Interview

中日ドラゴンズ 大塚 晶文コーチ【後編】 「普段の細かい作業から1つの作品を作るのがバッテリーの醍醐味」

2014.12.18

 前編では、大塚コーチが、アマチュア、プロでバッテリーを組んだ捕手を中心に話を進めていきました。後編では、MLB時代のエピソードを交えながら、バッテリーの醍醐味を語っていただきます。

どこでも、誰に対しても、自分の考えをしっかり伝える

中日ドラゴンズ 大塚晶文コーチ

 大塚コーチは04年から4シーズン、パドレスとレンジャーズで、メジャーの舞台を経験した。初登板の試合では、こんなエピソードがあったという。
「04年のドジャースとの開幕戦のことです。僕は同点の8回に、リリーフとしてメジャー初登板。その回は抑えたのですが、次の9回、ピンチの場面でロビン・ベンチュラを迎えました」

 現在ホワイトソックスの監督を務めるベンチュラは、この04年に引退するまでメジャー通算294本塁打をマークした強打者である。

「すると、捕手のラモン・ヘルナンデスが、やたらフォークを投げさせたがるのです。フォークも僕の持ち球ですが、得意球かというと、そうではない。でもヘルナンデスは(99年から03年まで在籍した)アスレティックスでは3年間、正捕手だった男ですからね。ベンチュラはフォークが苦手と知ってのサインかと信じました。そしたら、サヨナラヒットを打たれてしまって…」

 試合後、大塚コーチは通訳を介し、ヘルナンデスに「俺の決め球はスライダーなんだ」と伝える。すると「あれはフォークじゃないのか?」という返事が返ってきた。

「僕は1年目のスプリングトレーニングのゲームの際は、6回か7回に投げてました。 レギュラー陣はだいたい5回くらいで退くので、正捕手のヘルナンデスは、僕の球を受ける機会がなかった。2番手や3番手、あるいはマイナーの捕手に受けてもらっていたので。それで僕の決め球がわからなかったことと、あとは、シート打撃でヘルナンデスと対戦し、たまたまフォークで空振りをとった時にびっくりした顔をしていたので、それが印象に残っていたのでしょう」

 大塚コーチが「いや、あれはスライダーなんだ。タテの」と続けると、ヘルナンデスは「ごめん、ごめん」とようやく理解を示し、「次の日から、ここ一番ではスライダーのサインを出してくれるようになりました」
大塚コーチはそこから15試合連続無失点。この年リーグ最多の34ホールドも記録した。

「メジャーでは、言葉が通じない中、はじめは捕手とのコミュニケーションでも苦労しましたが、どこに行っても、自分の考えをしっかり伝えるのは大事と学びました」

このページのトップへ

チーム内 コミュニケーション術
[page_break:ピンチの場面を想定して、準備しておくのも投手の仕事]

ピンチの場面を想定して、準備しておくのも投手の仕事

現役時代はリリーフとして“しびれる場面”での登板が多かった大塚コーチ。捕手とはマウンドでどんな話をしていたのだろう。

中日ドラゴンズ 大塚晶文コーチ

「基本的に捕手は“間”を置きにくるだけなんですよ。『大塚、ちょっと間を置いているだけだから』と。あとは『この一点はあげても良いから』 とか『しっかり腕振ってこい』とか、シンプルな会話が多かったですね。

 しかし今思うと投手はその状況で何を意識するのか、フォームだったり、配球、打者、走者の相手目線になって考えるだとか、マウンドでの言葉、動作、表情、イメージ。このような事を瞬時に分析、判断し実行しています。キャッチャーはこれらのことを日常から観察し投手と話し合い、その場面に応じた的確な言葉を投手にかけるべきです。

 そのような細かい作業を詰めて『一つの作品』を作って行くのがバッテリーの醍醐味です。メジャーの時は、投手コーチがマウンドに来て、次打者の配球の話をするんです。ですが、最終的に自分の好きな球を投げるので、会話は頭に入ってこなかったですね、英語もわからなかった。

 キャッチャーからは、『何投げたい』とか『Let’s go baby笑』しか言われなかったです。もっと英語が出来てれば深い話が出来たと思っていますね」

 B.C.リーグ・信濃グランセローズの監督兼投手(投手コーチ兼任)だった昨年は、伝える側になったが「いろいろ言っても伝わらないとわかっているので、簡潔な言葉で伝えるようにしていた」そうだ。

「そもそも投手は、ピンチになってから考えるのではなく、ゲーム前にどうするか、決めておかなければいけない。たとえば一死一、二塁のピンチになった時に、どういう投球をするか、何を意識するのか。専門用語で『メンタルリハーサル』というのですが、試合の前に、先発なら1試合通してどんな感じで投げるのか、想定しておくのも投手の仕事だと思います。
また、ピンチの場面では、感情が揺れ動くのでこれをすれば落ち着く、あるいは強気になる、という言葉、表情、動作を、ルーティンとして作っておくのも、投手には必要だと思います」

 秋季練習のさなか、新コーチとしてお忙しいにも関わらず、快くお時間を作っていただいた大塚コーチ。どうもありがとうございました。バッテリーの関係を改善することで、宝刀・タテスラが生まれたというお話が、とても印象に残りました。豊富な経験を生かした投手コーチとしての手腕にも期待しています。

(インタビュー・上原 伸一

このページのトップへ

チーム内 コミュニケーション術

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.27

【福岡】飯塚、鞍手、北筑などがベスト16入り<春季大会の結果>

2024.03.27

青森山田がミラクルサヨナラ劇で初8強、広陵・髙尾が力尽きる

2024.03.27

【神奈川】慶應義塾、横浜、星槎国際湘南、東海大相模などが勝利<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.27

中央学院が2戦連続2ケタ安打でセンバツ初8強、宇治山田商の反撃届かず

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.24

【神奈川】桐光学園、慶應義塾、横浜、東海大相模らが初戦白星<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.23

【東京】日本学園、堀越などが都大会に進出<春季都大会1次予選>

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.22

報徳学園が延長10回タイブレークで逆転サヨナラ勝ち、愛工大名電・伊東の粘投も報われず

2024.03.08

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.03.17

【東京】帝京はコールド発進 東亜学園も44得点の快勝<春季都大会1次予選>

2024.03.11

立教大が卒業生の進路を発表!智弁和歌山出身のエースは三菱重工Eastへ、明石商出身のスラッガーは証券マンに!

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.01

今年も強力な新人が続々入社!【社会人野球部新人一覧】