信濃グランセローズ 大塚 晶文監督
「球が消える」。そう評されたスライダーと、最速96マイル（約154km/h）の速球、さらにフォークボール、チェンジアップを操り、クローザーとして世界を制した男がいる。
今季から独立リーグ・BCリーグの信濃グランセローズで選手兼任監督として指揮をとることになった、大塚 晶文だ。
横芝敬愛高校から東海大、日本通運を経て1997年に近鉄バファローズに入団。クローザーとして活躍しチームを優勝に導いた後、2003年から中日ドラゴンズへ。2004年～2005年はサンディエゴ・パドレスでセットアッパーとして地区優勝に貢献。2006年にはWBC第1回大会に日本代表のクローザーとして参加。絶体絶命のピンチを切り抜け日本に世界一の栄冠をもたらし、WBC初の胴上げ投手となった。その年から2007年まで所属したテキサス・レンジャーズでは、佐々木 主浩以来日本人メジャーリーガー2人目となる30セーブを達成…。ざっと経歴を並べるだけで、その凄さがわかる。
そんな大投手の集中力とはどんなものなのだろうか。全球児、必見。世界を制する集中力講座が始まる。
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呼吸は自分の状態を把握して使い分ける
――大塚監督の集中の仕方を教えてください。リリーフとして勝敗のかかる場面で多く登板されていましたが、どのように集中力を高めていったのでしょうか。
大塚 晶文監督（以下「大塚」） まず僕がやっていたのは、呼吸です。腹式呼吸で、鼻から吸って、おなかを膨らませて、口から細く長く吐く。緊張して、あがっている状態っていうのは、吸ってばっかりなんです。呼吸が止まっちゃっていたりする。それを、ゆっくり吐いていく。それを4，5回ですね。
――吐くことが大事なんですね。
大塚 吐くことで副交感神経（※体を落ち着かせている時に強く働く神経）が働くんです。吸うとその逆、交感神経（※体を活発に活動させる時に働く神経）が働く。だから、今の自分の状態というのを把握しないといけないですね。あがっている状態なのか、気持ちが下がっている状態なのか。気持ちが下がっていたら、逆に細かく鼻からスッスッスッスと吸って、気持ちを高めていったり、と。
それで、腹式呼吸では吸うときに、空とか宇宙から、プラスの気が入ってくる、というのを意識するんです。プラスプラスって書いてあるような気が入ってるイメージ。で、そのプラスの気がぐーっと自分の体の中のマイナスの気を押し込んで、頭の後ろ、背中、足の後ろ、そして前に戻ってきて、痛いところだとかマイナスのイメージ等の全部が口から、うわーっと押し出される感覚です。
その状態にするとまず落ち着くんです。でもそれだけではダメ。僕はそのあと、イメージするんです。目をつぶって、バッターを。そしてそこでするのを僕は「逆腹式呼吸」って呼んでます。腹式呼吸って、吸ったときにお腹が膨らむんです。でも逆腹式呼吸で僕は、吐くときにお腹をぐっと出す。そうやって横隔膜（※胸とお腹の境目にあり、呼吸に大きな役割を果たす。通常の腹式呼吸では吸った時に横隔膜が下がり、お腹が膨らむ）を刺激するんですね。この横隔膜の使い方というのが、投げる時にも使われているんです。投げる時に、ふっ！って力が入りますよね。あの時の動きなんです。イメージの中でも、横隔膜を使うんです。イメージで投げている時に、ふっ！と。そうすると、(リリースで)切った時のイメージと一緒なんです。
自分で世界を作ってしまおう
信濃グランセローズ選手兼任監督 大塚 晶文氏
――気持ちを持っていったり集中するためにイメージをする、というのはよく聞きますが、呼吸も連動させる、というのは凄いですね。
大塚 そう、そこまで使うんです。そうやると、体の四肢にまでイメージした動きが伝わるんです。
それが出来たら、試合が終わって監督とハイタッチしているところまでイメージする。全部プラスのイメージをするんです。
そこまで出来ているので、ブルペンにいて、電話がかかってきたらもう俺だ、と動き出します。そこで慌てることはないです。コーチも何も言いません。そこまで気持ちを作っていますから。ブルペンのピッチャーって、電話の音で吐き気を催す人もいますからね。プレッシャーが凄くて。そうなったらマイナス感情が出てしまうので、僕の場合は逆にその音で「よし、やってやる！」とスイッチが入るようにしました。もうそうなってくれば誰も僕に話しかけてくる人はいません。そこまで空気を作ってしまうんです。
話しかけられるような隙を作ってしまうと、集中力がなくなってしまいます。だから、自分で目をつぶって腹式呼吸をしていく。
――自分で世界を作ってしまうんですね。でもそこまで集中しきるって難しそうです。
大塚 高校生だってやってみればいいんですよ。目をつぶって、腹式呼吸をする場面は一人になる。1回周りに言えばいいんです。「何してるの？」って言われたら「いや、俺今集中しているから」って。そうすれば「アイツがこうしているときは話しかけないほうが良いんだな」ってなりますから。それで集中が出来ますよね。
あと、ルーティンも作る。僕の場合、ブルペンで最後の1球は声を出す、コップから一口飲んで、残りをバシッと地面に投げつけていく、とかね。そうすると「気合入ってる！やってくれそう！」というのがお客さんたちにも伝わりますよね。とにかくカッコ良く行くんです。そうしたら、周りもワクワクしますよね。そういう空気を作るということが大事ですね。強い自分のイメージを自分にも周りにも見せつける。そうなった時点でゾーンに入ってますから。
それが出来てマウンドに上がったら、僕はボールを見るんです。そして、絶対抑えるぞ、俺は気が出てる、とプラスの言葉を言い続ける。その時も自分の丹田（※おへその下あたり）から良い気が出ているイメージをするんです。最後に、空に向かってお父さんお母さんありがとう、って言って準備完了です。
集中するには一点を見つめる！
信濃グランセローズ選手兼任監督 大塚 晶文氏
――そこまでイメージをして集中しきって実際に投げる時は、何を考えているんでしょうか。
大塚 投げる時は自分の体のどこをどう動かすしか考えていないですね。自分の体重配分だとか、自分の行動しか考えない。腕がしっかり振れてコースに行けば打たれないっていうのがわかっているので。
――集中しきった状態って、どんな風にものが見えるんですか？マウンドは、どんな景色が見えるんでしょうか。
大塚 バッターの眼。キャッチャー。審判。まさしくピッチャーからみたバッターボックスの図です。僕はそこで眼を見ます。そこでの気のぶつかり合いが色々あるんですよね。うまく逃げるヤツもいるし、負けないぞとガチッと来るヤツもいる。そこで、自分の状態がどうなっているのか把握することも大事なんです。僕は毎回グッと気合を入れて向かっていくわけではないです。深呼吸をして落ち着いてスパーンと投げる場合もありますし、ケースバイケースですね。
――そこまで集中していると、気を高めていっても冷静な自分がいられるんですね。
大塚 そう、冷静さもなくちゃいけないですね。高校野球の場合、その1試合にかかっているという場面が多くて、かなり緊張すると思います。だからこそ自分を知っていないといけないですね。そこでガッとさらに緊張感を高めて行くのか、それとも落ち着いていくのか。まずは自分の状態を把握することですね。
一つ、最後にアドバイスです。集中するには、一点を見つめることです。それで集中できます。
大塚監督、貴重なお話ありがとうございます！
イメージをしながらの腹式呼吸と、逆腹式呼吸。集中する時は一点を見つめる等、すぐにでも使える技が満載でした。皆さんもぜひ参考にしてみてください。
