Column

成長を支える野球への取り組み方【前編】(北海道日本ハムファイターズ・本村 幸雄 教育ディレクター)

2015.02.07

 2004年に札幌に移転してから、日本一1回、優勝4回。順位の変動が激しいパ・リーグでも、Aクラス常連の北海道日本ハムファイターズ。また、中田 翔大谷 翔平といった目玉選手だけではく、西川 遥輝中島 卓也上沢 直之など20代前半の魅力的な選手たちが軒並み主力となっている。いったいその原動力はどこにあるのだろうか?

 実は北海道日本ハムには選手の人間力を形成する役職として、教育ディレクターという役職がある。その役目を任されているのが、本村 幸雄氏である。
本村氏は激戦区の神奈川県で急成長を遂げた光明相模原の元監督。その指導力を買われて2011年1月に就任、今年で5年目を迎える。もちろん日本球界だけでなく世間において今、最も注目を集める「二刀流」・大谷 翔平選手の練習に取りくむ姿勢も丸2年間、すぐそばで見ている本村氏。今回はプロ3年目を迎える大谷選手を含め、一流選手に成長するための野球への取り組み方について教えていただいた。

指導者から逃げていた選手時代から、自主性を重視する指導者へ

 高校時代は習志野(千葉)で白球を追った本村ディレクター。

北海道日本ハムファイターズ・本村 幸雄 教育ディレクター

 1987(昭和62)年・2年生の時には背番号「14」を背負い、第69回夏の甲子園に出場。1歳上には俊足巧打の城 友博(元ヤクルト)がいて、1歳下には、捕手で活躍した野口 寿浩(元横浜)がいた。
卒業後は日体大に進学。周囲から見ればバリバリの野球エリート。たが、本人曰く「いかに指導者の目から逃げるか、そんなことを考えていた選手でしたね」と当時の野球人生を振り返る。

 日体大卒業後、光明相模原の監督に就任した本村氏。が、就任当初は「ミスがあれば叱る、怒鳴る」そんな監督生活であった。
「教師の指導も当初は適当なところがあって、今、振り返ると当時の生徒たちには申し訳ないなという思いがあります」

 転機が訪れたのは、監督に就任して8年目の2000年。知り合いの大学の先輩に原田 隆史氏の著書を薦められた。原田氏は、大阪市立の松虫中学校の陸上部を自立型教育により7年間で13回の日本一に導いた名指導者である。

「その先輩から『試しに原田さんの本、読んでみろ。人生変わるで』といわれて読んでみたら、その瞬間、先生にほれ込みました。手紙を書いて、教師塾というのものに入塾しました。そこからは怒る、叱るではなく、選手に考えさせる、自主性を養わせる指導に切り替えました」

 全体練習は発表の場に設定し、個人練習は個々の能力アップに変えた。その指導によって選手たちは、これまでなかった「のびしろ」を示す。
「選手は本当に変わりましたね。指導者がいるからやるということから、自分でやる、に変わりました。そうすることで、僕がいなくてもさぼることなく取り組むようになり、監督の目を気にすることは一切なくなりました。逆に僕の方が気を遣ってしまう(笑)、それぐらい変わりました」

 同時にメンタルトレーニングも取り入れたことで、光明相模原は、2006年、2007年、2010年に夏の神奈川大会でベスト8に進出。この成長過程を「プロの眼」はしっかりと見ていた。2011年1月、本村監督は「北海道日本ハムファイターズ・本村教育ディレクター」として新たなキャリアをスタートさせることになる。

 では、実際に千葉県鎌ケ谷市・ファイターズ鎌ケ谷にある「勇翔寮」では、どんな「人間力育成」が行われているのだろうか?

 一例をあげよう。寮に住む若手選手たちには朝に必ず行うルーティンがある。朝の体操、朝食、朝の10分間の読書タイムだ。これこそが、本村ディレクター流の「オリエンテーション」である。
読書の時間では基本的に選手自らが購入した本を読ませることにしている。自分から読みたいという欲求がなければ、本は読まないし、意味がない。プロを生き抜く上で最も必要になる「自分から上手くなりたい!」という欲求を、ここで引き出していくのだ。

コラムに登場した選手のインタビューは以下から!

中田 翔選手インタビュー(2009年01月01日公開)
中田 翔選手インタビュー(2014年07月18日公開)
大谷 翔平選手インタビュー【前編】(2015年01月19日公開)
大谷 翔平選手インタビュー【後編】(2015年01月21日公開)
上沢 直之選手インタビュー(2012年02月06日公開)
上沢 直之選手インタビュー【前編】(2015年01月08日公開)
上沢 直之選手インタビュー【後編】(2015年01月09日公開)

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[page_break:長期目標設定シートにより、目標と目的を明確にさせる]

長期目標設定シートにより、目標と目的を明確にさせる


ミーティングルームに書かれている言葉

北海道日本ハムの選手が使う日誌の表紙

 また、本村ディレクターは自発的に目標設定できる選手になるべく、勇翔寮に在籍する若手選手に必ず日誌をつけさせている。1日の反省として、練習内容を書き、「心技体」の項目に自分の反省点、良かった点を書く。そしてその日の練習の課題、試合の課題を書き出し、次の日に向けてやることを書く。

 また日誌と同時に選手達がつけているのは、長期目標設定シートである。まずシーズンの目標を設定。ここでは非常に高い目標を立て、その目標に到達するため、階段登りをするための具体的な作業を加えて記入していく。
そうすることで選手たちは、その期間ごとに何の課題を克服するのか明記できるようになる。

 例えば、投手であれば4月第1週までに「145キロを出したい」、4月第2週までに「フォークをマスターしたい」、4月第3週までに「二軍で完封勝利」、7月第1週には「一軍に上がる」といった具合だ。

 ちなみに、この長期目標設定シートは「完全公開制」だ。寮に貼られ、常に人目に触れる。自分に嘘をつけない。周りからのプレッシャーもかかる。3万人以上の観衆が一心に見つめる[stadium]札幌ドーム[/stadium]でプレーするための「準備力」が自然に養われる。

「自分からやらないといけませんよね」と本村ディレクター。こうして積み重なった日誌は最後には再び選手の手元へ。これは引退時に指導者を志す選手のために、自分自身が残してきた記録が指導の助けになると考えているから。子どもたちへ「ファイターズメソッド」を引き継いでほしいという想いがそこにはある。

 前編では本村ディレクターが指導法を変えるきっかけ、また北海道日本ハムファイターズの二軍寮「勇翔寮」の若手選手の取り組みについて紹介してきた。北海道日本ハムファイターズの若手選手が早くから台頭することが出来る理由は、日誌と長期目標設定シートにあった。後編では、本村ディレクターを感心させた大谷 翔平選手の取り組み、そして真のプロになるためのメッセージをいただいた。

(文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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