Column

「悔しさ」の先にある栄光を目指して 文字で記し、言葉で返す「練習の記録」 県立鳴門高等学校

2015.09.15

 2010年夏、15年ぶりに甲子園への扉を開けると、2012年春2013年夏は全国ベスト8。今年も4年連続甲子園出場を果たすなど、四国公立校をけん引する存在となっている鳴門
森脇 稔監督が前任校から続け、選手たちが記す「練習の記録」から、その強さの秘密と選手たちによる現在進行形の葛藤を探る。

【登場者】
鳴門高校 森脇 稔監督
鳴門高校2年生5名>
河野 竜生選手
尾崎 海晴選手
中山 晶量選手
佐原 雄大選手
手束 海斗選手

陸上用の練習記録ノートを使い、自らを把握する

鳴門高校の野球ノート(県立鳴門高等学校)

 平日は連日21時近くまで練習が行われる鳴門の練習。最後の全体集合を前に着替えを終え、制服姿となった選手数名がバックネット裏2階・監督室への階段を駆け上がっていく。そして部屋に入るとこう叫んだ。「練習ノートを取りに来ました!」

 声の方向に目をやると・・・・・・。机の上にはうず高く積まれたピンク色のノート。表紙には「練習の記録」。これが鳴門の強さを影で司っている練習ノートである。
「1年生には4月にノートを渡して8月末まで。以後は9月から翌年2月まで。3月から8月までという感じで毎日、日記をつけていきます。本当は返事も書かなくてはいけないんですけど、見て返すだけですね」

 このようにノートの使い方を説明するのは森脇 稔監督。約15年前、前任の徳島工業監督時代からこの「練習の記録」を採り入れ、就任9年目を迎える鳴門でも継続している。
「以前よりマジメに書けるようになった」と伝統を積み重ねているこの日記、実は野球ではなく今に至るまで陸上用の市販製品だ。

 なぜ「陸上用」なのか。ページを開いていくとすぐその理由が解った。表紙には年間の目標を記せるようになっており、ページ冒頭は月間計画表。個別日記の部分も練習内容と睡眠時間・食事メニューの記入欄が添えられている。すなわち日々の行動は1ページに凝縮されることになる。これならば後に見直しても、当時の状況は一目瞭然である。

「この日記は自分を振り返り、活かす日記にしてほしいんです。だから僕からは『日記は当日でなく、翌日朝に記入してもいい』と伝えてありますし、こういう日記だと、どうしても反省になってしまいますが、僕は『よかったことも書きなさい』と言っています」(森脇監督)


関連記事
・9月特集 野球ノートの活用法
・2015年秋季大会特設ページ

 『野球ノートに書いた甲子園3』 特設ページ

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[page_break:選手を成長させる野球ノート]

選手を成長させる野球ノート

野球ノートについて話す鳴門高校の選手たち(県立鳴門高等学校)

 もちろん今年の夏の徳島大会4連覇にもノートの記入事項は十分に活かされた。

 徳島大会24イニングを投げ自責点0。2年連続甲子園先発マウンドに立った2年生左腕・河野 竜生は言う。
「色々と考えることがあった中で大会前に1年前のノートを開いてみたら、何も考えずにマウンドに上がっていたことを書いていました。それがあって徳島大会でも打者を打ち取ることに集中できました」

 また、7月12日の日記で「昨年のノートを見た」と明記し、2年生4番の大役を果たした手束 海斗は改めて「練習の記録」効果を振り返る。
「自分の悪かった時、試合の時の調子や、いい状態の時が記してあるので、ノートを見返すことでいい状態に持っていくようにしました」

 河野・尾崎 海晴中山 晶量の3投手をリードする佐原 雄大(2年)も同様だ。
「心の部分を書いておけば、来年にも活かせると思いますね」

 もちろん「活かす」は選手側からだけの視点ではない。「見て返すだけ」と開口一番に話した森脇監督もその活かし方を教えてくれた。
「ノートを見て、そこに書いてあることを見て、実際の行動を確認していますね。その上で練習最後の全体ミーティングで日記の内容を選手全員の前で言うこともありますし、『コーチを通じて気になることは聴くように』と話もしますね」

「見て返すだけ」という冒頭の発言はやはり謙遜であった。

悩みの先にある「宝物」をつかみに

 しかし、2年生たちにとって3冊目のノートはハッピーエンドとはいかなかった。8月7日・九州国際大付(福岡)との甲子園1回戦。2対8。徳島大会での自信は木っ端微塵に打ち砕かれた。

 試合当日・翌日も含め、彼らのノートには様々な言葉が並ぶ。
「2年連続初戦敗退して、もっと力を付けなくてはいけない」(尾崎)
「最後の1人で投げさせてもらったのに抑えられなかった。甲子園から学んだ」(中山)

 そして「河野はその日の日記を真っ赤に書いていました」と指揮官も振り返る河野は・・・・・・。
「甲子園で2回も同じことをして3年生の野球を終わらせてしまった。もっとレベルを上げないと全国では勝てないし、自分もしっかりしないとチームも勝てないし、意識を変えないといけない」

「決まったはずのボールも打たれた」と今も答えを探している中、河野は日記の内容を話してくれた。

 それから1ヶ月あまり。「当たり前のことを当たり前にする」を掲げる濱 礼人を主将に据えた鳴門のチームは悩みながら少しずつ前に進もうとしている。
「甘い気持ちでは勝てない。全国で勝つためにどうするかを考えながら、全てを変えないと」
手束は厳しい表情で意気込みを述べる。それには誰もがうなずいた。

 そして森脇監督も彼らの「練習の記録」を通じた成長に期待を寄せる。
「僕も練習メニューを毎日書いて後で見直すように、選手たちも宝物にしてほしいんですね」

 果たして9月から切り替わった4冊目のノートにはいくつ「宝物」が刻まれるのか?その数が多ければ多いほど、彼らはチーム目標として掲げた「あの悔しさを糧に全国制覇」へ近づくことになるだろう。

(取材・文:寺下 友徳、写真:佐藤 友美


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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