読売ジャイアンツ 鈴木 尚広選手(相馬高出身) vol.04
前回はスライディングのヒントなどを教えていただきました鈴木尚広選手のロングインタビュー。
ここまで4回連載でお届けしてきましたが、最終回では盗塁をもっと上達させたい高校球児の皆さんに鈴木尚広選手からメッセージをいただきました!
成功率を上げるために「一喜一憂しない」
読売ジャイアンツ 鈴木尚広選手
野球の深さを知ったのは、プロ入りしてから。ではプロ入り後、いつごろから盗塁に自信を得られたのかを尋ねると、「自信なんてないです」という答えが。
「自信というものは結局、周囲が認めて形作られていくことで、自分で作っていくものではないから」という理由にプロ意識がのぞく。
プロ意識は、鈴木選手の信念からも垣間見ることができる。
「与えられた役割に対して、100%の準備をして期待に応え責任をまっとうすることが僕の信念です。ただ野球をプレーしている以上、ずっと成功、ということはありえない。成功もあれば失敗もあります。問われるのはその先。1回1回の成功、失敗に一喜一憂しないで、今までやってきたことを変えずに続けていく。それは“強さ”です」
通算200盗塁を達成したときに発した「同じことを淡々と続けることが重要」という言葉に、鈴木選手が特別な存在である理由が隠されていた。
「人間、一喜一憂するのは簡単なんです。でも、ひとつの局面が過ぎれば、また次に新たな勝負が待っている。一喜一憂していると、次の勝負に隙を生むことになる。成功してガッツポーズもしますが、それも自分の感情を大きく左右するほどのものではありません」
たしかに代走で登場し、グラウンド上に姿を見せた鈴木選手は、つねに泰然自若としている。
「オドオドしないように努めていますね。以前は塁上でハッタリをかましていることもありました(笑)。本当は心臓の音がバクバク聞こえていたり、地に足が着いてないと感じていたり、指に力が入りすぎていたりしたときも、心の中にしまっておくことで周りに気づかせないようにして。今ではもう冷静に対処できるようになりましたけど。
だって、僕の不安な気持ちを露呈したら、味方には不安感を、相手には安心感を与えてしまいますから。逆に、緊張する場面でも堂々としていれば、相手からすると『あいつ、なんでこんな緊迫したときでも平気なんだ』と思わせることができる。それだけで自分にプラスになる。そういったプラス面をあらゆるところからかき集めることが、成功率アップには必要なんです」
投手が主導権を握る中、いかに自分の世界に引き込んで盗塁するか。いついかなるときも堂々と。これもまたひとつのヒントだ。
盗塁とは「判断能力」である
読売ジャイアンツ 鈴木尚広選手
最後に、高校球児へ盗塁に対する心構えを教えてもらった。
「これだけはわかってほしい、というのは、『いいランナーは足の速い遅いではない』ということです。“俺は足が速いから盗塁できる“、“僕は足が遅いから盗塁できない“というものではない。そう考えてしまうと、足が遅い選手は走塁を二の次に考えるようになって、練習にも身が入らなくなるでしょう。
高校生もアップや練習の締めに走塁練習は必ずやっていると思います。ただ、イチバンおろそかにしやすいんです。
おろそかにしないためには、意識を変えることが必要です。いいランナーとは『判断能力の優れた選手』。たとえ足が速くても判断が劣っていれば、判断に優れた足の遅い選手に負ける。それが走塁です。盗塁もまたしかり。そして、判断能力は練習の積み重ねで習得することができます」
まずは考え方の根幹を変えてみよう。「盗塁は判断能力」ととらえることで、足が遅いと感じている選手はおろそかにするどころか、逆に最も強化しやすい能力として練習に興味をもつことができるはずだ。
「興味がわいてくれば試行錯誤しだすはずです。相手の守備位置を俯瞰できるように意識したり、バッターのタイプやキャッチャーの構えている位置から可能性を探ったり。
さらに進むと、ピッチャーが次に投げる球種、コースを予測するようになって、バッターもカウントごとに引っ張るのか、おっつけるのか、などを予測するようになる。そういった細かな準備ができるようになれば、よりいいスタートができるようになります」
足というのはそう簡単に速くならない。だからどうしても盗塁を諦めがちになる。しかし盗塁は判断能力。まずは、いいスタートをきる準備をいかにできるかを考えてみよう。
鈴木選手の考えに沿えば、いいスタートがきれれば、いい加速もいいスライディングも流れでついてくる。それで成功体験を一度でも得ることができれば、味をしめてより試行錯誤をするようになる。
そんなにうまくいくわけがない……と疑う人がまだいるかもしれない。百聞は一見にしかず。そういう人は、「お手本」であり説得力のありすぎる「証拠」でもある鈴木 尚広選手の盗塁をまず直に見てみることをオススメする。
(取材・文/伊藤 亮)