Column

高校野球のトレーニングに新しい風を吹き込む小林メソッド

2011.02.23

技術ノート

高校野球のトレーニングに新しい風を吹き込む小林メソッド2011年02月26日


「本物を伝えたい」――。

昨年12月18日と今年1月15日の二日間、小林敬一良氏(成美大監督)による実技演習会が行われた。
これはスポーツメーカー・オンヨネの販売を請け負うプロスペクト株式会社と心をともにした、城東工科・見戸健一監督、奈良桜井・森島伸晃監督が協力し、実現されたものだ。

浪速校で27年、甲子園に2度出場し、大引啓次(オリックス)らを育て上げた小林氏。そこにあったのは小手先の指導ではなく、本質を見極めた指導である。世間一般的には、主流となっているウェイトトレーニングを行わず、バランスを重視したトレーニング、「力んで野球をやらない」をテーマにする。

「どうしても指導者が数字に頼ってしまう。何キロのバーベルを上げたとか、体重が何キロになったとか……。でも、スピードガンもそうですけど、指導者自身がそっちに頼ってしまうと、見る目、感覚や感性が薄れてくると思う」

と小林氏は語る。大阪会場には大阪府下の指導者だけではなく、京都、岐阜、岡山の指導者が参加。奈良会場では奈良県以外から三重、静岡、長野の指導者が駆け付け、その斬新的ともいえる指導に耳を傾けた。

目に見えて分かりにくいトレーニング

大阪会場開会あいさつ

 小林氏は大阪会場での開始冒頭、参加者らにこう挨拶した。

 「私は長い間、高校野球の監督をやってきましたが、以前はウェイトトレーニングをやって、筋力をつけて野球に生かそうと思ってやっていました。ところが、例えば、それで筋力アップして、凄い身体になった選手が良く打てるようになったか、速い球を投げられるようになったかというと、期待するほど伸びていなかった。指導者がやりやすいのは、ウェイトトレーニングだと何キロ上がったとか、数字が出ますよね。それが生徒のモチベーションをあげるということと、指導者にしても、これくらいの筋力になったな、体重が大きくなっているな、とそれが分かりやすいという部分があります」。

「私自身も、そういう指導をしながら反面疑問を持っていました。それで、いわゆる力に頼ってやるんじゃなくて、バランスとか、柔軟性を磨くことによって、より選手のパフォーマンスが上がるんじゃないかというところへ、移行していきました。今日、やるようなことは感覚を磨く、本人自らが自分の感覚を確認する、試していくということが多いので、目に見えて分かりにくいトレーニングがほとんどです。生徒がトレーニングをやって、『自分の感覚が変わった』、『柔らかくなった』、『動くようになった』、というようなトレーニングが主ですから、子供にとっても、難しいところはあります。でも、そこを超えて行かないと、将来的に、その選手は成長していかないかなと思っています」。

「力まない」を一つのテーマに、小林氏の実技演習会が始まった。


練習1 呼吸法編

まず、最初に始まったのは呼吸法からだった。「今日やることの基本は、体幹から手足につなげていくっていうようなことが多いんですけど、基本の練習をする前の準備運動として、呼吸法をやります」と小林氏。

呼吸法

呼吸法

正座して姿勢を正し、息を吸って20秒。息を止めてお腹を膨らまして20秒。次の20秒で息を整える。これを2回やったあと、正座して姿勢をただし、鼻から20秒。息を止めて、お腹を凹ませて20秒。息を整えるのが20秒。これを2回。

 

 

練習2 アップ編

アップ

「走る基本の中で、後ろに足が流れない、つま先で蹴らない事が速く走れる要素なんですけど、後ろに蹴らないために、足を前へ出すためのアップをやっていきます」。スキップ、逆スキップ、ツーステップスキップ、逆ツーステップスキップ、ダッシュという風にアップは行われた。

スキップ

 

スキップ(1)

スキップ(2)

「かかとから入るというのが、速く走る要素の一つなんですけど、スキップをすると、自然とかかとから入って、前へ足が進んでいく」

逆スキップ、ツーステップスキップ、バックでツーステップスキップを順次行ったあとに、ダッシュメニュー。ここでようやくダッシュのメニュー。小林氏は「いつものダッシュの感覚とどう違うか感じながら走ってください」とアドバイス。そして、「急ブレーキをかけないで止まる。その時、足音をたてないで。全力で走っている時とスピードを落とした時を、例えば写真で撮ったら、同じ姿勢に見えるように走る。全力疾走も、5割で走っている時も同じように走っているようなつもりで、スピードを落としてください」

 
 

バウンディング

 

バウンディング(1)

バウンディング(2)

スキップの応用編のような練習。「柔らかさを意識して、これで、足が前へ開いて伸びれば一番いい、難しい人は足を前へ出してください。後ろへ身体が傾かないように。足が地面に設置する時間は短く。バーンと跳ねる。ゴムまりのように跳ねるイメージで飛んでください」

 
 

バウンディング、1,2、3。

「一発目からできるようにならないと、野球でも、最初が大事やから一発でできるように、そうしないと、集中力が出てこない。前へ足を運べるように」

ダッシュ

ここで、もう一度、ダッシュを取り入れる。理由はさっきまでとの間隔の確認である。奈良会場でのこと、感想を小林氏から聞かれた奈良桜井・小畑主将は「身体が軽くなった」と話した。

バットダッシュ

バットを持ってのダッシュ

「バットをおへその前で、バランスを取る。バットが倒れるという状態にして、倒さないで走る。足を蹴らないで、重心で運ぶということを意識して。これをモノにしていくと、足でけらないで、前に進むようになってきます」。これで走るアップ終了。

 

 

三転倒立

三転倒立

「身体がお腹からつながっていく。足を開いて、身体がつながる、手足がつながる。できれば、良い状態です」



練習3 投げる編

倒立

投げるためのアップ倒立

深呼吸を5回。

投手 トランポリン

 

トランポリン(1)

トランポリン(2)

 

浪速高の時からよくやらせていたんですけど、バランスを崩したり、身体の開きが早かったり、調子が落ちている投手に、やらせていた練習です。最初は不安定なんですけど、下半身に気持ちが入って上半身を忘れる。軸足に体重を乗せて、前足に乗せていくと、回転のいいボールを投げられるようになってくる。要するに、不調に陥ったピッチャーに、あれこれ言葉でいうよりも、これをやらせて、自然に回復するのを待つ」。

小林氏らしい指導法の一つ。欠点があると、部分を修正したがる指導者が多いが、小林氏の場合は、自然と治っていくように持って行くのである。

バランスボード

バランスボードとトランポリン

 

奈良会場でのみやった練習。「いい投手になってきたら、バランスボードに片足で立ったまま、1分くらいたてるようになってきます。バランスを崩して投げると逆によくないので、右足でじーと立てるようになったらいい。投げるのはそれができるようになってからでいいと思います。片足で立てて、自分の意思で、体重移動して投げられるようになったら、かなり能力の高い投手になれる」と小林氏は言う。

ここで、選手に感想を聞いた。関西中央の米田投手はこう話してくれた

「トランポリンの練習は自分にはまりました。僕は監督さんから、下半身を使って投げろって言われているのですが、それがなかなか、治せなかった。この練習をして、下半身を使うということが少しわかった気がします。練習に帰って、取り入れたい」と目を輝かせていた。

ミニハードル

 

ハードル(1)

ハードル(2)

ハードル(3)

ハードル(4)

「足を使って投げるという練習。地面の足から伝わる力で、腕に伝えようという練習をします」。

これは足からの動力を指先に伝えるようになると、恐ろしいほどの効果を発揮する。ただ、この練習ですごいのは、小林氏が段階を踏んでやっているところである。最初は狭い間隔でハードルをまたぎ、最後には助走をつけて、思い切り投げるのだ。



練習3 投げる編

キャッチボール(内野手のスローイング)

ココからの練習は野手のスローイング向上を狙う練習である。これは言葉で説明するよりも、やってみて理解するという部分が大きいかもしれない。練習を見ていて思ったことだが、「自然とそうなっていく」というのがこの練習のテーマなのかもしれない。

まず、2人1組のキャッチボールでは、投げた後に、2、3歩送球方向へ歩くことから始まっていく。小林氏は言う。「ゆっくりでいいから、投げた後に、3歩くらい前へ歩いてきてください。連続動作で歩いて行くと、ボールを前で離せるようになる」。

ゴロ捕球(1)

ゴロ捕球(2)

次にボールの捕球を混ぜてやるのだが、ここからの練習も興味深い。

ボールを捕球して、投げるのではなく、ボールを取って送球方向へ走る練習を行う。「捕球して投げるつもりでその方向へ走ってくださいね。投げるつもりで、運んでいく。投げる方向に胸を向けたらいいから。右足を前に出すように」と小林氏の声が飛ぶ。それが終わると、次から次へと練習は展開していく。

・捕球して進行方向に走っていき送球。
・送球後も、走っていく

この練習を繰り返していくと、野手の動きがスムーズになるのだ。私見だが、この練習は動く・捕る・投げるという、それぞれある動作をつなげていく効果があるように思った。「動かなければならない」、「その後、捕らなければならない」、さらに、「投げなければならない」と、意識を持ってしまうと、動作が硬くなってしまう。それを取りはらっているようにさえ思えた。大阪会場では、ゴロ捕球をノックにしていたが、小林氏が「グラブには(ボールが)自然と入っていくようになっているから」というと、その通りになるのである。

小林氏はこの練習を「握り変えをスムーズにする練習」という。すべての動きがスムーズになっていくというのが、筆者には見て取れた。

また、奈良会場では板を使ってのノックやボール回しも確認された。「板でやる場合、柔らかく使えたら、板でもボールをはじかないから」と小林氏。ボール回しでは「生卵を捕る感覚でやってみたら、柔らかく使える」と説明。

最後にはもう一度、グローブでのボール回し「板を使っていると思ってやって。つかむのではなく、いわゆる、投げるための道具のつもりで」とやっていくと、動きがスムーズになっていくのだ。


体験すると言う事

指導者と生徒

大まかではあるが、2日間の実技演習会は、こうやって幕を閉じた。

「身体の力を抜け」という声が、例えば、試合中などに指導者が口にするが、日頃からこうした練習を心がけていれば、力の抜きようが分かるというものである。ただ、小林氏の指導の中で、絶対に忘れてはいけなのは体感するということである。小林氏が練習の中で常に口にしていたのは「やってみて」という言葉である。もちろん、どうするかを理解することも大事だが、やってみて分かることがある。体験するというのが根本にある。

 

練習後に、参加者の声を拾ってみたので、紹介したいと思う。

法隆寺国際・長田悠太主将
「小林先生の練習法は学校でもやっているのですが、今回、参加させていただいて思ったのは、やはり、頭で考えてやるのは身につきにくいなぁと、身体でやった方がいいのかなと思いました」

畝傍・百合幸二郎監督

「目新しい練習ばかりで、すごく勉強になりました。小林先生の指導はメディアでも、いくつか見させてもらいましたけど、どこか踏み切れないところがありましたが、こうやって体験させてもらって、きっかけにしたい」

鳥羽・山田監督

「技術屋になって、つい言いたくなってしまう。口ばかりで身体を動かして感じさせるということを忘れていた気がします。勝手に足が動いて行くようになるのを見ていて、勉強になりました」。

堀川・池川部長

「野球の見方が大きく変わりました。口でばっかり指導をしていて、頭でっかちにさせていたかなぁと反省させられました。参加させていただいて、いろんな角度から勉強させてもらいました」

選手を育成する指導法は様々ある。しかし、それらの多くは即座の結果だけにとらわれているものが大多数である。常々思うのである。どんな指導法においても、即座の応えなど存在しないのだ、と。むしろ、すぐに答えを求めてしまう方が危険で、将来を見据えた指導こそ、これから求められていくのではないだろうか。

小林氏の教え子であるこの会を主催したプロスペクト株式会社の瀬野竜之介社長は「昔、小林先生の指導をユニークだとか、変わっているとか言われる時がありました。でも、今になってみると、それらを取り入れている学校が多くあって、主流になっている」と語っている。12月と1月に細々と開催されたこの会が、一つのうねりとなるような気がしてならない。奇しくも、大阪会場で開催された同日には、同じ大阪では甲子園常連校のベテラン監督による「甲子園塾」があったのと同じ日だった。指導は様々ある、そのなかでも。小林氏の指導は、これからさらに求められていくだろう。会に参加して、一層。その気持ちが強くなった。

(文=氏原 英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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