Column

【監督の本棚】 興南高校 我喜屋 優 監督

2013.11.10

読書のすすめ

社説を読んで、1分間スピーチを考えるクセをつける

 まだ記憶に新しい2010年、史上6校目となる甲子園春夏連覇を達成した興南高校。同校率いる我喜屋優監督へ、読書をすることの重要性などを伺ってきた。この秋、君も心の旅へと出かけてみてはいかがだろうか。

興南高等学校 我喜屋優監督

――我喜屋監督のおすすめの本というのはありますか?

我喜屋 優監督(以下、「我喜屋」) おすすめの、というよりも、なるべくたくさん活字に触れること。まず本を読む前に新聞を毎日見る癖をつける。そうして目にする新聞の、政治、経済、スポーツそしてローカルといったいわゆる三面記事の中でどれが印象に残ったのかを日記に書く練習をする。

 あるいは社説を見て、自分が1分間話せる内容にした文字を書く練習をする。あと、本屋に寄る癖をつける。友達とカラオケ店に行くのもいいけど、とにかく本屋さんで待ち合わせをする癖をつける。すると、“おっ、読んでみようかな”と思うでしょ。漫画以外で、ですよ。あるいは“バッティングとは”とかね。あるいは“守備とは”とかね。これを読めば上手くなる、とか。

 
野球選手は色んな知識・教養を身に付けなければいけないんですよ。本屋さんに行ったら、いっくらでもあるんです。偉い人とも(本を通して)会えるし、昔の人とも会えるし、今の新しいイチローとも会えるしね。出会いというのは本屋さんにたくさんあるから、これを高校生たちにも活用して欲しいな。

――いま仰られたことに1分間スピーチというのがありましたけど、新聞につらつらと書いてあるものを、ただ写すなり覚えるなりという単純なことではなく、そこから今の自分に当てはまるものだったり、足りないものに気付いて1分間のスピーチにするということでしょうか?

我喜屋 うん。例えば我喜屋 優が、たくさんの人を集めて講演会をする。これ、1分間スピーチの延長なんですよ。思ったことをまとめたものを、10本で10分、100本で100分、ね。立派なスピーチ公演が出来るはずなんですよ。これを本屋さんに取材に行く、あるいは散歩して取材して文字にする。貯金と一緒。1分間スピーチを、“よし!これもらった!”と何本も貯金、貯金、貯金…ってしていけば、本を読め!と言わなくたって本が大好きになってくるんですよ。だってタダで取材にいくんだもん。

――本屋さんはどこにもあるし手軽に寄れますからね。

我喜屋 あとは人の話聞いて、監督の話を聞いてすぐに1分間スピーチにするための用意、メモしておく。

――常にその瞬間瞬間で、どれだけ自分に、溜めこめるか。

我喜屋 それをノートに、1分間スピーチにする話題とサブタイトルを作って書けばいい。例えば、「今日はどこどこの本屋さんに行きました。そうしたら、今からでも遅くない英語の会話という本を見つけました。あ、なんだ!自分の発音というのは全然違っていたんだ!明日からの授業に参考にしてみよう」とか。
「本屋さんに行きました。宮本武蔵の本を手に取って読んでみた。全部は読まなかったけど、後ろの部分にはこういうことが書いてありました。二刀流とは、相手との心理作戦、巌流島の決戦…なるほどな。焦っているうちに自分の心が乱れて目が見えなくなる、隙が出てくる、そういうことをあの本から学びました」とかね。それを誰かに言うことによって、伝えた役、伝えられた役ができる。
 
取材というのは全部1分間×何本の延長なんですよ。それを元に、記者やアナウンサーは見たことを言う、見たことを頭に記憶しておく、聞いたことを伝える、それが1分間スピーチ×何本。そういう人は一日中だって喋れるはずなんですよ。引き出しにしまっておいた蓄えがたくさんあるはずだから。小説からこんなことを学びました。あるいは週刊誌から、いま話題の中国の尖閣問題がありました。あるいは守備に関する本を読んで、自分は間違っていましたとか。
 
たくさん友達もいるし、先輩もいるし、偉大な人たちがいるから本屋さんと友達になりなさいと言っているんです。

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[page_break世界の裏に行って、エジソンにも会える。本は心の旅]

世界の裏に行って、エジソンにも会える。本は心の旅

読書のすすめ
我喜屋監督の(理事長室にある)本棚。家にはもっとたくさんの本があるとのこと。

――手始めに1分間やってみるだけだったら、高校生でもスタート出来ますものね。

我喜屋 出来ます。本を見るのも景色を見るのも、昔から全く一緒なんです。ドライブしたり、バスで移動するとき、例えば糸満に向かうときに「右には那覇空港が見えました。左には漫湖公園が見えました。途中防空壕の看板が見えました。あそこでは昔の戦争の跡があるんだろうな。そうこうしているうちに瀬長島を過ぎました…」そうすると目に浮かぶでしょ、みんな。そうやってバスガイドの身になって今日は皆さんに伝えます、でも良いんですよ。

――ボーっと時間を過ごすのはもったいないですよね。

我喜屋 本を読むのは、目で見て頭にインプットしてもいつか出さないとしょうがないしね。アナウンサーは見てすぐに出すよね。あるいは今見ていなくたって、アナウンスの経験として色んなことを聞いてきた、触れてきた、そういうことを右の脳に置いておいて、その日の合間にしゃべるというのも立派な材料だからね。だから本も大事。自分が一か所に居て、右に左に本を漁るということは旅しているのと一緒。世界の裏まで行ってエジソンに会ってくるんだもん。昔にタイムスリップして誰かに会ってくるんだもん。本=心の旅ですよ。

――それではおすすめの本は云々というよりも…

我喜屋 うん。どの本をすすめるということはしない。色んな人に出会いなさい。色んな技術を覚えなさい。その中から一つ一つを出せば良いんだから。本屋さんに行けばたくさんの出会いがあるし、旅も出来るし、あるいは知識的には田植えも出来るし料理も出来るし、料理の達人とも出会えるし。お金を使わずに門をくぐるだけでも良いじゃないですか。

――この本がおすすめ、と言っちゃうとみんなその本にしか目が行かなくなるけど、周囲を見るとたくさんの良い本があるんだよということですね。

我喜屋 たった1時間本屋にいるだけで、選んでいるだけでも、最初の目次の1ページを見るだけでも、おっ、となるじゃないですか。

――確かに、本というのは、監督が仰るように手に取って、ページを見開きしていくだけでワクワクしてきますよね。

我喜屋 食べず嫌いと一緒で、読書も食べないと良い本なのかどうかが分かんない。食事でも、ゴーヤー嫌いな人はいる。でも食べてみるとあの苦味が、噛みしめると美味しいと感じるようになるわけだから、新しい発見になるでしょ。

――高校生たちも「オレ英語苦手だからなぁ」といつまでも言っているのではなくて、先ほど監督が仰ったように、まずは手に取ってみて、今までの自分の間違いに気付いてクリアしていけば、今まで嫌いだった英語が好きになっていくということですね。高校生はもちろん、若手の指導者にも「我喜屋おすすめの本」ありきではなくて、まずはたくさんの本と出会いなさいということなんですね。

我喜屋 そう。本を好きになりなさい。本屋に行きなさい。あるいは講演を聞きなさい。全部のキーワードが本を通して伝わってくるんですよ。本はモノ言わないけど文字を通して伝わってくる。絵で伝わってくる。分解写真を通して伝わってくる。だから僕はこの本を読みなさいというよりも、本を好きに、本屋を好きになりなさい、活字を好きになりなさいと。新聞、週刊誌、月刊誌も伝えようとしているんだからさ。それに乗っていけば良いでしょ。

――新聞も親が読むためのもの、ではなくて自分も読まないと損をするよと。

我喜屋 そう、出来るだけ朝一番に、その時伝えようとしている新聞に目を通しなさい。待ち合わせのときは本屋で待ち合わせをしなさい。それと、時間つぶしに本を持って歩きなさい。無駄な時間が有効な時間に変わるのが本ですよ。飛行機に乗るときにも本がないと時間を持て余すし。僕は、昔は一週間に1冊のペースでしたが、今では飛行機の行きと帰りで2冊。僕の部屋は本だらけですよ。お土産として子供たちに買ってきたり、学校の図書館に寄贈したり。色んなジャンルを幅広く読むようにしています。

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[page_break先人たちが乗り越えてきたものを読むのが好き]

先人たちが乗り越えてきたものを読むのが好き

――そんな中でも監督が好んで読む本とはどのような本なのでしょう?

我喜屋 やはり経営者の方々だったり、先人たちが乗り越えてきたものを読むのが好きなの。あとはことわざ集。ひとつのことわざに十も百も意味がある。その全部が必ず野球に繋がってくる!

――裏を返せば、社会に出て通用していく術を、野球や本を通して身に付けられる。

我喜屋 そうです。野球にはルールブックがあるし、それに全部目を通しておかないと野球の世界には入っていけないわけですよ。同じように、社会の知識を身に付けておかないと社会に出ていけないです。リーダーの本を読んでおかないと、リーダーの心は分からないです。自分が目指すもの、自分が目指す世界、それは必ず先人たちが潜り抜けてきているから。先人たちが作った道を、ゆっくり歩くのではなくて、彼らの気持ちになって反対側から歩いて来れば、逸れることなく彼らの道に歩める。

――そうなれば社会の荒波にもまれても恐れることはなくなりますね。

我喜屋 そうそう。自分は経験しなくても、その人たちの経験を借りる。時の指導者や時の大将の気持ちを知ることでね。

――最近読まれた本を教えていただけますか?

我喜屋 最近は友達でもある名嘉 睦念。この人は芸術家。その言葉に「守破離」(しゅはり)があるけど、これは基本を守って、その殻を脱皮して、離れた世界から客観的に物事を見れると。常に躍進していくということが守破離の心なんだね。

読書のすすめ
我喜屋監督が好んで購入しているMoruという雑誌。左は版画家名嘉睦稔(なか・ぼくねん)氏

――では最後に。監督から高校生たちへ向けて本を通したメッセージがあれば

我喜屋 これはいつも言っていることなんだけど、本屋に行ってたくさんの人たちに会ってきなさいよ。でも同じものだけはダメ。違うものにも目を通して、見分け方も覚えなさいよと。一人の師匠の言うことばかりを聞くのもダメよ、と。色んな意見の中で、自分に合ったものを選びなさい。例えば我喜屋の言うことだけを聞くんだ!ではなくてね。但し自分勝手とは違う。流れに沿わないとダメ。野球では個性を発揮させるけど、基本は統一でないとね。

 ◆

 本は心の旅と我喜屋監督は語る。監督自身が旧玉城村で生まれて那覇に出て、静岡から北海道を経てまた沖縄へ戻ってきた。いわゆる港から出発と停泊をしてきた人生なんだと。出港をディスポートというが、スポーツの語源はそこにあるとのこと。
 
だから一つのところに立ち止まらず活動しなさい。船を出港させ、新しい自分を発見して戻ってきなさいと監督は選手たちに伝える。港を離れるたびに経験を積んで生まれ変わり、人は成長していく。それこそがスポーツ精神なんだと。
一つの本に群がり、すがり続けるよりも、多くの本と出会うことでディスポートしていくことが出来るのだし、それによってより多くの知識を身に付けることが出来、広い視野を持つ人間になれる。それこそが監督が考える読書をすることの重要性なのだ。

(文・當山 雅通)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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