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流通経済大学【後編】「盗塁が上手くなるには勇気と成功体験を持つこと」

2016.02.03

 前編では中道守監督の走塁哲学を伺いました。後編では流通経済大が誇る盗塁のスペシャリストに盗塁技術の秘訣をたっぷりと教えていただきました。そして盗塁するために大事なことは何なのでしょうか。

盗塁のスペシャリストが語る自身の走塁のこだわり

左から高橋 俊選手、大崎 健吾選手(流通経済大学)

 こうして機動力集団となった流通経済大。その中でも盗塁のスペシャリストと呼ばれる高橋 俊選手、大崎 健吾選手に登場してもらった。高橋選手は20盗塁、大崎選手は10盗塁と去年のチームの総盗塁数51個のうちの半分以上は彼らが稼いでいるのである。いかにして彼らは盗塁技術を磨いてきたのか、その秘訣を聞いてみた。

 高橋選手は高校時代、投手兼外野手だった。しかし投手としては厳しいと実感していた高橋選手は、大学では野手としてプレーすることを決意する。高校時代、盗塁はあまりしたことがなかったこともあり、入学当時、盗塁の技術や意識については全くのゼロだった。高橋選手は当時の状況をこう振り返る。
「僕自身、野手としてなんとしても出場しなければならない立場だったので、何がウリなのかを考えたときに出した結論、それが足でした」

 高校2年の時に測定した50メートル走は5.9秒台。その後は測っていなかったが、高校2年の時よりも速くなっていることを実感していた高橋選手は足を生かすことを決意したのだ。また高校時代は右打ちだったという高橋選手だが、左打ちに変えたという。
「レギュラーになりたい。野球についていろいろ勉強しました。リーグ戦で先輩がプレーしている姿、そしてプロ、大学、社会人など様々な試合を見て、走塁を磨いていきました」

 そして2年生になった一昨年、レギュラーの座を獲得した。中道 守監督は、最初は失敗してもいいので場数を踏ませるために、とにかく盗塁のサインを出して走らせた。その結果、一昨年は公式戦で11盗塁を記録。少しずつ盗塁できる技術を身に付けていった。高橋選手が盗塁を成功させるためにこだわったのは、いかに早くトップスピードに乗れるかだ。
「塁間は本当に狭いですし、加速しきる前に終わってしまう。トップスピードにいち早く乗ることを意識しました」

 そのために高橋選手がとったのは「リードの取り方を工夫する」こと。通常、リードの取り方は一塁ベースと二塁ベースの直線上に取るイメージだが、高橋選手の場合はそのラインの後ろに立つイメージでリードを取るようにした。そしてスタートを切るときに、斜め前に走ることを意識した。そうすることで、ただ真っ直ぐ走ることよりも走りやすくなり、トップスピードに乗りやすくなった。

 新チームの主将の本間 寛章選手(3年・聖光学院)にその速さを伺うと、
「スタートを切った段階では僕も負けていないのですが、トップスピードに乗ってからはあいつ(高橋)は本当に速くて、かなわないですね」
と、チームメイトが脱帽するほどのスピードを手に入れた。

盗塁が上手くなる秘訣は勇気と成功体験

 高橋選手が盗塁技術に自信を持ったのは昨年の春。なんと春先のオープン戦から大学選手権準々決勝の東亜大戦まで失敗がなかったという。中でも印象深い走塁として挙げてくれたのが、2回戦の城西国際大戦だ。城西国際大には今年、巨人に入団した宇佐美 真吾選手という強肩強打の捕手がいた。試合前、宇佐見選手からは走れないと予想されていたが、この試合チーム全体で高橋選手の2盗塁を含む4盗塁を決め、7対4で勝利したのであった。「宇佐見選手から走れたことでだいぶ自信がつきました」と振り返る高橋選手。

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[page_break:盗塁が上手くなる秘訣は勇気と成功体験]

スタートを切る大崎 健吾選手(流通経済大学)

 一方、大崎選手は高校時代から守備、走塁に定評があった選手で、よく盗塁ができたという。しかし、その頃は「感覚で走っているだけで理論もなかった」と振り返る。そのため、感覚だけでは大学野球で通用せず、壁にぶち当たった。そこで大崎選手はいろいろな俊足選手の理論を参考にしつつ、自分なりのスタート方法を見つけた。そこで見つけたのがガニ股の感覚で走るというものだ。

「僕の場合、それができたのは春の公式戦。ぶっつけ本番でやったら、盗塁ができるようになりました。あと盗塁ができるためには相手の配球を読むことですね。僕は3番を打つことが多いので、4番打者に対してどんな配球をするのか。走れる確率が高い変化球の時に走れるようにしています」
と自分なりの走り方を見つけ、そして相手の配球を読みながら、盗塁技術を身に付けていった。

 しかし高橋選手、大崎選手ともに昨年の盗塁数については全く満足していない。走れる機会はもっとあったのに、そこで走れなかったことに悔いを感じている様子だった。
2人は改めて自分の走りを見直した。高橋選手はスタートを切るときに身体が三塁側へ倒れすぎてしまい、ほんの少しだがロスがあることに気付いた。
「本当にコンマ何秒の差ですが、その差がセーフにつながると思いますし、ロスのある走り方が5本中1本あったので、すべて正確なスタートを切れるようにしています」

 常に100パーセントの走塁ができるように心がけている。勝利できる確率が高まると考えているからだ。
そして大崎選手は、昨秋のリーグ戦で自身がたどり着いたガニ股スタートが貫けなかったことを反省点に挙げた。
「秋はこれを貫くことができなくて、全く走れませんでした。もっと走れる機会があったのに、それができていなかったので、去年の盗塁数は全然少ないです。自分はスタートが良くないのが課題なので、ガニ股スタートを極めていきたいと思っています」

 ここで、2人から盗塁ができるために、球児へ向けてメッセージをいただいた。高橋選手は勇気を持つ大事さを語ってくれた。
「僕は入学当時、ゼロからのスタートでした。でも準備をしてどんどんトライしていく中で、盗塁を成功した経験が、さらに盗塁技術をう磨こうというきっかけになりました。盗塁が上達するためには、そういった成功体験が非常に大事です。また盗塁は相手バッテリーとの心理戦でもありますから、いくら準備をしても、実戦にならないと分からない感覚があるので、どんどん挑戦していってほしいと思います。

 あと足が遅いから盗塁をしないという選手もいますが、先ほども言ったように、盗塁は駆け引きが重要なので、相手バッテリーがこの選手は走らないと思うからこそ、チャンスなんです。いろんな経験をして、盗塁のスペシャリストになっていければと思います」

 大崎選手は、試行錯誤する大事さを語ってくれた。
「一流選手の動画を見たりすることも大事なのですが、その選手のやり方に縛られることなく、それぞれ自分に合ったスタイルがあると思います。それを見つけるには実戦でしか分からないこともあるので、模索することが大切だと思います」

 冒頭で中道監督は「走塁は野球観を広げる、野球が上手くなるコツが詰まっている」と語っていたが、2人のエピソードやいただいたメッセージは、まさに中道監督の言葉を体現していた。

(取材・文=河嶋 宗一


注目記事
・【走塁特集】走塁を極める

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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