Column

関西国際大学【前編】「2種類のダイヤの原石を磨くには」

2015.05.01

 阪神大学リーグを代表する強豪・関西国際大学。投手育成に長けたチームとしても知られ、2008年からの5年間で榊原 諒(08年日本ハム2位指名)、伊原 正樹(08年オリックス2位指名)、益田 直也(11年千葉ロッテ4位指名)松永 昂大(12年千葉ロッテ1位指名)ら、4名の投手をプロ野球界に輩出している。チームの投手陣を預かるのは現役時代に神戸製鋼のエースを務めた野村 昌裕投手コーチ。その指導論をうかがうべく、兵庫県三木市に位置する野球部グラウンドを訪ねた。

「こじんまり」か「粗削り」か

野村 昌裕コーチ

「うちの野球部に入部してくる投手の大半は完成からはほど遠い状態で入ってきますね」
就任11年目の野村コーチは苦笑いしながらそう切り出した。

「入ってきた段階で出来上がっていたのは榊原くらい。ロッテの松永なんかは球こそ140キロくらい出てたけど、ボールの行き先はどこにいくかわからない状態で入ってきましたから」

 高校時代に思うような結果を残せないまま入部してくる投手も多い。野村コーチによれば「自分の強みと弱みがわかっていないケースが多い」のだという。
「ものすごくいいものは持っているのにその長所に気づけていない子もいるし、自分はいいピッチャーだと思い込みすぎて自分の弱点がわかっていない子もいる。そういった子らには強みと弱みを気付かせていくことがポイントになってくる」

 入部の段階ではほぼ全員が「パワーに欠けたこじんまりとしたタイプ、もしくは粗削りな原石みたいなタイプのどちらか」と野村コーチ。

「こじんまりとしたパワー不足のタイプに対する指導の方向性は明確で、パワーをつけていくことに重点を置けばいい。パワーがなかった分、全身を使って投げる必要があったため、いいフォームが既に身についているケースも多いので、パワーアップがそのままパフォーマンスアップに直結しやすいんです。その点、粗削りな原石タイプは上半身に頼ったバランスの悪いフォームの持ち主が多く、その場合は上下のバランスのいいフォームを1から作っていく作業になってきます」

夏、勝てる投手になるためのプロセス

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いいフォームってナンダ!?

下半身主導のフォームにすることが重要だ

 野村コーチのいう「いいフォーム」とは具体的にどのようなフォームなのだろうか。
「いわゆる下半身主導のフォームです。軸足に100たまった力を逃がさないまま前方へ移動していき、踏み出した前足に乗せていくことで100の力が指先に伝わる。いいフォームで投げられる投手は手を上げようなんて思わなくても、下半身のリードだけで手を耳の横あたりまで持ってこれるんです。

 上半身の力を抜いておいて、下半身で上半身を引っ張ってこれれば、手に力を入れるのは最後のリリース近辺だけで済む。上半身はあくまでも下半身の動きについていく形。これが上下のバランスのとれた『いいフォーム』だと私は考えています」

 しかし、この「いいフォーム」、頭で理屈はわかったとしても、そう簡単に手に入る世界ではないようだ。
「しっかり立って、軸足に100の力をためることだってそう簡単なことじゃない。たとえ軸足に100の力がためられたとしても、前足に乗せていく過程で力が漏れていってしまって、リリースの段階で50しか残っていなかったりする。そうなると漏れたパワーを手の力でカバーしようとするので、上半身に力が入ってしまう。高校生のピッチャーの大半はこの状態に陥っているといっていいと思います」

 しかし、上半身にパワーがあり、地肩が強いタイプはこのような状態で投げても速い球が投げられてしまったりする。そのため、フォーム修正に本気で取り組まない投手が少なくないとか。
「上半身に頼ったその投げ方で高校時代にある程度結果を出してきたタイプに多いですね。でも上体に頼った投げ方が通用するのは高校までだと私は思っています。

 大学のトップレベルでは上半身で押し切っていく投げ方は絶対に通用しない。たとえ140キロが投げられたとしても、です。それが150キロ出るなら大学ではギリギリ通用するかもしれないけど、プロでは間違いなく通用しない。高みを見れば見るほど、そのままのフォームではいずれ限界が来てしまう」

夏、勝てる投手になるためのプロセス

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聞く耳を持つまで時を待つ

與座 健人投手

「フォーム改良の必要性に気づけていない投手はあえて悪い結果が出るまで静観することも多い」と野村コーチ。
「『今のフォームのままじゃ厳しいよ』と伝えた上で、その子の投げたいフォームで投げさせます。そういうタイプの子でも、結果が実際に悪くなると聞く耳を持ってくれるものです。それまではいくら言っても聞かない。だからじっと時を待ってますね」

 真面目に根気よく取り組んだとしてもなかなか手に入らない「いいフォーム」。関西国際大学では3、4年生を迎えた頃に合格ラインに近いフォームが手に入る投手が多いのだという。
「頭でわかっていても体がきちんと表現できない理由として『下半身が弱い』という要素もあったりする。ある程度の強さがないと、やりたいことができないという世界が野球にはある。3、4年生という時期は入学後のトレーニングの成果が出てくる時期でもあるし、大人の骨格が完成される時期でもある。

 すなわち、いいフォームが完成し、飛躍を遂げる投手が生まれやすくなる時期ともいえるんです。下半身主導のいいフォームが手に入れば『コントロール』『キレ』『球持ちの良さ』といった投手に不可欠な要素が同時に入る。取り組まない手はない」

 下半身主導の「いいフォーム」を手に入れることで急成長を果たしたプロ注目右腕・與座 健人投手の証言をここで紹介する。
「元々、開きが早く、頭が突っ込みがちなフォームだったのですが、下半身に引っ張られる形で上半身と腕が出てくるフォームを2年生の時に会得してから、ボールの質、スピードがぐっと上がりました。野村コーチからは常々『フォームがよくなれば結果も比例してよくなる』と言われていたのですが、その通りでした。野村コーチの存在なくして今の自分は絶対にないと言い切れますね」

 これまでプロに進んだ、社会人に進んだ投手は未完成のまま入った。それは関西国際大に限らず、どの野球部でも同じことだろう。しかし取り組み方次第では、勝てる好投手に成長する可能性は誰しも持っている。野村コーチは選手に気付かせる手法で、成長を導き出してきた。後編では完投できるためのトレーニングの取り組み方、そして関西国際大を率いる鈴木監督に勝てる投手の定義を話していただいた。

(文・服部 健太郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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