元プロ監督率いる京都大。プロ注目152キロ右腕不在でも強豪私大と互角に戦うことができた理由とは?
今春の関西学生リーグで関西大と立命館大から勝ち点を挙げる健闘を見せた京都大。報徳学園時代に甲子園で活躍した元ソフトバンクの近田 怜王監督が昨秋のリーグ戦後からチームを率いていることでも知られている。
この春はドラフト候補でもある最速152キロ右腕の水口 創太投手(4年=膳所)が学科の実習で平日の試合に帯同できないなど、思うように稼働できない中で、エース・水江 日々生(3年=洛星)らの奮闘もあり、5勝8敗で勝ち点2の5位と強豪私大と互角の戦いを繰り広げた。その背景を春季リーグの戦いを振り返りながら紐解いていきたい。
実績や練習量で及ばないなら工夫で
立命大との3回戦でサヨナラ勝ちして喜びを爆発させる選手たち
関西学生リーグは京都大の他に近畿大、同志社大、関西大、関西学院大、立命館大の6大学で構成されている。京都大以外の5大学は私立で甲子園出場経験者がスポーツ推薦などで数多く入学してくるが、京都大は高難度の入試をクリアするしか入学する方法がない。京都大で甲子園出場経験があるのは、2018年春に21世紀枠で出場した膳所出身の手塚皓己投手(4年)と有川 耀翔内野手(3年)だけだ。
こうした事情から見ても入学時のレベルで他大学と差があるのが事実。主将の出口 諒外野手(4年=栄光学園)に至っては、高校が軟式野球部しかなかったため、大学で初めて硬式野球に挑戦した選手である。
そんな中で今年は優勝を目標に定めた。練習量で他大学との差を埋めていきたいところだったが、国公立大は私立大に比べてコロナ禍における練習時間の規制が厳しいのが現実。それでも全体練習以外の部分で力を伸ばす方法はあると出口は話す。
「野球の練習をすれば野球が上手くなるというのは、頭が固い話だと思っています。例えば体が細くて小さい選手だったら、バットを振り込むよりご飯を食べた方が野球は上手くなるし、バットを振り込むより相手投手の動画を見た方が試合の勝ちに繋がるということもあると思うので、『グラウンドにいない時間で勝ちにつながる行動を各々がしてほしい』ということは日々言っています」
実績や練習量で及ばないからこそ、自分たちで考えて行動することが求められている。日々の練習でも選手が主体的に意見を出し合い、近田監督はそれに応じてアドバイスを送るというのが基本的な形となっている。
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具体的な数字を目標に
選手とハイタッチをする近田怜王監督
選手と近田監督で話し合って出てきた春季リーグ戦の数値目標がチーム打率.250以上と5失策以内だ。過去のデータを洗い出した時に.250以上打てれば、優勝できるという確信に至ったという。そのために取り組んだのが速球対策だ。関西学生には今秋のドラフト候補である立命大の秋山 凌祐投手(4年=愛工大名電)や西 隼人投手(4年=福岡大大濠)など、150キロ前後の速球を投げる投手が数多くいる。彼らに対抗するため、冬場はマシンでスピードボールの打ち込みを多くやってきたと出口は振り返る。
「例年はあまりマシンの打ち込みをやっていなくて、リーグ戦で見る球が今までで見る一番速い球という感じだったんですけど、それはなくそうということで速球を冬の間に打ち込むということはやりました」
そして、速球対策に一役買ったのが、近田監督だ。今でも135キロ前後のストレートを投げられるという近田監督はフリー打撃で打撃投手を買って出ることも珍しくない。立命館大との3回戦で勝ち点奪取を決めるサヨナラ打を放った青木 悠真内野手(3年=四日市)は「リーグ戦と変わらない球を投げてくれるので、良い練習ができていると思います」と近田監督効果を実感している。近田監督にとっても後ろから見るよりも投手の視点から見た方が打者の調子などがよくわかるようで、打順を組む際の参考になっているそうだ。
[page_break:走塁の向上はプラスに]走塁の向上はプラスに
ベストナインを獲得した選手たち
さらに攻撃面で力を入れたのが走塁だ。リーグ戦を通じて積極的に次の塁を狙う姿勢を貫き、13試合でリーグ最多の17盗塁を記録した。特に勝ち点を奪った関西大戦では強肩捕手の有馬 諒(3年=近江)から10盗塁を決めている。「『積極的に走っていこう』という話はしていました。走った選手は4人ですが、その4人の積極性が良かった」と出口。積極策が時には裏目に出ることもあったが、「最後まで貫いて諦めなかったのは評価できると思います」と彼らの姿勢に感心している様子だった。
攻撃面では強豪私学に通用する面も多く見られたが、守備では23失策と開幕前の目標を大幅に下回る結果となってしまった。「特に水江が投げた時にしっかり守り切れないとキツイ。秋に向けてはエラーで負けたという結果を踏まえて、そこに対して意識を持ってほしいと思います」と近田監督は選手に意識の向上を求めている。水江はカットボールなど曲がりの小さな変化球を使って打たせて取る投手だけに、守備力の高さが勝敗に左右しかねない。この課題を解消するためにどう練習に取り組んでいくかに注目だ。
京都大は後半戦まで優勝争いに踏みとどまり、最終戦となる近畿大との3回戦に勝てば、1982年の新リーグ発足以来初となる3位になることが決まっていた。だが、優勝が懸かっている近畿大の集中力の前に跳ね返され、1対10と完敗。初のAクラス入りとはならなかった。
勝ち点2の4位だった2019年秋以来となる最下位脱出を果たしたが、「優勝を目指していたので喜べない」と最終戦を終えた後の出口は悔しさを滲ませていた。だが、5位が悔しいと思えるようになったのが、何よりの成長ではないだろうか。上位争いを経験したことは間違いなく秋に繋がるはず。水口も秋はフル稼働できる予定で、主力に故障者が出なければ、春よりも充実した戦力で戦うことができるだろう。
二塁手の小田 雅貴(3年=茨木)、三塁手の伊藤 伶真(4年=北野)、外野手の山縣 薫(4年=天王寺)と過去最多となる3人がベストナインを獲得。個々の実力は確実に上がっている。本気で優勝を目指す集団となった京都大の今後に注目だ。
(取材=馬場 遼)