Interview

北海道日本ハムファイターズ 大谷 翔平投手(花巻東高出身)【前編】「日米野球で掴んだストレートへの手応え」

2015.01.13

 昨年、日本球界でもっとも熱い視線を注がれたのは、北海道日本ハムの大谷 翔平に違いない。投打二刀流として2年目の昨季は、投げては11勝、打っても10本塁打をマーク。二桁勝利&二桁アーチは、日本プロ野球始まって以来の大快挙で、メジャーでも1918年にあの球聖・ベーブ・ルース(当時レッドソックス)が記録しただけ。大谷は、投手として155回1/3を投げて179の三振を奪い、打者としては58本のヒットを積み上げた。3年目の今年も、球界の常識を覆す二刀流での活躍に期待が膨らむ。

 今回は、昨年の日米野球での収穫、オフの過ごし方、スピードアップの秘密、さらには投打二刀流に対する考えなどについて、じっくりお話をうかがいました。

メジャー相手でもストレートが通じる手応えを感じた

 昨年11月に行われた日米野球。日本人最速の162キロのストレートを誇る大谷と、MLBオールスターチームとの対戦は大きな注目を集めた。

大谷 翔平投手(北海道日本ハムファイターズ)

 まず第1戦に3番手として登板し、1イニングを無失点に抑える。第5戦では先発を任され、4回を投げて6安打2失点。打線の援護に恵まれず、敗戦投手になったものの、堂々7つの三振を奪ってみせた。この試合でのストレートの最速は160キロ。大谷は「自分の真っ直ぐが、メジャー相手にも通用すると手応えを感じました」と振り返る。

その半面、「通じないところもあると思った」という。
通じないところとは、たとえばどんなところなのか?
「コースが甘かったり、意図的に投げ切れてなかったボールは打たれたので、そのあたりでしょうか」

 メジャーの打者と日本人打者との違いも感じたそうだ。
「ひとつはパワーですね。やはり日本人より優れています。もう1つは打席での積極性。日本のバッターは、2ストライクに追い込まれるまでは、狙い球を絞りながらじっくりというタイプが多く、見逃し三振も少なくありません。ですが、メジャーのバッターは積極的で、初球からでも振ってきます。イニングの先頭打者もそうなので、入りに気をつけないとガツンとやられると痛感しました」

 特に印象に残った選手は、ドジャースのヤシエル・プイグ選手だったという。「(キューバ代表としても活躍した)有名な選手ですから」と、存在感にインパクトを受けたようだが、第5戦ではそのプイグ選手から2つの空振り三振を奪った。

 一方、対戦したかったのは「(昨季まで6年連続で打率3割以上をマークした)ロビンソン・カノ選手(マリナーズ)でした」
カノは第3戦で侍ジャパンの西 勇輝(オリックス) から右足小指に死球を受けて骨折。そのまま帰国となり、残念ながら、今回は対戦が実現しなった。

 「メジャーの右投手は、日本の右投手があまり投げない、左打者に対するフロントドア(内角のボールゾーンから変化してストライクゾーンへと入ってくるボールをメジャーではこう呼んでいる)を投げてくる」と、打者だけでなく、投手も日本人とは違う面があると感じたという。

 同じ侍ジャパンの先輩投手から学んだことも多かった。
「日米野球では広島の前田 健太投手(独占インタビュー 2012年公開2013年公開や東北楽天の則本 昂大投手独占インタビュー 2014年公開、あるいはオリックスの金子 千尋投手が持ち味を発揮されてました。そこから吸収したものもありますし、日本のトップクラスの投手なら、十分にメジャーでも通用すると思いました」

 こうした中、日米野球での一番の収穫は何だったのだろう?大谷はこの質問に、キッパリとした口調でこう答えてくれた。
「オフに入るにあたり、改めて、やらなければならないと強く思ったことです。技術的なレベルアップもしなければいけないので、手を抜いているヒマも、遊んでいるヒマもないと。もっともこれは、日米野球で相手がこうだったからというのではなく、もともとそういう気持ちはありました」

 日米野球で“やらなければならない”という思いをより強くした。このオフは基本的に休みなしでトレーニングを続ける予定だ。

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[page_break: 多忙なオフも休みなしにトレーニングを継続]

多忙なオフも休みなしにトレーニングを継続

 大谷は1年目、投手としては13試合に登板して3勝0敗(防御率4.23)、打者としては45安打、3本塁打、20打点をマークした(打率.238)。並の高卒1年目の選手なら及第点かもしれないが、むろん満足してはいなかった。

「シーズン通してフルに戦うための体力もまだまだ足りなくて、先輩方と比べると明らかに体ができていないと感じました」
そのため1年目のオフは「体を強く、そして大きくするのをテーマに、トレーニングに取り組んだ」という。

大谷 翔平投手(北海道日本ハムファイターズ)

 2年目の昨季の成績は、投打とも1年目を大きく上回った。「オフの成果が今年の結果の全ての要因ではない」と考えているものの、「今オフも昨オフに引き続き、基本的な部分を強化するつもりです」
これは「基本的なところが一番、レベルアップにつながるところだから」だ。

 このオフ、各方面から引っ張りだこで、多忙な毎日を送っている。しかし1日トレーニングできる日は、選手寮が隣接する[stadium]鎌ヶ谷球場[/stadium]の施設を使うなどして「だいたい6時間から7時間はトレーニングをしている」という。気になるメニューについては「1日トレーニングできる日は、ランニングメニュー、ドリル、キャッチボール、バッティング、ウエイトというのがざっくりとした流れです」と教えてくれた。

 もちろん、シーズン中の体調管理もしっかり行っている。心がけているのは早寝早起きで、睡眠時間はたっぷり取る。ただデイゲームの次の日がナイトゲームと、たくさん寝られる日も「10時間以上は寝ないようにしている」そうだ。ちなみに、「遠征で枕が変わっても寝られるし、移動の乗り物でもよく寝られるタイプ」とか。食事ではどうしても夕食が遅くなることから、朝昼多めで夜は少なめにしているという。

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[page_break: どんな時も意図通りに操れるストレートが理想]

どんな時も意図通りに操れるストレートが理想

大谷 翔平投手(北海道日本ハムファイターズ)

 スライダーやカーブなど、大谷は変化球にも定評がある。だが、一番の魅力は何と言ってもストレートだ。
並外れたスピードボールを投げられるのは、先天的な部分も大きいようで、「野球を始めた頃から、他の子どもよりもボールが速い自覚があった」と明かす。

 球速は花巻東高1年秋に147キロをマークしてからも、順調にアップしていく。2年夏の甲子園では初戦帝京高戦で150キロを計測。そして3年夏の岩手大会準決勝(対一関学院戦)では、アマチュア最速の160キロを叩き出す。さらにプロ2年目の昨季は、10月の東北楽天戦で日本投手最速となる162キロを記録した。高校1年秋から実に15キロのアップである。

 この理由について大谷はこう考えている。
「高校時代というのは体が未完成なので、そのまま速いボールを投げようとすると、体を壊すことがあります。速いボールを投げられる才能によって、体が潰されるケースもあるでしょう。僕の場合、佐々木 洋監督が僕の成長段階をよく見極めてくれました。無理を強いることなく、大事に扱ってもらえたと今も感謝してるんですが、そうした成長期での指導に加え、筋力が高まったから、高校でもプロでも球速が上がったのだと思います」

 ボールを速くしたいと思っている高校生投手は多いだろう。「コントロール重視でいき過ぎるのもつまらないと僕は思いますし、何キロのボールを投げたいと数字を求めてもいいのでは」と大谷はエールを送る。しかし、その一方でこんなアドバイスもしてくれた。
「速いボールを投げるのに近道はありません。まずは土台作りが重要です。それと、高校時代は一番の成長期なので、普段の練習をしっかりやっていれば、自然にボールが速くなることもある。焦る必要はないと思います」

 大谷が速いボールを投げるため、メカニズム的に大事にしているのは「正しい順序で、正しい位置でボールを投げること」だという。
「ただ、それができているかというと、まだできてません。野球のボールは小さいので、芯を正確に叩く作業はものすごく難しいですし、スピードが上がれば上がるほど、正確に叩きにくくなりますからね」

 そのため、理に叶った投げ方をしているか、常に1つ1つチェックしているという。
「ピッチングは一連の流れなので、ここがポイントというのはありません。立ち位置から始まって、もう全部ですね」

 メジャーの投手の中には、一見、理に叶っていない印象の投げ方をしている投手もいる。これについては「それはケガをしやすい投げ方のように感じるだけで、その人にとっては理に叶っているのかもしれません。基本的な流れはありますが、その人にとって理に叶った投げ方であればいいとも思っています」

 理想とするストレートは「空振りをとりたい時に空振りがとれ、ファールを打たせたい時にファールを打たせることができ、見逃しをとりたい時に見逃しがとれるボール」だという。大谷はそう言うと「つまり、こちらの意図通りに操れるストレートです。むろん球速も求めていきたいですが、むしろ、数字に表れないプラスアルファの部分を磨いていきたいと思ってます」と言葉を重ねた。

 前編では、日米野球を経験して、収穫に残ったこと。また理想とするストレートについて語っていただきました。後編では、大谷選手の代名詞である「二刀流」についての考え、道具に対するこだわり、3年目の目標を語っていただきます!お楽しみに!

(インタビュー・上原 伸一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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