強豪・早稲田大ボート部から学ぶ!エルゴメーターの正しい活用術【後編】
前編では、強豪・早稲田大ボート部が取り組んでいるトレーニング法について伺いましたが、後編ではトレーニングの正しい動作をお伝えしていきます。
正しいフォームでなければ本来の目的は果たせない
早稲田大漕艇部・石田 良知選手(3年)
ところで高校球児のみなさんは、正しいフォームでエルゴメーターを活用しているだろうか?内田 大介監督は「トレーニングは、たとえばスクワットがそうであるように、エルゴメーターも正しいカタチで行わないと、目的は達せられません」とキッパリ。そして次のように続ける。
「運動能力が高い他競技の選手によく見られるのが、上体主導というか腕の力に頼って漕いでしまう選手です。あと、ウチの初心者にもいますが、太腿の前側しか使えていない選手も少なくないですね。筋力に自信のある選手が“おりゃー”という感じでハンドルを引っ張り、ワイヤーが波打ってしまうケースも見受けられます。こうしたことは、タイムの過度の重視も1つの原因になっているかもしれません。タイムを競うのは悪いことではありませんが、それは正しいフォームで漕げるようになってからの話だと思います」
今回の取材で実技モデルをお願いした早稲田大漕艇部の石田 良知選手(3年)は、滋賀・彦根東高のボート部時代、野球部の選手が正しくないエルゴメーターの漕ぎ方を目の当たりにしてきたという。石田選手はエルゴメーターで決められた距離をどれだけ早くゴールするかを競う、アジアインドアローイング大会で、昨年2015年、日本代表としてアジアチャンピオンになっている。
「野球部の選手はウエイトなどでみっちり鍛えていて、腕力もあるので、エルゴメーターもボート部顔負けのスピードで漕ぐんです。でも終わると、“腕がパンパンだ”と言うんです(笑)。下半身、股関節回りの筋肉が使えていない証拠ですね。エルゴは本来、腕で漕ぐのではなく、“脚で漕ぐ”ものなんですが…中にはスピードを出そうとするあまり、ハンドルを真横ではなく上に引いてしまって、シートからずり落ちてしまう選手もいました。こうした傾向は、ウチの大学のアメリカンフットボール部の選手にもありますね」
<初心者に見られる悪い例>
スタートポジションの時に上を向いてしまうと、広背筋が使えない
太腿の前側だけで漕いでいて、股関節とハムストリングを使えていない
最初のカタチを体幹や股関節を使えるポジションにする
ボート部の選手というと、丸太のような二の腕でオールを漕ぐイメージがある。実際、早稲田大漕艇部の選手たちの腕は逞しかったが、それ以上に発達していたのが下半身の筋肉。陸上競技の短距離選手の足に近いものがある。石田選手は「エルゴは脚で漕ぐ」と言っていたが、ボートも脚で漕いでいるから、そうなるのだろう。
そろそろ内田監督に“エルゴメーターを脚で漕ぐ”ためにはどうすればいいか教えてもらおう。内田監督によると「最初のカタチを体幹や股関節を使えるポジションにすることが大事」だという。ポイントを羅列していくと
正しいスタートポジション
1.脛(すね)を床に対して直角になるように真直ぐにする。
2.下腹部を太腿につける(この時、胸全体を大腿に押しつけて前にかぶさるのはNG)
3.股関節にパワーを蓄える。
4.上体は首を伸ばして力が抜けた状態にする(骨盤を立てるとか胸を張れと言うと、上半身が反ってしまいがちなので、指導者やパートナーは″首を伸ばせ″と言うのがベター)
5.腕は真直ぐにする。
6.ハンドルは軽く握り(慣れてきたら“指を添える感じ”で握る)、グリップ幅は広背筋が使えるように広めにする。
そして、このカタチのまま蹴り出し、ハンドルを引いていく。順番は「脚」⇒「上体」⇒「腕」で、蹴り出したら股関節を開く。股関節を開かないと腰を痛める原因にもなる。戻す時は「腕」⇒「上体」⇒「脚」の順番になる。
いきなりガンガン漕がないでまずはフォーム作りを
フィニッシュのカタチも重要だ。ポイントは
1.踵で蹴るので、最後は踵をしっかり踏む。
2.つま先で蹴るのはNGなので、必然的に最後はつま先が浮く感じになる。
3.ハンドル握った手の位置は胸よりすこし下にくる。
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手の位置は胸よりすこし下
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手の位置は胸よりすこし下
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手の位置は胸よりすこし下
手の位置は胸よりすこし下
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足の位置の調整も忘れずに!
また内田監督によると、エルゴメーターで見落としがちなのが、「足の位置(ペダル部分)の調整」だという。
「初心者や他競技の選手は、前に使っていた選手と足を同じ位置にしていますが、実はここは選手に合わせて調整できます。足首が硬い選手なら、踵の位置を下にした方がいいでしょう」
内田監督と石田選手は「エルゴメーターを使うなら、まず正しいフォームを身に付けることが肝心」と言葉に力を込める。「身に付くまではモニターを見なくてもいいのでは」とも。
「最初からいきなりガンガン漕ぐのではなく、(内田監督に教えてもらったポイントを意識しながら)ある程度重い負荷(4か5くらい)で、あまりピッチを上げずに30秒くらい漕ぐことを繰り返し、正しいフォームを固めることから始めるといいでしょう」
また、正しいフォームを覚えるには、パートナーにハンドルを反対方向に引っ張ってもらったり、あるいは、ハンドルに付けた(強度がある)ヒモを引っ張ってもらい、抵抗がかけられた状態で行うといいそうだ。
「これだと上腕の力だけでは引けませんからね。必然的に体幹や下半身を使う、エルゴメーターでの正しい体の動きがわかると思います」
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ハンドルを引っ張ってもらう
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ハンドルにかけたヒモを引っ張ってもらう
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ハンドルにかけたヒモを引っ張ってもらう
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ハンドルを引っ張ってもらう
ハンドルにかけたヒモを引っ張ってもらう
ハンドルにかけたヒモを引っ張ってもらう
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エルゴメーターの正しい漕ぎ方を動画で公開!
すでにエルゴメーターを日頃のトレーニングで活用しているチームはぜひ早稲田大ボート部が伝授してくれた漕ぎ方でトレーニングを続けてみてほしい。また、まだ導入していないチームも、トレーニングの一つの提案として、今後のトレーニングメニューの参考にしてくれたらうれしい。
(文・上原 伸一)
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