Column

成長を支える野球への取り組み方【後編】(北海道日本ハムファイターズ・本村 幸雄 教育ディレクター) 

2015.02.08

富士大

 北海道日本ハムファイターズの選手たちは自分の行動を常に記録する。目標設定をしっかりと行う取り組みにより、何事にも妥協しない心の強さを持っている。

 前編では、若手選手が取り組む日誌と長期目標設定シートの手法と目的について説明をしてきた。後編では、本村ディレクターを感心させた大谷 翔平選手のエピソードと、元高校野球の指導者であり、現在プロの選手を指導しているという経験を持つ本村ディレクターだからこそ、高校生のうちに取り組んだ方が良い野球への取り組み方について教えていただいた。

時間が押しても自分のやるべきことをやりきる大谷 翔平

自主トレに励む大谷 翔平投手(北海道日本ハムファイターズ)

 本村ディレクターの話によると、日誌と目標設定シートは活躍する選手ほど、具体的に書く傾向があるようだ。
本村ディレクターは昨年チーム2位タイの8勝を挙げた上沢 直之を「上沢は入団時からしっかりと書ける子でしたね」と上沢の目標設定を高く評価していた。

 そして気になるのは大谷 翔平だ。本村ディレクターは大谷についてのエピソードを話しはじめた。
花巻東高の佐々木 洋監督さんが目標設定をさせる指導をしっかり行っていたので、技術面はもちろんですが、メンタル面、成功に向かう目標設定、プロセスをしっかりと立てられる選手でした。もうスタートから別格でしたね」

 その中でも特に本村ディレクターが感心した大谷の取り組みがあるという。
「注目されている選手ですから、本当に取材が多いです。遅くなる時があります。でも彼はそれを理由に、練習を休むことはなく、やりきれる選手ですね。どんなに遅くなっても、自分がやるべきことは毎日積み重ねられる。そこが彼のすごいところだと思います。人間、時間が押してしまうと明日に回そう、休もうという気持ちになると思いますが、彼はやり切る。たいていの人はそこに弱さが出て、休むことが多いと思いますが、それが大きな違いだと思います」

 私たちには耳の痛い話。でも、それでこそ真の「プロ」なのだ。事実、「日米野球を経験して、改めて自分がやらなければならないと感じた」とインタビューでも語った大谷投手は、多忙なオフでも欠かさずトレーニングをこなしている。彼は自分の目標に向かって、全く妥協していない。今回、本村ディレクターの話を聴いて、改めて大谷の「強さ」の裏付けを感じることができた。

大谷選手・上沢選手インタビューは以下から!

大谷 翔平選手インタビュー【前編】(2015年01月19日公開)
大谷 翔平選手インタビュー【後編】(2015年01月21日公開)
上沢 直之選手インタビュー(2012年02月06日公開)
上沢 直之選手インタビュー【前編】(2015年01月08日公開)
上沢 直之選手インタビュー【後編】(2015年01月09日公開)

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[page_break:北海道日本ハムファイターズの強さを支える「組織力」]

北海道日本ハムファイターズの強さを支える「組織力」


ブッダの言葉より

「北海道日本ハムの選手は、自主トレでも真剣度は12球団トップクラス」という声は周囲からもよく聞かれる。その背景がこれで明らかになった。球団主導で日誌や目的設定シートなどを活用し、しっかりと自主性を養わせる取り組みが行われている。

 ただ「言うは易く行うは難し」。実際にこの取り組みを真似ようと二軍寮・勇翔寮に来た野球関係者も、一通り見て「うちは難しいですね」と言って帰っていくことが多いという。
「正直、日誌を書き続けることが面倒だと思う選手は多いと思います」。指導者経験を持つ本村ディレクターも、その言葉には頷ける部分もあるようだ。

 自発的な習慣を促す環境が整っていれば、受動的だった心も能動的に変わっていく。「北海道日本ハムファイターズ」という球団はその風習を紡いできた、という自負が本村ディレクターにはある。
「でも、大人がしっかりとやらせてあげなければならないと思います。うちの場合、選手自らが考えて行動する意識づけを現場のスタッフもやっています。僕は教育という現場でチームに携わっていますが、僕一人ではなく、球団全体でやっているので、そこがこのチームの強みだと思っています」

 組織が選手を教育して伸ばすというベクトルがしっかりと決まっていれば、選手は迷わずに取り組める。その堅固なベースが北海道日本ハムの強さを支えている。

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[page_break:プロに進む選手は「甲子園を通過点」と考えて取り組んでいる]

プロに進む選手は「甲子園を通過点」と考えて取り組んでいる

北海道日本ハムファイターズ・本村 幸雄 教育ディレクター

 今、日本の野球界ではプロ、アマに限らず、いや野球界を超えた部分でも「人間力の大事さ」が叫ばれている時代。では、人間力を形成するノウハウを持ち、また一つ一つの言葉の意味についてしっかりと論理づけて説明できる本村ディレクターに「人間性の定義」について質問してみよう。

「やはり目的意識が高くて、目的があって目標設定が出来て、それを実践して、やり切ることでしょう。あと心技体の大事さというのもいわれますが、僕は心技体プラス生活だと思います。生活というのは人間性を高めたり、超一流に持っていくエッセンスだと考えています」

 もちろん、指導者の側にも人間性を見抜く力が求められる。
「心技体を順序付ける人が良くいますが、これは意味がないと思います。足りない部分を補う、良いところを伸ばすことで、一流へと近づきます。大事なのは、指導者がその選手の何が優れていて、何が足りないかを見抜く眼力だと思います」

 最後に、プロを目指す高校球児の姿やプロになった選手たちも見ている本村ディレクターに、プロを目指す球児へ向けて高校時代のうちにやっておいた方が良いことを聞いてみた。

「多くの球児の目標は甲子園。でも甲子園を通過点と考えて、プロ野球選手になると明確に目標を立てるべきだと思います。プロになるためにどれだけ諦めずにやるか。あとは自分で線を引かないことですよね。例えば公立校で1回戦負けのチームでも、プロ野球を目指して頑張れば、能力が高い選手ならば、そこに辿り着く可能性があるんです。逆に能力が高くても、早いところで負けるから自分は無理だと思っている選手は可能性を狭めることになります」

 人間、秘められた可能性は誰でも持っている。あとは、可能性を引き出す努力と環境をいかに自分で整えられるか。「環境は人を育てる」。今、壁に悩む球児のみなさんは、大谷をはじめとした多くの若手選手が活躍する北海道日本ハムの教育方針を参考にして、ぜひ「人間力」を高めてほしい。

 オフの間でも決して妥協せず、現状に満足せず、自分が目指す高いステージに向かって取り組む大谷 翔平への道は、確かに、ある。

(文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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