Column

大塚 晶文コーチが語る! 「なぜ投手に強い背筋が必要なのか」

2015.01.14

 今年から中日の2軍投手コーチを務める大塚 晶文氏。近鉄(現オリックス)時代は150キロを超えるストレートと、宝刀・タテスラを武器に、クローザーとして活躍。通算137セーブをマークした。07年まで4年間在籍したメジャーでも、パドレスとレンジャーズの2球団で、リリーフとしてポジションを築く。しかし08年からは、右肘のケガとの戦いで、復帰に向けて懸命にリハビリを続けるも、14年9月の引退登板まで、実に7年2ヶ月もの間、公式戦のマウンドに立てなかった。

 今回は、そんな全く異なる2つの時代を経験し、14年はBCリーグの信濃グランセローズで監督兼投手(投手コーチも兼任)を務めた大塚コーチに、投手向けパワートレーニングについてお話をうかがいました。

まずはアスリートとして動ける体を作る

背筋を鍛える練習
【写真:コラム 日本選手権初V!新日鐵住金かずさマジックのトレーニング  『一歩ずつのマジック』より】

 昨年9月に現役を引退するまで、大塚コーチはいろいろなトレーニングを経験してきた。ウエイトトレーニングを本格的に始めたのはプロ入り3年目。ただ横芝敬愛高時代も、180センチ78キロと、ある程度体ができていた(現役時代は182センチ95キロ)こともあって、ウエイトトレーニングに取り組んでいたという。

「当時はまだ高校野球では、ウエイトトレーニングがそんなに浸透していなかったと思うのですが、伊藤 昇宏監督が日体大出身で、ウエイトトレーニングに精通していたのもあり、オフは週に4回くらい、みっちりやってましたね。メニューはスクワット、デッドリフト、ベンチプレスといった基本的なものでしたけど。もう25年くらい前の話なので、詳しくは憶えていないのですが、どこかを強化するというより、からだ全体の筋力をまんべんなく高めていたような気がします」

 現在はトレーニングに関する引き出しが多い大塚コーチも、高校時代はほとんど知識がなかった。
「コア(体幹)の重要性もわからなかったですし、スクワットにしてもその目的が何で、これをしたら野球でどう役に立つかも考えていませんでした」

 大塚コーチが高校生だった80年代の終わり頃と比べると、今はトレーニングに関する情報が多く、各所で様々なトレーニング方法が紹介されている。知識という点では格段に今の高校球児の方があるだろう。しかし、いくら知識があっても、知識だけでは…というのは言わずもがなである。大塚コーチはこう言う。

「確かにいろいろなトレーニングがありますが、まず大事なのが、“アスリートとして動ける体を作る”ということです。体幹もしっかり使えるようにしてほしいし、パワーがついても、それを野球で生かせなければ、宝の持ち腐れになるのも覚えておいてほしいですね。高校生なら、流行りのトレーニングに手を出すよりも、ベーシックなトレーニングに重点を置いた方がいいと思いますし、大学や社会人で野球を続けたい選手も、ベーシックなトレーニングで、まず体の基礎を固めた方がいいでしょう」

【1月特集】変身!パワー系球児

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[page_break:なぜ投手は背筋を鍛えるべきなのか]

なぜ投手は背筋を鍛えるべきなのか

バーベルを持ち上げる選手
【写真:コラム 日本選手権初V!新日鐵住金かずさマジックのトレーニング  『一歩ずつのマジック』より】

 では、投手なら、どんなベーシックトレーニングをすればいいのだろう?
「背筋系のトレーニングがいいと思います。下半身も強化できるスクワットやデッドリフト、あるいはバランス感覚や体幹も鍛えることができるバランスボール、BOSUトレーニングなど、手法は特に問いませんが、とにかく背筋を強くすることですね」

 なぜ背筋トレーニング系に拘るようになったのか。
「昔から良い投手は背筋が強いといわれていました。それは何故なのかと思っていたんですよね。実際に背筋トレーニングした後は自分でもコンディショングの調子が良いんです。いろいろ考えていった結果、姿勢の良さが関係しているのではないかなと。背筋系のトレーニングは姿勢が良くないと重いものを上げられないですよね。そう見ていくと、良い投手は投球動作で背筋がうまく収縮ができているんです」

 その例として、大塚コーチは野茂 英雄氏を例に出した。野茂投手の代名詞である「トルネード投法」。大きく振りかぶるときの背筋の収縮の仕方、骨盤の立ち方、胸の張りが素晴らしいようだ。トルネード投法は、左足を大きく捻りを入れた動作が注目されるが、野茂投手の投球は振りかぶったときの姿勢がカギを握っていることになる。

「最初振りかぶったとき、背筋の収縮が出来ると、骨盤が立って、胸が張られたときの骨盤の並進運動、体全体の並進移動にもつながっているんです」
と説明する。そして背筋が大事だと確信したのは、社会人・日本通運でプレーしていたときの、ある整体師の言葉からだ。

「天井から頭をつるされているイメージで立ってみてください。と言われたとき、やっぱり骨盤が立って、背筋がしっかりと収縮できているんです。そのイメージで投げたら、とても調子が良かったんです。今まで感覚の部分で悩んでいたところがありましたが、これだなと思いましたね」

 逆に背筋が弱ければ、背骨も曲ってしまい、その後の投球フォームにも悪影響を及してしまうのだ(関連記事:第35回 野球肘研究会代表・高原政利に聞く!肩、肘を守るためには?)。野球選手は背筋が強ければ良いといわれているが、背筋を収縮させて、真っ直ぐ立つ動作が出来れば、全体の動きが良くなるので、大きな力を発揮出来る。その積み重ねを行った結果、良い投手は背筋が強く、姿勢が良い傾向にあるのだろう。良い投手はなぜ背筋が強いのか。その理由が分かるはずだ。

背筋や体幹を鍛えるトレーニングをやりたくなった方は以下のコラムがおススメ!
球速をあげるメディシンボールトレーニング part 1
12月~1月 股関節を中心とした体幹の機能を整えるトレーニングメニュー
身体を整えるためのフィジカルトレーニング

【1月特集】変身!パワー系球児

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メンタルの強さは試合にも、トレーニングにも活きる

【具体的な成功のイメージを描くことが重要
写真:2014年秋の大会 平成26年度秋季近畿地区高等学校野球大会 1回戦 立命館宇治vs神戸国際大附より】

 大塚コーチは選手生活でよりうまくなるために様々なことを考えてきた。大塚コーチは、試合前、試合中に腹式呼吸を行う。より力を発揮できるために呼吸法まで意識をしてきたのだ。

 呼吸の仕方は、試合前と試合中では異なるようだが、最大の目的は自分をリラックスした状態にするためだ。そうなると思考も落ち着く。そして成功のイメージを具体的に描く。最後の打者をアウトコースのスライダーを投げて三振に締めるプレーのイメージだけではなく、勝った時の喜び、観客の歓声、球場の雰囲気、匂いまでイメージする。

 試合に必要な感情は、冷静な気持ち、強気な気持ち、ワクワクした気持ち、感謝の気持ちの4つ。この4つの感情を持つことが出来れば、かなり良いイメージが入ることができて、最高の結果を残すことができるようだ。

 大塚コーチの呼吸法に限らず、一流選手は、自分の力を発揮するためのルーティン、イメージの描き方を持っている。
大塚コーチは、メンタルトレーニングの1級コーチの資格(SBT=スーパーブレイントレーニング)も持つが、メンタルの勉強をしてきて、自分が行っている呼吸法は、メンタルを強くする方法として紹介されており、理論的に正しいと感じたようだ。また呼吸法、イメージの作り方は、オフのトレーニングの取り組み方にも活きると説明する。

「プロ、MLBとトップレベルを目指すならば、やはりパワー系のトレーニングはハードになり、かなりつらいものです。トレーニングを継続するにはモチベーション、イメージが重要になります。そのために、具体的に成功するイメージを描いてください。心技体といわれますが、まず心があって、取り組めます。そしてハードなトレーニングを取り組む体力。その2つが両立して、最後に技術が伴います」

 一つのトレーニングにも意味がある。大塚コーチは、今より上手くなりたい、今よりももっとできるという思いで研究を重ね、トレーニングを野球に結び付け、成功してきた。
選手時代は上手くなりたい一心だったが、コーチになった今では、科学的に証明されているモノを選手たちのために正しく伝えたい思いで勉強を続けている。

 大塚コーチが語る背筋の重要性、具体的に成功するイメージを描く重要性は、真剣に考え抜いたからこそ出た答えである。高いレベルを目指す選手たちは、自分が上手くなるために真剣に考え、自分なりの「答え」を見つけ出すことが必要ではないだろうか。

メンタルを鍛えるトレーニング、考え方が分からない方はこちらがおススメ
集中力の高め方
弱者が強者に勝つために〜ジャイアントキリングを起こせ〜
林成之教授の勝てる脳の作り方

(文・上原 伸一

【1月特集】変身!パワー系球児

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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