あなたが変わるまで、わたしはあきらめない 井村雅代著 光文社
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書評
1984年のソウル五輪でシンクロナイズドスイミングが採用されてからメダルをもたらし続けたコーチ、井村 雅代さんの指導・哲学に触れられる著書です。何と出場したすべてのオリンピックでメダルを獲得するという偉業を成し遂げ(日本で6回、その後中国で2回)、今年10年ぶりに日本代表チームのコーチに復帰されるということでも話題になりました。スポーツを指導するということの難しさや楽しさ、そして「スポーツのゴールはよい人間をつくること」というゆるがない信念には非常に心打たれるものがあります。
テレビなどで特集されている井村さんは「叱る代表」みたいにコワイ?存在として映りますが、ご本人は「叱っている感覚ではなく本当のことを言っているだけ」とおっしゃっています。井村さんが選手を叱るときに必ず意識している「3点セット」があるといいます。それは、
1)相手の悪いところをはっきりと指摘すること
2)本当のことを言ったら、必ず次に直す方法を言うこと
3)最後にそれでいいかどうかを伝えること
「直す方法を言わなかったら、叱られっぱなし、自信なくしっぱなしで終わってしまう。人は失敗すると自信をなくすけれど、そこから這い上がったときに自信を得るわけですから」(P225より引用)。
叱るということはその選手の可能性を信じることに他なりません。「人間は「ほっといてくれ」と言っても、絶対に今よりよくなりたいと思っている。だからその子のよくなりたいという向上心や、その子の中の可能性を信じるからこそ叱るんです。(中略)シンクロでいえば、「これ以上、練習ができません」「もう限界です」と言う子をよく見て、甘えか本当か、見抜かないといけない」(P237より引用)
「常に選手には120%を要求する」という井村さん。「もう出来ません」という選手を叱咤激励し、出来なかったことが出来るようになっていく姿がテレビの特集でも報道されていました。そして出来るようになって喜ぶのかと思ったら悔し涙を流す選手たち・・・。
「今まで努力していたものは何だったんだ。なんで出来なかったんだ」と。井村さんは出来なかったら才能がないとか、シンクロに向いてないじゃなく、「努力が足りないから」と選手たちに伝えるそうです。努力できる能力のことを「心の才能」と呼び、これを最大限に引き出すことこそが指導者の役目であり、勝負師に徹して選手を勝たせないと、選手に教えている教育者としての理論が通らないというぶれない思い。井村さんの熱い言葉が胸に迫ります。指導者の方はもちろん、スポーツにたずさわる全ての人にぜひ読んでもらいたい一冊です。
(書評:西村 典子)