Interview

世界の独立リーガー根鈴 雄次さんに聞く!筋力トレーニングに取り組む考え方!

2015.01.07

 世界の独立リーガー根鈴雄次さんに聞く!
「パワーヒッターになるための筋力トレーニングに取り組む考え方とは」

 アメリカ、オランダ、日本と世界のプロリーグで活躍を収めてきた根鈴 雄次さん。現役時代は徹底した筋力トレーニングに励み、海外の選手に負けないパワーを築き上げてきた。筋力トレーニングに取り組むきっかけは、中学時代に見たBS放送のMLB中継で、メジャーリーガーの体格の大きさに衝撃を受けたことだという。そこから独学でトレーニングを学び、実践。18歳でアメリカに渡り、筋力トレーニングの重要性、野球に対する考え方を学んだ根鈴さんは39歳まで現役を続けた。

 現在は神奈川県藤沢市にあるルーツベースボールアカデミーで、子どもたちを指導する毎日。今回は根鈴さんから、パワーヒッターになるために打球を遠くへ飛ばすためのトレーニングや、アメリカでの筋力トレーニングに対する考え方について迫った。

アメリカの筋力トレーニングの認知度は、日本のラジオ体操ようなもの

根鈴 雄次さん

 まず根鈴さんの話を聞いて驚かされたのは、アメリカのトレーニングに対する知識の広さだ。
「学校の授業にもなっていて、ごく日常的に勉強されているものです。例えば、胸を鍛えるにはどういうトレーニングをするのか。その疑問に対し、アメリカでは部活にも入っていない帰宅部の子でさえも、こういうトレーニングをすれば、鍛えられますと答えられる。

 日本だと、スポーツをやっていない大人にラジオ体操をやってくださいといわれれば、屈伸運動などが出来るでしょ?そんな感じでアメリカでは、ウエイトトレーニングは文化としての認知度が高く、特殊なモノではないんですよね。メジャーリーガーになれば、自分自身でノウハウを持っていますから。トレーナーはあくまでサポートですし、ジムの充実度は日本に比べれば断然すごい」

 一体、アメリカでは、どんな目的で筋力トレーニングに励むのか。それは天性の才能の差を、フィジカルを鍛えることで埋めるために行っているようだ。

「今回はパワートレーニングなので、打球を遠くへ飛ばすための方法で話を進めていきましょう。
技術的なことを言えばいかに真芯で捉えられるか。真芯ならば確実に飛びますし、その確率が高い選手ほどトップに残りやすい。その代表例がイチロー選手です。しかし、これは一種の才能ですので、芯で捉えるための練習をして、必ず上達するかというと、そこが難しいのが打撃技術です。

 アメリカの世界では、天性ですぐにできてしまうことは、天からギフトされたと表現するのですが、アメリカでは才能の差を、フィジカルを鍛えることで縮める努力をします。真芯で捉える技術が弱い選手は、徹底的に筋力トレーニングを行って、芯を外しても、ヒットゾーン、スタンドまで飛ばせる選手を目指します。何故ならばフィジカルは技術よりも伸ばしやすいからです」

 バットが折れない限り、詰まってでも、ヒット性が打てるパワーがあれば、勝負できる範囲が広くなる。それがアメリカでの考えだ。

【1月特集】変身!パワー系球児

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[page_break:肉体改造をして、成功したG.G.佐藤選手]

肉体改造をして、成功したG.G.佐藤選手

根鈴 雄次さん

 遠くへ飛ばすための一つの方法としてアメリカの選手は筋力トレーニングに励むが、筋力トレーニングによって体脂肪を除いた筋肉や、骨、内臓などの総量である除脂肪体重をいかに増やせるかが大事だと根鈴さんは説明する。

「簡単に言えば、細い子のような腕と私ぐらい腕の太さと比べたら、そこで筋肉量、重さは倍違う。思い切りぶつけていけば、インパクトでは倍くらい衝撃の違いがあるわけです。
ただ、我々はバットを持っているので、しっかりと衝撃を伝えられるかは、先ほども話したようにいかにバットの芯に当てられるかということです。ただ野球においては芯を外すことが圧倒的に多いわけです。それでも筋力量の多さを打撃にも生かすことが出来れば、詰まってでも飛距離は出ます」

 根鈴さんは肉体改造をして成功した選手として、昨年で現役を引退したG.G.佐藤選手(本名・佐藤 隆彦)の例を出した。佐藤選手は根鈴さんの大学時代(法政大)の後輩で、入学当初、佐藤選手は183センチ79キロと今では考えられないぐらいスマートで、ショートを守っていた。

 しかし同学年には、阿部 真宏選手という鉄壁のレギュラーがいた。阿部選手は横浜高で甲子園出場。法政大では1年からレギュラーの座を獲得し、大学4年にはシドニー五輪に出場。プロ入り後は、近鉄、オリックス、西武で活躍。それは佐藤選手にとって、大きな壁でもあった。

 佐藤選手は大学3年の時に、「このままでは試合に出られないです。化けたいです」と根鈴さんに相談。そこから佐藤選手の肉体改造が始まった。
「単純な話になるかもしれませんが、身体が動ける除脂肪体重が1キロずつ増えたら、飛距離も1メートル増えます。佐藤から相談があったとき、まず2人でカリキュラムを考えました。3時間ほどかかるものが、だんだん無駄を省いて、1時間で完了するプログラムになりました。佐藤は僅か1年で、25キロ増量して、104キロまで巨大化することができました」

 佐藤選手は、大学ではレギュラーの座を奪うことはできなかったが、卒業後はMLBのフィラデルフィア・フィリーズのマイナーリーグ・1Aでプレー。さらに、04年に西武ライオンズに入団すると、入団4年目の07年に25本塁打を記録し、大ブレイク。07年~09年は3年連続で20本塁打を記録し、強打の野手として一流選手の仲間入りを果たした。 

「年間20本塁打を放っていたときは105キロもあったので、詰まってでも、レフトだけではなくライト方向にも、本塁打にするパワーがありました。しかしその後、ロッテに来た時は、92~93キロぐらいだったかな。西武で活躍していたときと比べて、パワーが落ちているのかなと思いました。技術が大きく低下したとは思いません。芯に当てれば本塁打にしていましたが、詰まって本塁打にできるようなフィジカルがなかったと思います。プロ野球では芯に当てて打ち返すのは難しいですからね」

 佐藤選手が肉体改造するきっかけは、「現状のままでは試合に出場できない」という危機感からだった。肉体改造するためには、その選手が現状のパフォーマンス、立ち位置では満足していないことが大前提なのだ。

【1月特集】変身!パワー系球児

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[page_break:日本の高校野球に必要なのは、休息させる概念]

日本の高校野球に必要なのは、休息させる概念

根鈴 雄次さん

 筋力トレーニングを行うにあたって必要な概念のひとつに、日本の高校野球は、休息の割合を増やすことで、より効果が見込めるということがある。

「日本の高校野球で一番必要な概念ですね。強豪校の選手を見ると、僕らの時代に比べて本当に体が大きいと思いますし、方法論は間違ってないと思う。ですが、日本の場合、オーバーワークすぎて、技術的に本当に高い力を持っていても、肘、肩、膝を痛めている球児が多いと感じています。指導者は、やりすぎる球児にストップをかけて、休息を取らせるなどといったことが出来ればより効果が出ると思います」

 では、休息のタイミングとは?
「一概に言えませんが、パワーヒッターになるためのウエイトトレーニングを行いたいのならば、かなり激しいトレーニングになりますし、終わった後にフラフラになります。そんな疲労困憊した状態で、ウエイトトレーニングをやっていない選手と一緒に練習をやらせたら、ケガ一直線ですよ。逆転の発想で、ウエイトトレーニングをして、野球の練習もこなせたら、そのウエイトトレーニングは意味がない。その選手にとって強度が弱いと考えた方が良いです」

 フィジカルはトレーニングをすれば伸びるものだが、だからといって、闇雲に量を増やせばよいというのではない。休養とトレーニングのメリハリをつける必要があるということが分かる。

 最後に、根鈴さんに、筋力トレーニングをどうすれば継続できるのか、その方法を伺った。
「ノートを取ってデータを出すことがオススメです。筋力トレーニングでの喜びは、きついトレーニングをやりきった充実感と、数値が伸びて成長した喜びです。またトレーニングをしていく中で、伸びないこともあると思います。その原因として、練習のオーバーワークや食事を抜くなどがあります。

 そして、伸びた理由も考える。一つずつ積み上げてきたからなのか。また、食生活、休養をしっかりと取ったのかなど。指導者の方は伸びたら褒めてあげてください。これほど単調なトレーニングを継続してやってきて、数値は伸びたのに、褒められなかったらノイローゼになりますよ。
 そういう積み重ねをしながら、高いレベルに到達が出来ます。また野球に限らず、トップアスリートは自分で、ゴールを決めて、そのゴールを到達するためのトレーニングメニューを作って、日々、積み重ねて、記録を残して、成功につなげている。それが当たり前なのです」

 データを出すことで、日々の成長を感じ取り、また伸びる原因も分かる。選手にとって記録となって伸びることが分かれば、喜びとなり、モチベーションにもなるのだ。

 打球を遠くへ飛ばす方法としては、いろいろな方法論がある。しかしテクニックだけでは限界がある。そのためにアメリカでは、一つの方法としてフィジカルを伸ばして、天性の才能を持った選手と勝負をしてきたのだ。
今の立ち位置に満足していない、トップレベルでプレーしたいと願う球児は、やはり今の自分から「変身」するつもりで取り組むことが、トレーニングに取り組む大きな原動力になるはずだ。

(インタビュー・河嶋 宗一

【1月特集】変身!パワー系球児

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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