試合レポート

大阪桐蔭vs城東工科

2011.05.03

変わらない大阪桐蔭の伝統とは

 スカウトがつぶやく。

「なんぼ速いねん」

大阪桐蔭の2番打者・山足の一塁到達タイムを計っていた時のことだ。

 右打者なのに、3秒台を記録した脚力に惚れこんでいる。
だが、好タイムを叩きだすのは山足だけではない。大阪桐蔭の打者、すべてが速い、もしくは、それなりのタイムで一塁を駆け抜けるのだ。
大阪桐蔭・西谷監督は言う。
「脚が速いのは山足と代走で出た小中だけです。後は能力で、速さを持っている選手がいるわけではありません。ただ、すべての選手がどんな打球でも手を抜かないことは徹底している」

大阪桐蔭と言うと、すぐに「タレント集団」「強力打線」などと呼ばれることが多い。
この日も、大量13得点。投げても、先発の平尾が5回で10奪三振と派手な活躍をした。
そうした大阪桐蔭の評判を否定はしないが、それだけで戦っているチームではない。
いつも思うことだが、大阪桐蔭ほど、全力疾走というテーマに対して当たり前に取り組んでいるチームはあまりない。

「チームとして全力疾走をしようとか、選手に義務付けているわけではありません。むしろ、今はそれが当たり前。僕が監督に就任したころは口酸っぱく言っていましたけど、全力疾走しない選手は試合に出る資格はないというのは、伝統として受け継がれている」と西谷監督は力説する。


 どのチームにも、徹底事項はある。
しかし、それが自然とできることこそ、真の強いチームだ。

世間は結果が出れば騒ぎ立てるが、そうでないときは注目しない悪い部分がある。大阪桐蔭は結果を残している時も、そうでない時も変わらぬ姿勢で野球に取り組んでいる。
「桐蔭はガツンと打つとか、中田(日ハム)は何本塁打を打ったとか、そういうことばかり注目されますけど、僕らがやることを変えたわけではありません。今は、そういう活躍をしていないから、目がそっちに行くかもしれませんね」と西谷監督は皮肉っぽく笑う。

 今日の試合では、1回裏、大阪桐蔭は7得点を奪った。そのうち、バントでの内野安打が二つあった。
城東工科の守備が良くない反応を見せていないとはいえ、一度たりとも手を抜かなかった走塁は見事と言える。
その積み重ねが4番・河原の走者一掃適時三塁打を生み、大量得点を生みだしたのである。


 城東工・見戸監督は「大阪桐蔭は良いチーム。やれることをやっている。(試合の中で)絶対に手を抜いていない」と、傍目では個人の力量差が出たように見えた試合を分析した。
もともと、能力があるのに、小さなことを積み重ねているのだから、強いチームになって当然である。

 西谷監督が総括する。
「1%ではなくて、0,01%までの可能性に懸けて、全力で走る。でも、それは試合だけではできないと思います。練習での積み重ねないといけない。ゲージを運ぶ、ボールを集める、日頃の練習の中でもちゃんと走れているか。そのスピード感が試合でも出て、タイムが良いと評価してもらえてているのだと思います」。

 大阪桐蔭の伝統はそこから始まっている。

 『グラウンドでは3歩以上は歩かない』。

(文=氏原英明

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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