Interview

福岡ソフトバンクホークス 本多 雄一選手(鹿児島実業高出身)

2014.06.27

 2010年(59盗塁)、2011年(60盗塁)と2年連続でパ・リーグ盗塁王を獲得し、昨シーズンまでの8年間で積み上げた盗塁数は283個。名実共に球界を代表する快速選手として鳴らすのが福岡ソフトバンクのセカンド・本多 雄一である。

 鹿児島実高、社会人・三菱重工名古屋、そして福岡の地で磨いてきた走塁技術とは?
昨年はチームメイトの松田 宣浩三塁手と共にWBC日本代表も経験した本多選手が、高校野球でも実践できる盗塁・走塁の秘訣について、そっと教えてくれた。

「脚の速さ」と「スチール」は別物

福岡ソフトバンクホークス 本多 雄一選手

――本多選手といえば「スピード」。その速さに気付いたのはいつごろなんですか??

本多 雄一選手(以下「本多」) 速さは生まれ持った部分が多いと思うんですが、もともと走るのは小さいときから好きだったんです。いつも友だちと競争していました。

――それを「盗塁」という部分に落とし込むにはどう考えていくことが必要なのでしょうか?

本多 足の速さは自分でも分かっていたので、まずは盗塁を仕掛けていくことをしてみました。ただ、そこで盗塁が簡単でないことを知ったので、次に『どうやったらセーフになるのか』を考え始めたんです。一歩目のスタートや、走っている中でのストライドの伸ばし方、最後のスライディングまで。それらが全部重なり合うことでスチールが成功する。

 
だから、脚の速さとスチールは別物なんです。単なる競争なら速く走ればいいことなんですが、盗塁はそこに内容が伴ってくるんですね。

――そこに気付かされたのは、社会人・三菱重工名古屋に進んでからですか?

本多 はい。鹿児島実時代は盗塁に対する欲がなかったので。社会人3年目のとき、盗塁の楽しさに気付いて、プロに入ったらさらにレベルが高くなったことで、盗塁することへの欲が出てきました。

――「足が速い楽しさ」が「盗塁の楽しさ」へと変化したわけですね。

本多 そうです。盗塁ばかりでなく、走塁で次の塁を狙う楽しさも生まれてきました。相手キャッチャーがワンバウンド捕球をしたときに次の塁を狙ったり、相手野手のちょっとしたスキを狙って次の塁に進む。色々な盗み方が浮かんできました。
ただ、これも自分の足が速かったから生まれてきたことだと思うんです。それを自分が知っているからこそ、さっき話した考えが浮かんでくるのだと思います。

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[page_break:脚力を盗塁・走塁に結び付ける「スタート」]

脚力を盗塁・走塁に結び付ける「スタート」

――ただ、高校球児の中にも脚が速い選手は多くいますが、そこをなかなか盗塁・走塁に落とし込めないケースも目立ちます。本多選手からそんな高校球児へ盗塁・走塁のポイントをあげるとすると、どこになりますか?

福岡ソフトバンクホークス 本多 雄一選手

本多 盗塁はスタートを切らないと出来ないことなので、『スタートを切る勇気』が大事ですね。スタートの速さ・遅さは個人によってあると思いますが、そんなことを気にせず、まずは投手が動いたら走ってみる。単純なことですけど、そこから始めてみたらいいと思います。

『いいスタートを切ろう』とか『アウトになったらどうしよう』とか普通は考えますけど、一度そういった考えを取り去って投手が動いたらスタートを切ってみる。そういった練習から始めた方がいいと思います。

――本多選手の中でポイントにしている部分も「スタート」ですか?

本多 そうですね。スタートさえよければ、道中も最後も決まってきますから。リードオフの大きさより、それだと思います。
リードについては大きければ大きいほどいいんですが、実際の試合だとリードの大きさは相手投手によって変えなくてはいけない。自分がリードをした上で、一歩目・二歩目を強く踏み出せるスタートポジションを取れるか。そこが大事だと思います。

――二塁盗塁の際の一歩目の踏み込み方を教えて頂けますか?

本多 これは人によって違うと思いますけど、自分の中心線(背骨)から両脚のバランスを「50・50」とすると、左脚を蹴って進む感覚ですね。ただ、体はセカンド方向に向けるんです。体の意識は右側にあるけど、下半身は左側にかかっている。そんな感じです。

――難しい感覚ですね。体の作り方も考えないといけない。

本多 だからこそ、どんどん走って自分にとって一番合う感覚を掴んでいってほしい。僕のマネをするのもいいですが、自分で一歩目をどうすれば強く蹴れるかを考えて、二歩目からいいスタートにつなげていく。一番合った方法を長い時間かけて探していくことが必要なんです。
僕もすぐ見つかったわけではないんですよ。試合や練習を通じ『ここかな?』と思いながらやっていくことで、『ここだ!』というものが見つかっていくと思います。

――本多選手の場合は、いつそれを発見できたのですか?

本多 いい走りができた日があっても、次の日にいい走りができるわけじゃないんですよ。「脚にスランプはない」と言われる方がいますが、足にスランプはあるんです。速さのスランプでなく、自分の体の使い方や自分の納得いく走り方ができるかに関してのスランプなんですが。

 だから、僕もラクには探せていませんし、今も『ここだ』というのはないんです。これだけ走ってきましたが、まだ試行錯誤しています。でも、その時になれば覚悟を決めて、いい感覚を思い出して走りにいってます。
ただ、プロに入って一番いい走りができたのは2011年(60盗塁で盗塁王・成功率.779)ですね。この当時は『スタートを切ったらセーフになるだろう』という体の使い方ができていました。

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[page_break:ベースを「見ず」にベースを踏もう]

ベースを「見ず」にベースを踏もう

福岡ソフトバンクホークス 本多 雄一選手

――ベースランニングについてはどうですか?

本多 ベースランニングこそ、ただスピードが速いだけではうまくなりません。盗塁は技術面が大事になりますが、ベースランニングはそこに、見ながら走るということが加わってくるので難しいです。

――確かに。ボールの行方、打球方向、相手野手の動き、味方ランナーの動き…などですね。

本多 まずボールは見るんですが、そういったものを頭に入れてカットプレーが乱れたときに、どこまでいけるかですよね。とくに二塁から三塁へ進むときなどは、状況を自分で見ながらベースランニングしないといけないと思います。

――高校生でそれが出来る選手はほとんどいないのが現状です。

本多 ただ、高いレベルに行きたいのであれば「できない」のではなく「しないといけない」んです。できるようにするために練習をすることが大事です。

――そんなベースランニングをするためのポイントはありますか?

本多 ベースを回るときは、ベースを見ながら踏むのではなく、ベースを見て、周りの状況を見ながらベースを見ないで踏むんです。ベースを見ながら踏んでいたのでは、状況の変化に対応できない。
打球の行方を見ながら、視野でベースを踏む。これで二塁まで行けるケースは結構あると思います。

――ありがとうございます。となると守備面でも「いい走り」が大事ですね。

本多 二遊間の打球でもしっかり走って正面に入る、ここも足の使い方が大事ですね。

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[page_break:「いい走りをする」ためのコンディション作り]

「いい走りをする」ためのコンディション作り

福岡ソフトバンクホークス 本多 雄一選手

――本多選手の言われる「いい体の使い方」、「いい走り」をするためには、前提として「いいコンディション」を作ることが大事になると思います。自身で気を遣っていることはあるのですか?

本多 練習や試合後のストレッチや、汗をかいて体をケアすること。そして僕が一番心がけているのは、試合前の練習への入り方です。
ストレッチをしっかりして、準備運動で「一番いい走り方」を探すんです。ただ自分の体を動かすのではなく、試合でどう動くかをイメージしながらです。こればかりは自分でしか分からないことなので、そこをコントロールしていく練習もやらなくてはいけないと思っています。

――そこにつなげるにはグラウンド外も重要な要素になりますね。

本多 そこも気を遣っていますね。球場に入るとき、『ああ、ここが堅いな』『ここが動かないな』ということを確認したら、そこを準備運動で意識して、汗をかいて筋肉を伸ばすようにはしています。

――睡眠に関してはどうでしょう?

本多 実は僕、あまり睡眠を多く取れないタイプなんです。夜中にも目を覚ましてしまう。だから、短い時間で深く眠ることを大事にしているんですよ。
なので、試合前にも仮眠をとったりしています。15分~20分眠ると疲労が回復するので。野球同様に日常をしっかり過ごすことも目を向けています。

――貴重なお話の数々、ありがとうございました!

本多 ありがとうございました!

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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