Column

甲子園初出場を決めた高川学園の野球ノート! (第1回)

2016.08.11

【寮監督と、球児たち 毎日綴った甲子園への思い―】

8月9日発売の話題の新刊!!累計15万部突破の
野球ノートに書いた甲子園4』の発売を記念して、今回は特別にこの夏、甲子園に初出場を決めた高川学園の野球ノートの物語をお届けします!

 2016年。ついに夏の甲子園初出場を果たした山口県の高川学園
初戦で、履正社に1対5で敗れたが、チームにとって大きな一歩を踏み出したことは確かだ。今回は、2013年に取材した高川学園野球部の選手と、当時コーチだった中野智弘部長との野球ノートを通じたお話を3回連載で紹介していく。記事は2013年刊行の「野球ノートに書いた甲子園」に掲載中!

5/48 のノート

高川学園野球部練習風景(高川学園高等学校)

 2013年、夏の山口大会高川学園高校は優勝候補の最右翼として名前を挙げられるようになっていた。

春の中国大会
では、決勝で大会屈指の右腕、広島県・瀬戸内高校(2013年甲子園広島県代表)のエース山岡 泰輔を打ち崩し6対5で優勝。夏の山口大会が始まっても、決勝まで4試合で41安打39得点。実に3試合をコールドで下す、圧倒的な打力を誇っていた。悲願の甲子園まであと1勝。決勝の相手は、春の甲子園大会に出場した岩国商業高校だった。

 この年の高川学園高校の歩みは決して順風満帆ではなかった。コーチでもあり寮監督を務める中野 智弘は、チームをこう振り返る。
「現在の3年生には、1年生のころから試合に出ている選手が多くて、上の世代のチームでも中心になれる選手がいっぱいいたんです。でも、ことごとく結果を出すことができなかった」

 1年前の夏の大会は2回戦で敗退。新チームでは実戦経験豊富な3年生たちが中心となり、練習試合で結果を出す。しかし、秋季大会では同じく2回戦で柳井学園に3対5で屈した。「今年こそ」の思いは、残酷にも大きな壁に跳ね返された。
それでも、選手たちはあきらめなかった。

「秋の大会で負けてから、意識がさらにグッと上がってきたように思います。朝から1000本、2000本のスイングをする。練習でも多いときは、一日でひとり9000本振っていた。もう振って振って、手がボロボロになっても振っている……。敗戦を力に変えていたと思います」
その成果は、春先から一気に現れる。4月以降、公式戦は無敗。中国大会も制した。

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中野寮監は書かれたノートを丁寧に読み、コメントを書いて選手に返す(高川学園高等学校)

 2012年に高川学園高校野球部寮の寮監として赴任してきた中野 智弘は、選手たちに「野球ノート、書きたかったら書いていいぞ。読んで返すようにするから」と伝えた。それまでも前寮長のもと、数人は野球ノートをつけていたらしかったし、父であり高川学園高校野球部の監督でもある中野 泰造から「もしやる子がいればやってみなさい」と言われていたことも大きかった。

 24歳と若い中野寮監は、高川学園に務める一昨年前まで、広島県の名門・広島広陵高校の寮監だった。自身の母校でもあった。現役時代は、同級生に現・北海道日本ハムファイターズの吉川 光夫、ひとつ下の学年には、野村 祐輔(広島東洋カープ関連記事)らを擁し甲子園準優勝を果たしたメンバーが揃うなかで、中野自身も甲子園を目指しがむしゃらに練習をした。

 その広島広陵高校時代を振り返って悔いが残ることがある。それは、つけていた野球ノートをもう少し有効活用できなかったか、という思いだ。
「当時は、どうしても義務的なものになっていたように思います。中井先生(広島広陵高校野球部監督)が素晴らしい話をしてくださっても、それを書き写すだけというような……。いま読み返してみても、内容が薄かったかなという思いがあります」

 そういう意味では、高川学園の野球ノートへの考え方は、中野寮監に合っていたのかもしれない。高川学園では、野球ノートの提出が、自主性に任されているのだ。
「寮に初めて来たときに、野球ノートを書きたければ書いていいよ、という話をしました。強制ではありません。提出する選手の数も最初はかなりいましたね。特に昨年の夏の大会が終わるまでは本当に多かった。夏が終わってからちょっと減ってきたな、と(笑)」

 そのなかで、いまでも野球ノートを書き続け、コメントのやり取りをしている選手が5人いる。高川学園野球部の部員数は2013年夏の大会までで48人。うち5人は、中野寮監とグラウンドだけでなく、野球ノートでも、甲子園を目指したのである。

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高川学園野球部 野球ノート(高川学園高等学校)

 5人のうちのひとりが、この夏で引退となった中林 達成だ。チームの副キャプテンでもあった中林は一日たりとも欠かすことなくノートを書き続けた。ノートはすでに5冊目。彼にとって、この野球ノートとの出会いは、宝物ともいえる存在になった。

 大阪府にあるボーイズリーグの名門・堺ビッグボーイズでプレーをしていた中林は、どうしても甲子園に行きたいという思いから、単身山口県へと乗り込んだ。同じビッグボーイズでプレーしていた同級生に、大阪桐蔭高校の森 友哉関連記事履正社宮崎 新などプロが注目するメンバーがいた。
「ビッグボーイズの先輩には、筒香 嘉智選手(現・DeNAベイスターズ関連記事)もいて、先輩方が甲子園で活躍する姿をみて、僕もあの舞台に立ちたい、と強く思いました。親元を離れた寮生活にはなるんですけど、甲子園に行くために高川学園で野球をやろうと思いました」

 そこで出会ったのが、野球ノートだった。
「もともと先輩方が出されていて、自分もやってみようと。入学したときに中野先生(泰造監督)から、なにごとも続けることが大事、続けることに意味がある、と教わったのでこのノートだけは絶対に続けよう、と思いました」

 2年生になり、現在の寮監、中野が赴任すると中林はこれまで以上に、この野球ノートにのめり込んでいった。
「中野コーチが、いつも僕らのノートにコメントを下さるんですが、それが毎回とてもためになりました。コメントが戻ってくるのが楽しみで書いていたという面もあったと思います。それを見ると自分がさらに成長できる気がしたんです」

 中林がはっきりと覚えていることがある。2012年の11月。野球ノートにこんなことを書いたことがあった。

 (第2回に続く)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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