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野球ノートに書いた甲子園5 高校野球ドットコム編集部 KKベストセラーズ

2018.03.04

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書評

野球ノートに書いた甲子園5 高校野球ドットコム編集部

 日々の練習や試合など野球を通じて感じたこと、学んだことなどをそれぞれのスタイルで書き綴る「野球ノート」。選手同士や選手と指導者とのコミュニケーションをはかる一つのツールとして活用しているチームも多いと思います。「野球ノート」への取り組みから選手やチームが成長する姿を取材した「野球ノートに書いた甲子園」は5作目となり、選手をはじめ指導者や保護者など野球にたずさわる多くの方々が「野球ノート」に対する興味を持っていることがうかがえます。

今回は作新学院高校、北海高校、報徳学園高校、福岡大大濠高校、八王子高校、英心高校の6校が登場します。

甲子園に一番近い学校として知られている報徳学園高校は、23年にわたって野球部の監督をつとめた永田 裕治さんが2017年春に勇退されました。毎年100名を超える部員に分け隔てなく接する「全員野球」を掲げ、全員が同じ練習量を与えられることが前提となっていたといいます。全員が同じ練習量ということは一人当たりの練習時間や内容も相当密度の濃いものでなければならず、「人数が多い分、練習する機会が限られるから一球も無駄にできないという集中力を生んだと思いますよ」(P53より引用)とは正直驚きました。

 その中でイップスに苦しむエースを救うべく交換日記をはじめた永田さん。元ソフトバンクホークスの投手として活躍した近田 怜王さんは、試合中に熱中症による体調不良で入院し、その後思うようにボールが投げられなくなってしまいました。戸惑いの表情を見せる近田さんに対し、永田さんは交換日記を提案し、野球ノートにそれぞれの思いを書き連ねていくようになります。

人数が多いと一人一人に声をかけるタイミングがなかったり、思ったことを伝えられなかったりすることもあると思いますが、野球ノートというコミュニケーションツールは、エースの苦悩を推し量り、それに対して監督が時には厳しく、そして時には叱咤激励しながら、何とかチームの力として復活してもらいたいという思いを伝える場でもありました。「今思えば、ですよ。チームのためだったんだと思います。(中略)全員野球のために僕の力、僕の復活が必要だと考えたから、ノートのやり取りをしてくれていたんじゃないかな、って思うんです。いつも期待している、って書いてくれたこと、忘れないと思います」(P81より引用)。野球ノートはその役割どおり、全員野球を支える「縁の下の力持ち」となったのです。

 三重県伊勢市にある英心高校は単位制・通信制の高校で、野球部創立は2015年。中学の時は不登校だった生徒が多く、キャプテンの谷口陽一くんは「不登校になる生徒って、自分に自信がないんですよね」という。「野球経験なんてなかったけど、勇気を出して野球部に入って、そこから変わることができました。だから思うんです。僕たち英心野球部は、不登校生の代表として頑張りたいって」(P87-88より引用)。初めての公式戦は0対91で敗戦。そこから英心高校野球部員はどんなに負け続けても、一つの勝利を目指して練習に励んできました。それを支えたのが記憶を記録として残しておくための「野球ノート」です。

 自分たちのスタイルで練習内容や思ったことを書き残していくのですが、それを振り返ることで新たな発見があったり、疑問に思っていたことが解決したりということが続くと、自ずと取り組み方も真剣なものへと変化していきます。圧巻なのは女子マネージャーとしてチームに貢献していた田中 美有さんの野球ノート。練習内容や自分のことに対する反省はもちろんのこと、チームのことや選手のこと、技術的な疑問などを日々ノートに綴っていきました。選手のことを細かく見ていないと書けない内容に、監督の上村諒さんは毎回感心し、彼女に称賛の言葉を贈っています。その後英心高校はチーム全員の目標でもあった公式戦初勝利をもぎ取るのです。

 高校野球にたずさわる全ての人が「甲子園」という言葉に特別な思いがあると思いますが、それは「目標」であったり、「憧れ」であったり、「遠い夢の舞台」であったりします。「2年半の高校野球を終えたときに感じてほしいんです。(中略)野球を選んで、きつい思いもした。でも楽しい思いも、幸せな思いもあったと思う。それも含めて、野球を始めて良かったと思ってほしい」(英心高校前監督・豊田 毅さん)。すべての高校野球の現場でこうした思いを感じてほしい。そのためのツールとして「野球ノート」が多くのチームを支えているのだなと改めて思わされた一冊です。

詳しくは特設サイトをチェック!!
【野球ノートに書いた甲子園5 特設サイト】

(書評:西村 典子

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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