Interview

横浜DeNAベイスターズ 冨田 康祐投手(PL学園出身)

2014.03.26

 大阪を代表する名門校・PL学園PL学園といえば、自主練習の時間が全体練習より長い学校ということで有名だ。そしてその練習スタイルで数多くのプロ野球選手を輩出してきた。その中身とはどんなものなのか?
 個人練習の目的、PL学園の環境などを横浜DeNAベイスターズの冨田 康祐選手から伺ってみた。

自主練習は先輩後輩同士で行うのがPL流

横浜DeNAベイスターズ 冨田康祐投手(PL学園出身)

――PL学園は自主練習の時間が全体練習より長い学校で有名ですが、中学生の時から自主練習を多くやる学校だと知っていましたか?

冨田 康祐選手(以下「冨田」) 自分は愛知県出身で、高校は甲子園に行ける学校に行きたいという思いがありました。そんな中、中村 順司監督(名古屋商科大学野球部監督)と縁があって、大阪へ行くことになりました。その時、PL学園の監督だった藤原監督(現・佐久長聖監督)から自主練習が多いということは聞いていました。

――実際に入ってどうでしたか?

冨田 入学当初は全体練習についていくことで精いっぱいでしたね。毎日ハードな練習で、ランニングの量が多いので、最初の1か月は長く感じました。全体練習は16時から19時までで終わるのですが、中身は濃かったです。
 投手はランニングが多いのですが、アップ、キャッチボールをやった後、実戦形式の練習を多くやりました。青山学院大、独立リーグへと進んでも、実戦形式の練習は高校時代が一番多かったですね。

 ランナーをつけたり、投手が投げた球を打者が打って生きた打球を処理する。そういう練習が非常に多かったですね。

――当時の冨田選手はどんな練習を行っていましたか?

冨田  1年生の頃は先輩の練習に付き合っていました。自分でやるというよりは先輩の練習を見に行って、先輩が投げてくれるのを少しだけやる。1年生だけで練習することはなくて、その時に先輩からいろいろ教えてもらいました。たまたま取材に来ていた記者が驚いていたのは、3年生が1、2年生に丁寧に指導しているところだったそうです。当時は他の学校ではあまりなかったことのようですが、僕らの間では普通のことでした。監督、コーチにも教えてもらいますけど、先輩たちに教えてもらう事の方が多かったです。

――むしろ監督、コーチよりも先輩たちに教えてもらう時間の方が長かったのでしょうか?

冨田 例えば、ティーを上げて、10球だけでもすごく集中してやっていました。とにかく1年生のときは先輩たちの動きを見て覚えることが多かったです。

――学年が上がって、練習スタイルを理解して、目的は変化していったのでしょうか?

冨田 自分が上の学年になると、後輩に練習を手伝ってもらいながら、後輩への指導も行います。指導する中で、自分が教えてもらったことを思い出すんですよね。

――自主練習は1人でやるというイメージが強いのですが、PL学園は先輩とコミュニケーションを取りながらやっていくのですね。

冨田 打撃練習は、マシンでは打たずに、手投げの球を打つことを重要視しています。緩いボールでもタイミングを取って打つことが大事なので、相手がいないとダメなんですよね。

ライバルに差をつける自主練習の組み立て方

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[page_break:自主練習は個人の技術を磨く場所、全体練習は技術を発揮する場所]

自主練習は個人の技術を磨く場所、全体練習は技術を発揮する場所

横浜DeNAベイスターズ 冨田康祐投手(PL学園出身)

――全体練習は実戦形式の練習が多いとお聞きましたが、個人練習は個人の技術を磨く場で、全体練習はチームとして勝ちを目指すという目的があるわけですね。

冨田 自分たちは甲子園という目標に向かってやっているので、全体練習で個人という考えはないですね。個人練習で磨いた技術を発揮しながら、実戦形式では連係などを確認する。
 走塁は相手がいないとできないことです。全体練習はチームのため、個人練習は個人の技術を磨く場、そういうことを切り分けて練習が出来たことは大きいですね。

――全体練習になると、ミスには結構厳しくなりますよね。

冨田 ミスをしたら、その日の練習を外されてしまうぐらい厳しいです。監督に外れろと言わればそれまでです。

――どういうミスが対象になるのでしょうか? ミスといっても単純なミスであったり、準備不足のミスであったりと色々ありますが。

冨田 ミスも積極的なミスは監督もチャレンジしてこいと言ってくれるのですが、消極的なミスや、同じミスを繰り返したら許されないですね。投手は打たれたことよりも、バント処理、ベースカバーを怠ったときに外されます。バントシフトの練習をするときは監督、コーチが打席に立ちます。そこでストライクを投げるのは、かなり緊張するんですけど、公式戦の緊張感はもっと大きいものです。だから、投手は練習で思ったところに投げられないといけません。そうでないと、守備陣がシフトを取る意味もないんです。

――結果よりも過程にこだわっているのですね。

冨田 ストライクが入らなかったら、練習してこいと言われて終わりです。全体練習は実戦形式の練習が多いので、ある程度のレベルに達していなければ、参加することができません。全体練習に参加できるように、納得いくまで自主練習で個人の技術を磨いていくことが大切です。

――となると、練習メニューは監督、コーチに相談する必要がありますね。

冨田 当時、野球ノートをつけていました。その日の練習内容や反省を書いて、それを監督たちが毎日チェックして、こういう練習法もあるよというコメントを頂いていました。それを参考にしたり、その日の練習で失敗したこと、たとえばバント処理をミスしたら、ネットに向かってボールを投げる練習をやっていました。

――やはり自主練習といっても指導者の助けが必要なのですね。

冨田 そうですね。とはいっても、指導者からああしろ、こうしろと言われたことはなく、もっとこういうことをやったらいいんちゃう?というアドバイスを頂くことが多かったですね。

ライバルに差をつける自主練習の組み立て方

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[page_break:自主練習に取り組むのはPL学園では当たり前]

自主練習に取り組むのはPL学園では当たり前

横浜DeNAベイスターズ 冨田康祐投手(PL学園出身)

――冨田選手にとってPLの自主練習のスタイルはどんなメリットがありましたか?

冨田 全体練習では自分の技術を磨く時間がないんです。バント処理の話をしましたが、自主練習は長所を伸ばすだけではなく、課題として残ったところを黙々とできるということで、弱点克服にもなります。個人の能力を伸ばすためには自主練習は大切だと思います。

 自主練習では基本的に監督、コーチはいません。監督たちに見られている中でやるのと、自分達で考えながらやるのとでは、やっぱり効果が違うと思います。でも監督、コーチは自分たちが見えないところで見ているんですよ。でも何も言わない。バント処理の練習をしていると、たまにコーチの方から「もっとこうやったらいいんじゃないか?」とアドバイスをしていただくことがありました。

――PL学園の意識の高い選手たちは、冨田選手にとってはどんな影響がありましたか?

冨田 みんなそれぞれ伸ばしたいこと、克服したいことに重点的に取り組んでいました。

 やはり誰よりも負けたくない強い思いがあったので、その人がやった以上に取り組まなければならないと思っていました。誰よりも負けない自主練習をするのはPL学園では当たり前だったので、自分の中では自主練習をやっている!という意識ではなく、当たり前のことでした。練習が終わった後に打ち込みをする、課題克服のための練習など、PL学園ではごく当たり前のことでした。

  逆に大学に入って、自分たちの練習スタイルが当たり前ではなかったと気付きましたね。学校によって練習環境は様々じゃないですか。寮がないために練習時間が限られていたり、狭いスペースでしか練習できなかったり。それは弱い学校だけじゃなく、強い学校でも、制限された中で練習しているチームがあって驚きましたね。一番驚いたのは横浜高校に週1回休みがあったことですね。僕らの学校は、休みがなかったので。PL学園はなかなか外に出られなかったので、半年外出できませんでした(笑)。

――練習方法は人それぞれなのですね。

冨田 そうですね。PL学園では、自主練習をやらない人間は一人もいなかったと思います。自分もそうですし、みんな負けず嫌いですし、自主練習をやらないと追い抜かされて、試合に出場できないですから。守備でアピールしたい選手は後輩にノックを打ってもらって、グラブさばきの練習をしたりだとか、打撃でアピールしたい選手は打ち込みを行ったりだとか、投手はランニングをもっとやって下半身強化したりとか。何でお前、そんなに練習しているの?とか、何で、お前練習しないの?もっとやれよと言いたくなる選手はいなかったので、意識は高かったと思います。

――もうそれが部員全員にとって普通なのですね。

冨田 それが先輩から代々続いてきているので、下級生の時は先輩についていって見てもらい、上になったときは教えるのが当たり前になっています。監督やコーチからも、後輩に打撃練習に付き合ってもらうときは自分と同じ数ではなくてもいいから、必ず打たせて、後輩に指導するようにとずっと言われてました。その中で自分も気付くこともあるので、自分だけの練習で終わってはいけないと思います。

――やはり後輩を指導することはメリットがありますでしょうか?

冨田 後輩に指導することで、自分が悪かった時に何が悪かったのかを思い出しますし、指導するときに自分のことしかわかっていないと、引き出しが少ないので。他の人をいろいろ見て指導するPL学園の環境は良かったと思います。

――PL学園の3年間は大学、独立リーグでプレーする中で、どう生きたのでしょうか?

冨田 コーチから、野球ノートに『PL野球とは基礎を大事にする野球だ』と書いてもらったことをすごい覚えているんですよ。基本を大事にした練習をよくやっていて、大学4年間、その後、独立リーグでプレーしましたが、当時の香川オリーブガイナーズの監督はPL学園出身の西田 真二さんだったんですけど、高校の時に言われたことと一緒のことをおっしゃっていました。

 本当に基本的なことしか言わない方で、何を言われたか?と聞かれると難しいんですけど、自分にとっては懐かしさを感じましたね。高校で野球をやっているみたいだなと。

――PL学園は練習法について選手から監督に意見することはあるのでしょうか?

冨田 当時の藤原監督は選手との対話を重視していて、監督から話を聞いてくれたので、いろいろと話をしていましたね。「お前はもっとこれをやれ」と頭ごなしに言われることはなく、選手の話を聞いて、「もっとこうしたらええんちゃう」とアドバイスをしていただきました。その話を聞きながら、自分の中で考えて練習に取り組むことを意識していました。

――自分で考える習慣があると、技術もより突き詰められるのですね。

冨田 そうですね。ただ言われたことをやるだけではなくて、自分の考えを持ってやらないと聞かれた時に答えられません。言われたときも、鵜呑みにするのではなく、自分なりに考えて取り組むことが大切ですね。

ライバルに差をつける自主練習の組み立て方

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[page_break:自主練習を継続するには負けず嫌いな気持ちと野球が好きであるか]

自主練習を継続するには負けず嫌いな気持ちと野球が好きであるかが重要

横浜DeNAベイスターズ 冨田康祐投手(PL学園出身)

――自主練習を継続するかは本人の心がけ次第だと思います。冨田選手が現在プロでプレーできているのは高校時代の自主練習が大きかったかと思いますが、どういう気持ちで取り組むことにより自主練習を継続できたのでしょうか?

冨田 やはり野球が好きですし、他の人に負けたくない。負けず嫌いなので、他の人がやっていたら、それ以上にやろうと思っていました。だから全体練習が終わった後の時間が重要だと思いますね。

――大人になると入る知識の量がだいぶ違ってくると思いますが、自分で考えて練習するという習慣が身につくと、よりパフォーマンスアップできるのでしょうか?

冨田 高校の時は狭い世界で、外の世界に触れることが全くなかったので、なかなか知識が広がらなかったですね。大学生になるとトレーニングを学ぶ機会が多くなりますので、いろいろな人の話を聞いて取り入れたりします。
 でもそれを自分の中で消化しきれないと意味がないじゃないですか。そういう意味で、高校時代の練習は自分にとって大きかったと思います。

――ここまで高校時代についてお聞きしてきました。今度はプロとして、ライバルに勝つためにどんなことに取り組んでいますか?

冨田 1年目に先輩に教えてもらったことは、マウンドに上がったら、自分ができないことはできないのだから、自分のできることをしっかりやるしかないということです。僕は育成枠で入団したので、何が何でもアピールしなければならないという気持ちでした。だから、力んでいたところがありました。

 教えてくれた先輩はファームにいても、自分のやることをしっかりとやって、いつ一軍から呼ばれてもいいように準備をしていた方でした。自分のできることをしっかりとやる。今で言ったら、中継ぎなので、登板するときにしっかりと力を出せる準備をすることの大切さを学びました。

――冨田選手が一番輝けるポジションは中継ぎなのですね。

冨田 今は中継ぎですけど、投手の華は先発だと思っています。でも中継ぎ、抑えでもすごくやりがいがあります。その楽しさは独立リーグでプレーしているときに感じたことです。独立リーグではそのポジションごとに楽しさがあることを学ばさせてもらいました。
 現在は中継ぎでやらせてもらっているので、そこで結果を残し、信頼を掴んで、いろいろなポジションを任されるようになりたいですね。

――結果を残すために今、磨いている技術を教えていただけますか?

冨田 簡単に言えばキレです。ストレートが売りですが、どうやって相手に対して打ち難くするかを追求しています。また変化球は三振が取れる決め球になるように精度を上げていきたいと思っています。

――最後に今シーズンの目標をお願いします。

冨田 1点も取られたくない気持ちです。でも去年一軍で1試合しか投げられなかったですし、3分の2イニングで終わって、とても悔しい思いをしました。今年は一軍マウンドで投げられるように準備を行い、1回一軍に上がったら、もう落ちることなく投げられるように頑張りたいと思います。

 冨田選手、ありがとうございました。自主練習は技術だけではなく、その選手の自主的に取り組む姿勢を形成していく場所なのですね。今シーズンは一軍のマウンドに登り、常に一軍で活躍出来る活躍を期待しております!

ライバルに差をつける自主練習の組み立て方

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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