Column

上武大学・前編 「大所帯のチームを結束させるコミュニケーション術」

2014.12.08

富士大

 昨春の全日本大学選手権を制した上武大学。他の大学と違うことはそれほどしていないと話す谷口 英規監督だが、対戦している大学から「上武大学の1番の怖さ」と言われることもある「一体感」については、どこにも劣らないという自負がある。

 今年は180人を越えるなど、大所帯のチームを結束させるコミュニケーションの取り方、その力の大きさについて話を聞いた。

スタンドとベンチが一体になった2013年大学選手権

谷口 英規監督(上武大学)

 谷口監督はアマチュア野球で大事なのはチーム力だと語る。

「僕はアマチュア野球というのはチーム力だと思っています。試合でスタンドとベンチが一体になっているときというのは本当にすごい力を発揮するんです。それがもっとも出たのが大学選手権を優勝した昨年の春でした。グラウンドの選手と、スタンドの部員が会話をしているかのように繋がっていました。
 

 決して力のあるチームというわけではなかったんですが、4年生がうまく全員をまとめて、強い思いを持って戦ってくれた。昨年のドラフトでロッテに入った三木 亮はリーグ戦で右目に球が当たってしまい、左目しか見えていない状態にも関わらず『試合に出る』と、サングラスで患部を隠して出続けた。

 キャプテンの小川 裕生(現・東芝)も肩が上がらないくらいの怪我をしていたのですが、テーピングをグルグル巻きにしてグラウンドから離れようとはしなかった。しかも、ダイビングキャッチまでする。怪我の悪化を恐れて『代えるぞ』と伝えると、『監督、代えたら恨みますよ』と返してくる。強い痛み止めの薬を飲んでいたので、試合後には過呼吸になったほどです。絶対に負けられないというのが見ていて痛いほどわかりました」

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チーム内 コミュニケーション術
[page_break:守備専門の選手が逆転満塁本塁打!]

守備専門の選手が逆転満塁本塁打!

 谷口監督はさらにこう続ける。

「そんな彼らをスタンドのベンチに入れなかった子たちが必死に応援する。他の大学では、ベンチに入る見込みがない子は、4年生になるときや、春のリーグ戦でやめてしまう子もいますが、うちは秋の最後の試合までやめません。それどころか、4年生が1番声を張り上げて選手を鼓舞してくれる。それがうちの1番いいところなんです」

谷口 英規監督(上武大学)

 それを象徴する言葉がある。全日本大学野球選手権の決勝戦で代打満塁ホームランを放って初の日本一を手繰り寄せた清水和馬は試合後、こうコメントしている。

「スタンドのやつらの思いを背負って(ダイヤモンド1周を)走りました」

 谷口監督は、
「清水は守備要員の選手で、それが大学で初めて打ったホームランでした。それどころか、公式戦のヒットとしても2本目。力だけを考えたら、あそこでホームランを打てるような選手ではありませんでした。でも、熱い男で、ずっとコツコツと努力を重ねていた。

 彼に期待していたのは守備ですから、『試合で打席に立つことはないんだから』と言っても、『いや、準備だけはしておきたいので』と1人で黙々とマシンから放たれる球を打っていました。
そんな彼の姿をみんなが知っているから、あの打席ではひと際スタンドが盛り上がった。みんなの思いが後押ししてくれたんでしょうね」

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チーム内 コミュニケーション術
[page_break:A、B、Cとチームを組織化。じかに話すことは忘れず]

A、B、Cとチームを組織化。じかに話すことは忘れず

2013年大学選手権で優勝、インタビューを受ける谷口監督

 これだけの数の部員を抱えながら、どこよりも団結力が強いと言われる上武大学。いったいどうやってチームを1つにまとめ上げるのか。

 谷口監督はこう語る。
「まずは普通の会社と同じような組織化を行っています。A、B、Cの3軍制を敷いていて、その中にコーチ、学生コーチ、マネジャーなどを配置して、なにかあれば私の方に伝達される形にしています。選手全員と毎日、個別に会話をすることは不可能ですが、そうやって全体を把握しています。それから朝は全部員がグランドに集まってランニングを行います。

 みんなで足をそろえて、声をそろえて走る。これも1つのコミュニケーションです。その後はA、B、Cチームそれぞれの練習になりますから、チームワークを築いていくために欠かせない練習だと考えています」

 組織としてしっかり機能しているとはいえ、直接のコミュニケーションが希薄になってしまっては監督と選手の距離は遠のいてしまう。それだけに積極的に選手に声を掛けることを忘れない。

「やっぱりじかに話すことは大事ですよね。私は怖いイメージがあるかもしれませんけど、あだ名で呼んでいる選手も多いんですよ。それで名前を忘れちゃったりするんですけどね。

 グラウンドではしませんけど、ユニフォームを脱げばふざけあったりもしますし、『彼女とどうだ?』とか、プライベートのこともよく話します。オンとオフは完全に切り替えていますし、よく別人だと言われます」

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チーム内 コミュニケーション術
[page_break:家族のような繋がり]

家族のような繋がり

島津 瑛向投手(上武大学)

 そうしたスタイルは確実に選手との関係を良好にしている。
島津 瑛向(あきひさ)投手(3年・城西大城西)も、入学したときは「怖い監督」だと構えていた部分もあったというが、

「時間とともに家族のような繋がりを感じるようになりました。本当にグラウンド外では趣味のことであったり、よく話しかけてもらいます。全員を集めたミーティングも週に1回はしていただきますし、チーム状況が悪いときなどは2日に1回くらいということもあります。

 みんなで監督さんを囲むように座っていつも1時間くらい話していただくのですが、野球のことはもちろん、生活面や人としての在り方など、本当にハッとさせられることばかりで、毎回あっという間に時間が過ぎます。

 他の大学に行った友人に聞いても、監督さんから直接ミーティングをしてもらっているという話はあまりないですから、うちは恵まれていると思います」
と、長く接するうちに監督の印象が徐々に変わってきたということを教えてくれた。


2013年の大学選手権では、選手たちの気迫がこもったプレースタイルで、各校を圧倒していましたが、主力選手がケガを抱えながらもプレーしていたことはあまり知られていないエピソードでした。ケガをかかえながらも歯を食いしばってプレーする選手たちを見ているからこそ、スタンドの選手たちも必死に応援する。

 その一体感で優勝を果たすことが出来た上武大。日頃から監督と選手とのコミュニケーションは欠かせません。後編では、大所帯でもまとめるコミュニケーション術、そして谷口監督は選手達にどんな人間になってほしいと願っているのか。その想いを伝えていきます!

(文=鷲崎 文彦

【続きを読む】上武大学・後編 「主体性のある人間へ」

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チーム内 コミュニケーション術

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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