Column

全国ベスト8の駒大高サッカー部のキレの良い動きを生み出すクイックネス理論

2016.01.29

 スポーツのあらゆる場面において要求される能力「クイックネス」。その定義は一般的に、「様々な刺激に反応して素早く動き出す力」とされ「俊敏性」とほぼ同義。スタートや静止した状態から1~3歩の素早い移動の際に働き、前方だけでなく、様々な方向転換も含むアスリート必須の能力である。

  そんな「クイックネス」を鍛えるために、今回はその能力が非常に求められるサッカーに目を向けてみた。サッカーの現場ではどのようにトレーニングされているのか。都内屈指の強豪校であり、第94回全国高校サッカー選手権大会でベスト8入りを果たした駒澤大学高等学校サッカー部を訪問し、話を伺った。

素早いプレスと素早いパスサッカーを生み出すボールアジリティ

筑前谷 崇氏

 駒澤大学高等学校サッカー部は1965年の創部以来これまで、激戦区東京を先頭に立って牽引してきた名門校。素早いプレスと素早いパスサッカーをチーム理念として、目標に掲げる日本一に向け日々練習に励んでいる。先日閉幕した第94回全国高校サッカー選手権大会には東京都代表校として5年ぶりに出場。開幕戦で勝利を飾るなど勝ち星を重ね、同校史上初の8強入りを果たした。

 全国屈指の部員数を誇る大所帯はこの日、いくつかのカテゴリーに分かれてトレーニングを実施するが、今回はフィジカルトレーニングを行うチームに同行させていただき、トレーナーとして指導にあたる筑前谷 崇(ちくぜんや たかし)氏にお話を伺った。

 筑前谷氏は日本トレーニング協会認定トレーニング指導者であり、日本スポーツ教育協会公認ジュニアサッカーフィジカル&メディカルサポーター、日本体育協会認定スポーツリーダー等様々な資格を持つトレーナーとして、現在は2003年に設立したワイズ・アスリート・サポート・インコーポレイテッドに所属。駒大高には5年前から指導にあたり、優秀な選手育成に携わっている。

「サッカーにおけるキレがある動きといえば何かと説明いたしますと、それはクイックネス、いわゆるアジリティの部分であり、サッカーに必要なアプローチや減速、ストップなど様々な動きに対し、無駄なく動けることです」

そう話す筑前谷氏が取材日に行ったメニューは、試合を控えているチーム状況を考慮し、テクニカルな部分も含意した「ボールアジリティ」。クイックネスを向上させるトレーニングにボールの使用を加えることによってより実践的な視点からのトレーニングとなった。

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スクエア&ドリルとボールアジリティ

トレーニングの様子(駒澤大学高等学校サッカー部)

 この日、クイックネス向上を目的に、注目した主な練習メニューは以下2つだ。

(1)スクエア&ドリル
(2)ボールアジリティ

 まずはスクエア&ドリル。あまり馴染みのない言葉かもしれないが、クイックネスを高めるトレーニングの中では基本中の基本となる。マーカーを4、5メートルの間隔で正方形に配置しこれで準備完了。まずは単純に4辺上をスプリント、サイドステップ、バックランと動きに変化を加えて周回。続いて対角線上をN字に移動するクロスオーバーの動きも加えるなど様々な動作が繰り返される。

 このトレーニングのポイントは以下2つ

▪減速→加速をスムーズに行う
▪足の方向転換と重心のコントロール

 スクエア&ドリルにおいては、どの動きに際してもターン直前での減速→加速が基本となる。たった4、5メートルの短い距離ではあるものの、その中でどれだけのスピードアップを促せるかが重要視される。減速した後の初動で一気にスピードのギアを上げる。言葉で表現するのは簡単であるが、実際にやろうと試みると相当難しいものである。

 さらに、前述の「減速→加速」を効率的に行う部分にも直結する形で、筑前谷氏が示すこのトレーニング最大のポイントが「重心のコントロール」。方向転換の際は足の角度を90度にすることで、身体を進行方向に示す。この一連の動きの中で重心をいかにスムーズに移動し、次のスプリントに繋げていけるか。ここがスクエア&ドリルのミソである。

 続いてトレーニングはボールを使ったアジリティトレーニングに移行する。一組になった2人が15メートルほどの距離を取って向かい合う。一人がリアクションの指示+ボールの供給を行い、もう一人がその指示に対する動作を加え、投げたボールに対するアプローチを行う一連の流れを繰り返す。主に7~8種目の動作を3セットずつ。先ほどのスクエア&ドリルと比較すると、よりテクニカルな要素が盛り込まれたトレーニングである。

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クイックネスを高めるための3つのポイント

トレーニングの様子(駒澤大学高等学校サッカー部)

 このトレーニングのポイントは以下3つだ。

▪身体の軸を意識
▪「0→100→0」の繰り返し
▪バランス感覚を養う

「クイックネスを高めるためには、身体の軸となるコアマッスル(腹筋、背筋、胸筋、足の筋肉を含む体幹の部分)を鍛える必要がある。これらはもちろん筋力トレーニングによって補われるものであるが、ボールアジリティトレーニングにおいても、常にぶれない身体の軸を意識することが大切です」と筑前谷氏は話す。

 さらに、そのしっかりとした軸形成が続くポイントの基盤となる。「0→100→0」とはスピードを示すわけであるが、静止した状態から最大限のスピードでボールにアプローチしてプレーをこなし、再び静止状態に近づくまでスピードを落とす。サッカーにおいて重要となってくるスピードの緩急がこのトレーニングには盛り込まれているのだ。

 また、バランス感覚を養うこともこのトレーニングのキーポイント。動作の中に「バウンディング」を取り入れているのもそのためで、ハイボールや、ルーズボールに対し競り合った後のプレーを想定している。接触プレーなどによりバランスを崩した状態であっても、次の動作に素早く、そして無駄なく移行するために、ボールアジリティトレーニングのよってクイックネスを身に付ける必要があると言うことだ。

 クイックネスの向上はアスリートの永遠の課題である。“速さの質”がより問われるサッカーの現場では、一気にトップスピードに入る加速法、そしてスピードの緩め方、機敏な動作を行うための身体の使い方など、様々な要素をトレーニングに盛り込むことで、その課題と向き合っている。決して派手なトレーニングでないが、必ず身になるもの。

 高校野球もより機動力野球が広まり、スピード性がより問われるようになってきた。
アスリートのプレーを根本から支える「クイックネス」に今一度スポットを当ててみる必要があるだろう。

(文=金子侑史)


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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