Column

【三年生座談会】県立松山商業高等学校(愛媛)

2012.08.23

僕らの熱い夏

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▲前列右から重澤、山中、矢野 後列右から越智、髙木、山﨑

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 高校野球では名門中の名門・愛媛県立松山商業高校。今季は春には県大会準優勝で四国大会にも出場。11年ぶりの甲子園を目指して挑んだ愛媛大会は準々決勝敗退に終わりましたが、「夏将軍」復活の息吹は確かに感じられました。では、学校、地域、ファン・・・。様々な立場の皆さんから期待を受けて過ごしてきた2年半を20人は3年生はどう過ごしてきたのか?代表して、この6人に語ってもらいました。
 さらに重澤和史監督の「3年生へ贈る言葉」、新キャプテン・金子将貴(一塁手・2年)の意気込みも文末には掲載。それぞれの立場での「熱情」を感じていただければ幸いです。

◎座談会メンバー
髙木 ちから(中堅手):3番・主将として69人の部員を統率した。
越智 洸貴(投手):貴重な左腕として愛媛大会では全3試合に先発。
山﨑 翔太(三塁手・投手):松山商業3本の矢の1人。無失点で堀田晃(3年)へバトンを渡した。
矢野 慎太郎(一塁手):2年次から3塁コーチャーとして、走者をホームに導いた。
山中 雄太(遊撃手):この一年間は唯一の男子マネジャーとして、ベンチからチームを鼓舞した。
重澤 直道(三塁手):監督の長男。学生コーチとして、分析班の一員としてスタンドからチームを支えた。

(インタビュー : 寺下 友徳

最後の夏を振り返って

▲手前から重澤、髙木、越智(県立松山商業野球部)

――愛媛大会も終わって8月になりましたが、今の状況や心境はいかがですか?

髙木  まだ自分自身、練習会参加とかもあるので気を抜くことはできませんが、。

矢野  自分は今、野球とは離れているので、やや目標がなくなったような感じがします。

越智洸  まだ大学でも野球をするので、そこに向けて練習をしています。

山﨑  自分も大学で野球をするので、そこに向けての練習や後輩たちの指導を行っています。

重澤  監督さんから『後輩の練習を手伝うように』言われているので、そこに取り組んでいますが、やはり愛媛大会中までとは違った感じを受けています。

山中  自分も一回区切りは迎えたのですが、1・2年生が僕らをどう見ているかということは常に気をつけて行動はしています。

▲マウンドに集う県立松山商業野球部ナイン

――さて、一言で表すのは難しいですが、この夏の愛媛大会はみなさん、どのようなことを考えて闘っていたのですか?まずはマネジャーから。

山中  このチームにかんしては終わるのが早かったです。このチームは自信を持って勝てると言えるくらい最後の作り方はよかったので。

髙木  準々決勝(済美戦1-3)は、先制して逆転されてからは早かったです。あっという間に、安樂(智大・1年)君から手も足も出ずに負けてしまってあっけなく終わってしまいました。

越智洸  もちろん負けるつもりはなかったですし、立ち上がりも緊張はしなかったんですが…。

山﨑  準々決勝で一番印象に残っているのは、僕が(越智)洸貴に替わってマウンドに上がることになったときのことですね。僕にボールを渡す際、言葉にして悔しさをあらわにしたんです。普段は悔しそうな表情もほとんどみせないのに・・・。それを見て『後をしっかり投げないと』と思ったことが一番印象に残っていますね。

越智洸  確かに『悪い』とはいいましたね。正直悔しかったし、申し訳ないとは感じていました。

矢野  僕は三塁コーチでしたが、初回先制して流れがきていると思っていたんですが、それ以降は思った以上にヒットが出ず。色々とアドバイスをしても打てず、仕事もなかなかないままでした。

重澤  僕は1年生のときからネット裏でビデオを撮ることが多かったんですが、ウチが得点する場合はだいたい1番の西森(大騎・3年)が出て、そこからつないでいくことが多かったんです。ただ、済美との試合では初回にそれができた後は、なかなか安樂君からそれができませんでした。7・8回に点が取れなかったとき、僕は何十試合・何百試合もビデオを撮ってきて客観的に見れるようになっているので、『これはやばい』というのを感じたのですが、どうすることもできなかったです。でもあきらめたくなくて、試合を見ていました。

▲球際にも必死に飛びついて捕球

――1年生に抑えられたことは悔しかったと思うんです。では、何が足りなかったんでしょうか?

山中  松商野球部のモットーは『目標は全国制覇・目的は人間形成』です。今振り返れば、人間形成の部分では他校に勝っていましたが、試合で勝つ部分では残念ですが済美が勝っていました。

髙木  安樂君はいままで当たってきた中で一番速い(145キロ)投手でした。打席で何もできなかったのは悔しいですが、やるべきことはやってきたので後悔はないですが、彼には頑張ってほしい気持ちが強いです。

矢野  野球は実力の世界なので、グラウンドに入ったら3年や1年は関係なくいいものはいいし、ダメなものはダメだと思っています。ですから、やってきたことは間違っているとは思っていないし、何が足りないとも思っていません。悔しいですけど完全に力負けでした。

山﨑  ここで何が足りないのか振り返ると、これまで自分たちがやってきたことが間違いのような気がするので、認めたくない。やるだけのことはやってきたし、過去を振り返って反省するよりも、これから新しいことを見つけて、これをそのきっかけにしていきたい気持ちが大きいです。

重澤  自分もこれまでやってきたことに迷いや後悔はありません。自分の人生はここで終わりでないので、あの試合で得たとこをここから先の人生に活かしていきたいです。

越智洸  自分が点を取られたのは自滅の要素が強かった。自分が落ち着いてできず、四球や死球を出してしまいました。

――でも、打たなくても得点は取れる。勝つためには色々な方法はある。人間形成に何を加えるかはみなさんでもう一度考えてほしい。そこはこれからの人生でも活きることだと思います。

[page_break:松商野球部での2年半、そして冬合宿の思い出]

松商野球部での2年半、そして冬合宿の思い出

▲松山商業野球部 冬合宿

――では、松山商業野球部での2年半を振り返ってもらいましょう。他の学校では考えられないようなエピソードもあると思います。入学した当初とかは・・・(一同苦笑い)最初は挨拶練習からでしたもんね。

山中  確かにやばかったですけど(笑)。でも、自分はそこに憧れて入学してきたし、こんな野球がある驚きと共に、しんどいほど辞めたくなくなる感じでした。

――Mやな。

山中  Mです(一同爆笑)。

髙木  僕は最初は辛すぎました。何度も辞めようと思っていました。仲間との思い出は楽しかったですけど、練習は辛いことが多かったです。

――辛いといえば皆さんが一年冬にやった合宿は、本当に辛かったんだと思うんです。

越智洸  はい。

――あれはどうでした?

越智洸  ・・・・・・(一同・笑)。

髙木  朝が来てほしくなかったです。

矢野  あの時は本当に体力がなくてついていくことすらできず。でも、みんなについていこうと思ったら倒れてしまって・・・。でも、あの3日間の後はこれだけしんどいことはないと思ったので「何でも来い」という感じにはなれました。

重澤  でも、もうしんどい練習はないと思ってもしんどさは同じでした(一同・笑)。特にウチには300mというメニューがあるんですがあれは冬合宿以上にしんどかった。

矢野  『300』と言われたら何本走るかも言われなくて、あれは精神的にも肉体的にもしんどかったです。

重澤  だから夏に冬合宿のことを思い出したかといえば。

矢野  実際思い出していない(一同・笑)全部きつかった。

▲手前から矢野、山﨑、山中(県立松山商業野球部)

――それはダメでしょ(笑)。でも、冬合宿といえば山﨑君ですよね。取材で写真を撮っても一番いい表情をしていました。程内大介部長とのセットで(笑)

山﨑  冬合宿が終わって最初の登校日に言われるんです。『お前はなんでいつも泣いているんだ』って。いつも高校野球ドットコムのトップに載っているんで(一同・笑)でも、あの冬合宿があったから、最後の試合で鼻に三塁ゴロが当たってもすぐ捕って一塁でアウトにできたと思います。やってきたことはやれたと思います。

――山中君は冬合宿一年目は選手、二年目はマネジャーという立場でしたが?

山中  精神的には選手のほうが楽でした。マネジャーの時は声をかけることが選手のストレスになることを分かりながら、でも声をかけないと見ているだけと思われるし・・・。

――ストレスといった部分では重澤君は、父親が監督という難しい立場でしたよね。

重澤  それは自分が望んでいたことだし、入部すること自体に抵抗はなかったです。ただ、入部してからは・・・。特に自分が5月に学生コーチに転ずる前の一週間のノックはすごかったです。でも、あの一週間はみんなに助けてもらったし、やってよかったし、1つの節目になりました。

――それと、越智洸貴君も3年生になってからは特に成長しましたよね?

髙木  一番意識が高かった。チームのことは考えないですけど(笑)、自分のことは一生懸命やる。3年になってから筋トレも一番頑張っていました。。

越智洸  マウンドに立ったら自分の役割を果たすだけだと思っているんで。

▲砂入りペットボトルを持ちながらダッシュ

――そして山﨑君、矢野君、越智洸貴君、重澤君は重澤監督ご夫妻が寮監・寮母を務めるさくら寮での寮生活でした。そこの感想はありますか?

矢野  寮では生活の指導が9割8分。人間形成について監督さんも寮母(優子さん)さんも指導されていました。その当時は内心反発することもありましたが、今1・2年生の姿を見ていると少しは大人になれたと思います。寮で生活できてよかったと思います。

山﨑  僕は3年生の中でも一番生活がダメな方だったので・・・。でも、今寮を出ても落ち着いてやれているのは、あの寮生活があったからだと思います。

越智洸  一年生のことは机に座ったまま寝ていたり、まともな生活ができていませんでした。でも、2年生になってからは自分のことも自分でできるようになってきたと思います。

重澤和史監督とのかかわり、チームのまとまり

▲現役時代に書いてきた気づきノート

――他に覚えている言葉はありますか?

髙木  監督さんが言われた『カラスは白い』ですね。

――??説明お願いします。

矢野  監督さんの考えていることが自分の考えと真逆であっても、それに見合うようにやらなくてはいけない例えですね。カラスが黒く見えても白く見えるようにやらなくてはいけないということです。正直、最初はびびりましたけど・・・。

――山中君はマネジャーとして監督とかかわることも多かったですが、それを選手たちにどう伝えていたのですか?

山中  選手たちに監督の機嫌は伝えていました。自分も一年間は選手だったので、そこを伝えてあげることが選手たちにとって楽なこともわかっていたので。

矢野  でも、監督の機嫌は分かるんです。体育教官室から出て僕らが挨拶した時の対応で。手を上げたら『今日は機嫌がいいな』とか。手を上げなかったら『そうではないな』とか(笑)。

――(笑)。あ、それと皆さんが書いてきた『気付きノート』の思い出もあると思います。

重澤  今、3年生が最後に記した気付きノートは監督が預かっているんですが、さくら寮の談話室に積んであるノートの表が少しずつ変わっているんです。たぶん、じっくり言葉を書いてくれていると思います。

▲座談会は終始和やかな雰囲気で行われた

――そんなチーム、みなさんはどう感じていますか?

矢野  個性がみんな強かったと思います。熱いキャプテンだと反発が大きかったと思うので、個性を中和できる髙木のキャプテンが適任だったと思います。

髙木  僕自身、つらい時期にわがままが多かったところもありましたが、夏前にまとまることができたのはよかったです。

――そんな同級生は皆さんにとってどんな存在でしたか?

髙木  野球部は昼休みにもグラウンド整備があるので、部活以外のみんなと仲良くできる時間がないんです。だから、これからも一生仲良くしていきたい仲間ですね。

山中  自分は寮生ですから、24時間野球部の仲間と一緒にいました。だから今でも別々になることが想像できないですね。みんな子供っぽいですけど、最終的にはみんな仲良くなりました。

矢野  入学最初は32人でしたので(現在20人)衝突は絶えなかったんですけど、仲はよかったです。特に当時、監督室から少し離れた場所にある部室での時間は楽しかったですね。帰宅時間が決められている中で遊んでいました。

[page_break:後輩たちへのメッセージ]

後輩たちへのメッセージ

――では、最後に後輩たちへのメッセージをここは1人ずついきましょう。

山中  最後のミーティングでもみんなには話したんですけど、マネジャーとしては一年間で後輩に伝えることは伝えました。その中でも言えることは監督さんや指導者のみなさんは好きだからこそご指導して下さることと、自分にとって苦手な人こそ、人を育ててくれるということ。かかわりやすい人、友達はダメなところを抑えていいところを伸ばそうとしてくれますが、自分にとって苦手な人、怒ってくれる人は自分にとってダメなところを注意してくれる。そこで素直になれた人が強くなれると思います。

重澤  この3年間は自分たちの学年が人数が多いことで、色んなことをやらせてもらいました。ただ、そこでも後輩たちにちゃんとした野球を伝えられたのか・・・。ですから、ここから卒業までの間でできることを後輩たちに伝えていきたいですし、後輩たちには頑張ってほしいです。そして僕らの敵を討ってほしい。

山﨑  最後のミーティングを終えて後輩たちに『よかった』と言われる先輩になってほしいです。

矢野  このメンバーで誰1人やめずに、全員で最後の大会を迎えてほしいですね。

髙木  しんどい練習でも、終わったら楽しくなるような、自分たちのように悔いのない練習をしてほしいです。

越智洸  理不尽なこととか一杯あると思うけど、どんな状況でも全員でやり抜くことが大事。誰も欠けることなく、終わったときに誇りが持てるようにやってほしいです。

――今日は長時間、どうもありがとうございました。

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重澤和史監督から贈る言葉

▲3年生について語る重澤監督(県立松山商業野球部)

 この3年生はお互いに思い入れがある学年だったので、その夢を叶えてあげることができなかったことが心残りです。ただ、そこについてきてくれたことは嬉しかったですね。

 この夏も『マネジャーの山中(雄太)、応援団をしてくれた渡部(健太)、谷川(将太)、学生コーチの(重澤)直道に花を持たせてやろうや』という気持ちを持って頑張ってくれましたし、自分たちの名誉のためだけでなく、みんなのために頑張る雰囲気を作ってくれました。

 例えば倉田(修和・一塁手)はチームのためになれるように、朝練習からぶっ倒れるまでダッシュを繰り返していた。『組織の色々な歯車の中で、1人1人がなくてはならない歯車になってくれ』ということは私がいつも選手に言っていることなんですが、この3年生はその意識が徐々に表れてきました。そこで勇気や決断をしてくれた選手たちにも感謝しています。

 3年生に贈る言葉はもう言ってあるんです。「生涯現役」ということを。高校野球選手としては1つの節目を迎えても、それは次の人生へのワンステップに過ぎないし、これからの人生のほうが長い。定年退職されて輝かれている方もいらっしゃるんですから。
 野球で現役を続けるにしても、野球を上がるにしても野球で教わったことを自分でステップアップさせて、今度はやらされるのではなく、自分で生活を確立させて、もう1つ上の就職、今度は進路の実現を目指して頑張ってもらいたい。あとは恩返し。後輩への恩返し、学校への恩返し。これからが大事です

新主将:金子将貴(2年・一塁手)

▲新主将に任命した金子選手

 キャプテンの依頼は練習試合の前、監督室で打診を受けました。自分は1年生リーダーという立場だったし、その反面、下級生を引っ張っていかなくてはいけないと思いながら夏の愛媛大会前に調子を崩してメンバーから外れたので、果たしてキャプテンでチームを引っ張れるのか最初は不安がありました。

 ですので今、自分としては後輩に指示をするだけでなく背中で引っ張れるように、率先して行動を起こそうとしています。自分たちが足下を正した上で、一年生には教えていきたいです

 チームとしてはまだ言われてから動く点が多いので、言われる前に動くこと。今の3年生には力が劣るので、実力を認めること。そして倒す相手ははっきりしているので、ロースコアで試合を運び、攻撃では食らいついて四球とかで突破口を開くような数少ないチャンスを活かす勝負強さを付けていきたい。
この夏も自分たちが負けたときに悔しそうな顔をしている皆さんの顔を多くみたとき、特別な学校であることを改めて感じました。そんな自分たちを応援してくださっている皆さんのために、恩返しをしたいと思います

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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