Column

番狂わせの裏側

2018.07.22

遠藤友彦の人間力!

番狂わせはなぜ起こる?


番狂わせはなぜ起こる?(写真はイメージ)

 夏大会予選で、春甲子園出場したチームが早くに敗退や苦戦をしています。圧倒的に強かったチームも、夏大会は思うようにいきません。なぜ、苦戦するのか・・考えてみましょう。

 新チームスタートのときは好投手がいれば何とか勝ち進めます。新チームのときは打撃がまだまだなので、ちょっと良い投手がいれば失点少なく勝てるのです。打ち勝つというよりも、投手力がありミスをしないチームが勝つ秋だったのです。

 春甲子園出場チームは、春の時点で投手を一度仕上げます。まだまだ寒いときに強引にピークを持っていくので、甲子園後のコンディションがかなり難しくなります。春の状態を維持して夏を迎えることは限りなく難しいのです。

 練習試合があれば、「覇者としてみっともない試合はできない」と休ませないといけない主力投手を酷使します。選手は指導者に「投げられません」と言えないので、夏前にどんどん疲弊していきます。

 夏大会前に故障、もしくはコンディション不良(痛みを隠して投げている)という状態は良くあることです。よって夏大会では、「あの好投手が打ち込まれる・・」という展開で敗退するチームが多いのです。

 夏大会でエース投手が、ある程度打ち込まれることは仕方がないことです。それよりも、打たれたら打ち返す攻撃力が大事です。強豪が敗退する背景には「打線沈黙」があります。夏大会は、打てなければ勝てないと言われています。ある程度失点しても、それ以上に得点できれば勝てます。乱打戦を勝ち勝つ攻撃力が夏は必要なのです。

 ほとんどの強豪敗退を紐解けば、打線が沈黙して敗退しています。

 では、なぜ打てなくなるのでしょうか・・

 強豪チームに限ったことではありませんが、練習試合では大量得点して勝利しているのに夏本番ではうまくいきません。今夏、力のあるチームの初戦をみましたが打線沈黙して負けるチームにはある傾向があります。

 ボール球を振る・・

 どんなに技術能力がある打者でもボール球を振っていればヒットの確率を低くします。強豪打線は、のらりくらり投げる軟投派投手にやられる傾向はありますが、球が遅いと何でも打てるような錯覚に陥ります。遅いストレートや変化球、ボールなのに打てそうなので追いかけてスイングします。

 ひっかけ、引っ張りの打球(右打者はレフト方向、左打者はライト方向)も多くなり、いい打球でも野手の正面をつきます。相手守備にミスがなければ「打てそうで打ち崩せない」という感じで得点できません。序盤ロースコアで競って試合終盤になれば焦りがでます。焦ると益々ボール球を追いかけて、凡打が重なっていきます。

 強豪打線と対戦する弱者としては、いかに正直にいかないかが大事です。打ち気にはやっている打者に対して、ボール球を追いかけさせるためにはどうしたら良いのかを考えることです。

 気合い根性で強豪打線を抑え込もうと思っても、そうはいきません。打線沈黙させている軟投投手は、偶然かもしれませんがボール球を追いかけさせて凡打させています。

 打てそうで打てない・・

 好打者が一番イライラする状況です。相手が好投手でスピードがあれば打者は慎重に打席に立ちますが、打てそうな軟投派に対しては心に隙や油断が出てくるもの。少々のボール球も強引にスイングします。

 ボールの見極めをしないと、センターから逆方向に、気がついたときには終盤、そして敗戦、というパターンで負けます。春甲子園に出場したチームの敗戦は、エース投手の崩壊もありますが「打てなくて負け」が圧倒的に多いのです。

[page_break:打ち勝つチームを作るには]

打ち勝つチームを作るには


打ち勝つチームを作る(写真はイメージ)

 夏大会、打ち勝てるチームを作るためにはどうしたら良いのでしょうか・・

 新チームのときから一年間かけて「ストライク・ボールの見極め」を大切にすることです。ボール球を振らなければ、どんな投手でも苦しくなります。チームとして打つことだけを評価するのではなく、打つよりもボールを見逃す評価を高くすると良いでしょう。

 ボールを見逃すことで相手は確実に追い込まれていきます。

 ひっかけ、引っ張り打球ではなく、センターから逆方向(右打者はライト方向、左打者はレフト方向)に打ち返すということは捕手寄りに球を呼び込んで打つことになるので、前合わせのインパクトよりも「見る時間」が長くなります。見る時間は、ストライク・ボールを見極める時間とも言えます。

 指導者は単純に「逆方向に打て」と言いますが、その裏側にはボールを見極めるという勝つために重要な要素も含まれているのです。

 夏にどういった戦い方をするのか。それは新チームスタートのときから意識しないといけません。

 高校野球は終盤に様々なドラマがありがちです。終盤になればリードしているチームは逃げ切ろうと思います。逃げ切ろうと思えば、投手のコントロールが不安定になります。ボール先行になれば周囲は「真ん中でいいぞ」と言い、投手はためが少なくなり突っ込んで体重移動をしてリリースが安定しません。

 ストライクを取りにおきに行けば結果的にボールが多くなり、腕の振れていない球なので打者に痛打されます。

[page_break:番狂わせを防ぐ]

番狂わせを防ぐ


盤に強い投手を作る(写真はイメージ)

 

 終盤に強い投手を作る・・

 プロ野球でいえばクローザーです。プロは最終回だけ任されますが高校野球は「終盤3回」だと私は思っています。終盤3回を任せられるクローザーを作るのは、新チームスタートから一年かけて粘り強く経験させることです。

 最初から終盤に強い選手などいません。経験をしてミスを重ねながらも修正して強くなればよいのです。

 最後の夏をスタートから見据えて、攻撃、守備を考えていく。

 強者としては、番狂わせがないような盤石な戦い方を身につけること。攻撃は、どんな投手に対しても懐に呼び込んでセンターから逆方向に打ち返す練習をしていく。投手は、春甲子園に行ったら十分な休息を取り、もう一度作り直す余裕を持つこと。

 弱者としては、下馬評を覆せるような準備をして挑むこと。攻撃は、ボールの見極めを大事にしつつ甘く投げてきた球を確実にとらえられること。投手は、相手をよく観察しながらボール球を打たせる配球や技術(コントロール)を持つこと。

 強者が負けることは偶然ではないと思います。よく「流れ」という言葉を使う人がいますが、それは結果がそうなればいくらでも言えることです。現場の指導者や選手は、流れという漠然とした言葉で片付けるのではなく、マイナスの結果に繋がっていく「それ」に対して一年間アプローチしていくことです。

 結果の裏側には「負ける要因」が必ずあります。目の前の落とし穴に気がつかず、知らず知らずのうちに「番狂わせが起きる状態」を作り上げています。

 もう三年生が引退し、新チームがスタートしている学校もあります。新チームはスタートが重要です。何となく「俺らの時代だ」でスタートしているようでは来夏も同じような結果に終わることでしょう。

 今夏100回記念大会、どのチームが最後まで勝ち進み栄冠を掴むのでしょうか。

(文=遠藤 友彦

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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