Column

【監督の本棚】 明石商業高校 狭間善徳 監督

2013.11.30

読書のすすめ

 今春、兵庫大会ベスト4。夏、秋ともに県ベスト8と、強豪私立勢を脅かす存在となった市立明石商。着実にチームを育て上げている狭間善徳監督が愛読している本をお伺いしました!

人間として正しいことを続けていれば、成功の光は見える

――これまで、もっとも印象に残っている本は何でしょう。

狭間善徳監督(以下、狭間) 明徳でコーチをやっている頃、20代の後半に読んだ本でしたね。東京出張の帰り、羽田空港で買った本でした。すごくおもしろかった。むっちゃよかったな。3回ぐらい読み返しました。

――なんというタイトルの本だったのですか。

狭間 忘れました(笑)。ほんま、忘れてしまったんです。今回、こういう取材があるというので、家の中を探したんですけど、出てこなかったですね。
 ある人物の評伝です。そこまで有名な方ではありませんでしたけど、こうやってのし上ったんや、という。最初からうまくいっていたわけではないんやけど、発想と情熱でそれを乗り越えたという話でした。その影響か、起業家の生き様を綴った本が今でも好きですね。松下 幸之助とか、本田 宗一郎とか。稲盛 和夫の『生き方』という本はやっぱりいいですね。
 人間として正しいことを続けていれば、仕事でも学問でも成功できるのだという考え方など共感できる部分が多かった。

――高校野球の監督はプロ野球の監督と違って、やることが多岐に渡ります。野球だけを教えればいいというものではありません。そういう意味では、経営者の感覚により近いのかもしれませんね。

狭間 そう思います。今も冬の間だけ、一塁側のファウルグラウンドに室内練習場代わりのビニールハウスを建てたいと思っていて、そうしたら、設置や解体を含めると100万ぐらいかかるそうです。そういった業者とのやりとりや、そのお金をどう工面するかという問題は、プロ野球の監督なら考える必要はないですもんね。

――こういうものが欲しいんだけど、と言えば終わりだと思います。選手の進路に頭を悩ますこともありません。

狭間 そこも大きな違いですね。明徳義塾の馬淵(史郎)監督に、選手を預かる以上、出口をしっかりしてやらんといかん、と言われました。だから、うちの場合は、3年生に上がる前にほどんどの選手の進学先を決めてしまいます。甲子園常連校と違って、先に動かないとなかなか取ってもらえませんからね。企業や大学の方々との関係性を築くのは、高校野球の監督にとって大仕事のうちのひとつです。そうした人付き合いは、まさに経営そのもの。高校野球の監督は組織運営全般を担っていると言ってもいいと思います。

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弱いチームが強いチームに勝つために大切なこと

『野村ノート』野村克也(小学館)

――野球関係ではどんな本を読むのでしょう。

狭間 野村 克也さんの本は、ほとんど読みました。落合 博満さんの本も読みましたが、高校野球の指導者にとっては、やはり野村さんの本がいちばん参考になる気がします。弱いチームが強いチームに勝つにはどうすればいいのかということが書かれていますから。「野村再生工場」ではないですけど、発想とやり方次第で強い者を倒す確率を上げることはできます。もちろん、情熱と根気は大前提ですよ。本田 宗一郎や松下 幸之助や稲盛 和夫もそうですよね。頭を使って、いろんな逆境を乗り越えた。

――発想ひとつで、不利を有利に変えることができる。

狭間 はい。うちのグラウンドはレフトでソフトボール部が練習していて、センターでサッカー部が練習しています。だから危なくてフリーバッティングができない。でも7時になったら、どちらの部も帰ってしまいますので、それまでの間にやれることをやればいいんだと思うようになりました。ノックをやったり、走塁練習をやったり。練習環境の文句を言う前に、この状況でどうがんばるか、何ができるか、ですよね。

『大局観』羽生善治(角川oneテーマ新書)

――野村さんの本の中で、いちばんのおススメはどの本でしょう。

狭間 やはり『野村ノート』じゃないですか。野村さんのノウハウが集約されている本だと思います。羽生善治さんの本もよく読みますね。『大局観』がよかった。羽生さんは戦っているときは平然としているように映りますけど、対局中は常にものすごい恐怖と戦っているそうです。その怖さを克服するために準備をするんだと。何百手、あるいは先手先ぐらいまで頭に入っているそうです。野村さんも備えが大事だと繰り返し書かれています。

――よく言うことですが実際、勝敗は戦う前にほぼ決しているものなんでしょうね。

狭間 弱いチームは夏が近づくと、その雰囲気で瞬間的にがんばるだけ。それで勝てるはずがありません。夏笑うためには、今、この冬をがんばらないといけない。羽生さんも、根気は才能だというようなことを書かれていたと思います。私はそれを読んで、思わず膝を打ちました。
 
明徳義塾のコーチをしている頃、ここの選手たちの才能は、どんな練習でも継続できることだと思ったんです。根気も、継続も、夢を持っている人間、明確な目標が見えている人間だからこそ持ちうるんだと思います。

――準備の大事さに気づくのはどんなときですか。

狭間 監督になってから7年間、もう、ずっとです。夢に出てきたりしますから。あのとき、こういう準備をしておけばよかった、とか。その繰り返し。
 この秋、準々決勝で報徳学園に3対2で負けた試合もそういう失敗がいくつもありました。たとえば、ツーアウト二塁で、センター前ヒットが出たのに、セカンドランナーが還ってこられなかった。あとからビデオで見返すと、打った瞬間、二塁走者の足が止まっているんです。あそこでシャッフルを切れていたならば、クロスプレーにはなったでしょうけど、おそらく戻ってこられた。

 だから、それからは動から動のスタート練習を何度もしました。その成果もあり、その後の練習試合ではワンヒットで二塁走者はほとんど生還しています。それを報徳戦の前にやってれば……ということなんですよね。今さら、後悔しても始まらないんですけど。今、最低限しておかなければならないことは、秋までの失敗を克服して、新しい年を迎えることですね。
 野村さんも、羽生さんも、見えないところで、そういう地道な作業を繰り返していたからこそ勝てたのだと思います。

(インタビュー:中村計)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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