速い」ということを。対戦相手としては8回に入野が出てくると「イヤだなあ」と思っていましたね。

――「イヤだなあ」というのは?

殖栗 先ほど言った「ストレートが速い」ことに加え、彼が出てくると「徳島・勝利の方程式」に入りますから。その前の福岡 一成もよかったですから、7回から福岡・入野・(オナシス・)シレットと出てくると顔を見るのがイヤでした(笑)。絞り球とかをしっかり決めても打てなかった。(2013年8月21日に1対0の場面で)迫留(駿・現ルートインBCリーグ・石川ミリオンスターズで左腕投手)が同点の一発を打った時くらい?

入野貴大投手(以下、入野) そうですね。あの時はやられました。

殖栗 その時は確か真っ直ぐでしたけど、140キロ中盤のボールを集めて最後はフォーク。そんなイメージでした。

――そんな2人が11月の「Winter league」で、長い時間を共に過ごすことになります。

殖栗 まず彼がこのリーグに参加してくれたこと。本来ならば参加する必要のないレベルの高い選手が来ていたことに正直、感動しました。さらに理由を聞いてみると「NPBからの指名がなかったので、MLBやその他の国でもどこでもいいから、レベルの高いところでプレーしたい」という。井川もそうでしたけど、「上のリーグの環境でないと技術的レベルを高められない選手を、どうにか上のリーグに行かせてあげたい」と改めて思いました。加えて入野にはメンタル的なチャレンジ精神や視野の広さを感じました。

入野 僕もこの時点では全体練習も終了していましたし、自分は野球も好きですから。徳島の坂口 裕昭代表から「こんなものもあるよ」と言って頂いた時点で、すぐに「行きます」と返答しました。

実は殖栗さんとは阪神2軍との交流戦(2013年2月27日・[stadium]安芸球場[/stadium]・5対3で勝利)でリーグ選抜チームに選ばれたときにはじめてお会いした時から「知識も豊富で色々なトレーニングをしてくれるな」と思っていたんです。そして実際やってみたら変わりましたね。

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[page_break:「ストレングス」と「コンディショニング」の両輪が150キロの源]

「ストレングス」と「コンディショニング」の両輪が150キロの源

――「Winter league」後、殖栗トレーナーが徳島のストレングス&コンディショニングトレーナーに就任したことで、本格的なトレーニングが始まります。殖栗さんはどのような部分を伸ばしていこうと思ったのですか?

殖栗 実はシーズン当初、入野が残した体力データがあるんですが、走力やスピードとかはすごく高いんです。

殖栗 正登トレーナー

――50メートル走を見ると5秒81。これはすごい数字ですね。

殖栗 その一方で背筋と握力はNPBレベルには達していなかったんです。握力が弱いとボールが抜ける要因にもなりますからね。あとは股割。これは足を地面につけた状態で開いたとき、右足のかかとから左足のかかとまで身長分はほしいところです。

 即ちピッチングの際に関連してくる動きは背筋と、握力と股割。これがスピードにも相関性を持ってくるのですが、ここが入野は当初薄かったんです。
あとは筋肉量。普通は自分の体重に対し85~86%は欲しいところですが、入野は2キロくらい当初は足りなかったんです。ただ、筋肉量をシーズン中に上げるのは難しい。ボディビルダーですら筋肉量を1キロ上げるのには苦労していますからね。

 ということで取り組んだのは、身体を前に倒したときに姿勢を丸くしないための背筋力と握力。スピード系の項目は持っているので、筋肉量のボリュームを上げてあげること。そして股関節周りの柔軟性ですね。

――この四国アイランドリーグplusに限らず、独立リーグではなかなか、「トレーナー」的なことはできても、「トレーニングコーチ」的要素を入れきれない状況があります。

殖栗 NPBではその分野は完全に分かれていますからね。今言ってきたことが弱点を補うトレーニングコーチ的な要素。いわゆる「ストレングス」の部分になります。それと同時に気を遣ったのは、やはり「コンディショニング」です。島田 直也監督(今季から横浜DeNA2軍投手コーチ)からも「入野は先発で行く」部分は伝えられていたので、シーズンを通して体調を管理する。コンディショニングを維持することに努めました。

――「コンディショニングを維持する」上で大事なことは何になりますか?

殖栗 一番大事なのは「柔軟性を維持する」ことです。疲労すると柔軟性が落ちてくる。そこで、これは徳島の投手陣すべてについてですが、可動域を維持するトレーニング・コンディショニングをしてきました。

 正直、このリーグの選手たちは厳しいんです。育成の中で結果がある程度免除されるNPB2軍の選手と比べても、NPB同様の勝利を求める中でNPB2軍と同等の試合をこなし、NPB指名されるためにスカウトへのアピールを目指さなくてはいけない。しかもNPBと違って秋季キャンプはこのリーグにはありません。運動量を上げて弱点を補う11・12月の分を2月に埋めていかないといけない。3月にはオープン戦も入るので体力を上げながら投球をしていくわけです。

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[page_break:「筋肉痛が残る」感覚で残した好成績]

「筋肉痛が残る」感覚で残した好成績

入野 貴大投手&殖栗 正登トレーナー

――なるほど。では、投手でいえば「アピール」に必要なこととは?

殖栗 「150キロ」を出すことです。入野にも最初に話したのは「150キロを出そうね」ということでした。入野について言えば、スピードを上げることだけを意識して、コンディショニングも含めて取り組んできました。ですから、最初に150キロを超えたときは本当に嬉しかったですし、実際に150キロを超えたことで多くのNPBスカウトに足を運んで頂けました。

――入野投手は殖栗トレーナーの指摘を受けて、どのような感想を持ちましたか?

入野 「上体投げ」と色々な方からは言われるんです。でもフォームを直す必要はないと思っていた一方で、弱いところを鍛えて今のフォームにプラスしていこうと考えました。

殖栗 そして入野は筋肉量を前期シーズンが終わった段階で2キロ上げてきたんです。最終的にはNPBの体型に一番近い形にしてきたんです。

――先ほど触れた弱点を補うトレーニングは具体的にどうやって取り組んだのですか?

殖栗 皆さんが思われている以上に単純なトレーニング内容です。握力は腕立て伏せをしたり、バケツに米を入れてそれを握るとか。背筋力強化ではメデシンボールを投げたり、デッドリフトをしたり。

ここでよかったのは投手コーチも兼ねる島田監督が、前期は入野と(河本 ロバート・)ブース2014年インタビューの先発ローテーションを崩さないでくれたことです。登板翌日は休養に充て、2日間強めの筋トレをした後に、コンディショニングに入るサイクルがずっと取れていましたし、監督からもそのメニューを任せてもらっていました。

――たとえば中6日とすると、入野投手はどんなサイクルで動いていたのですか?

入野 先発登板翌日は休みか、その日に試合があればジョギングと腹筋とウエイト。それをやった場合は、その翌日を休みにします。3日目はキツめのランニングを入れます。ポール間走とかですね。ランニングについてはその日から徐々に距離を短くしていきます。投球練習はキャッチボールをしていく中で自分の体調・感覚をみながら試合2日前か、前日かを決めていきます。フォームを作ることをここでは意識します。そして前日にはショートピッチングを入れて、試合に一番いい状態で臨む態勢を整えていました。

――この中に、数値を上げる「ストレングス」が入ってくるわけですね?中6日だとどこら辺になりますか?

入野 ウエイトの日など、一番キツい練習をする日に入れていきます。
僕はこれまでは「筋肉痛が残って試合に入ったらどうしよう」と思って、シーズン中にウエイトをする概念がなかったんですよ。ただ、今シーズンはじめてウエイトや強化トレーニングを入れていくことによって、意外に「いい筋肉痛」で投げて調子がよかったりしたんです。ウエイトの大事さを感じました。それもあって僕は今年伸びることができたと思います。

――「いい筋肉痛」とはどのような感覚ですか?

入野 これは僕だけの感覚かもしれませんし、何も筋肉痛がない感覚で投げる方がいい投手もいると思います。それを前提に話をすると多少疲れて体が重いくらいの感覚で投げるのが僕の理想になりました。肩が軽すぎるとボールが抜けたり、引っかかったりしてしまいますし、それが気持ち悪い。ですから、登板前日でも「肩が軽すぎる」と感じたら軽く筋トレをしてから多少筋肉痛が残った状態でマウンドに上がるようにしたこともあります。

 第1回はここまで。理論的なトレーニングによって入野投手に秘められた高い潜在能力を発揮していきます。第2回はNPBとMLBのウエイトトレーニング事情について説明をしていきます。お楽しみに!

(インタビュー・寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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