平成24年度四国地区高等学校野球連盟監督研修会
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基調講演に聞き入る123名の出席者
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1月21日、愛媛県松山市で開催された「平成23年度・愛媛県高等学校野球連盟監督研修会」において、近年の停滞に危機感を募らせ四国4県の指導者たちが集い、「四国地区監督会準備会」の設立を決定。そんな歴史的出来事から始まった2012年・四国高校野球。反逆の序章は選抜大会からであった。
高知(高知)は初戦敗退に終わったものの、鳴門(徳島)は史上初となる2試合連続逆転サヨナラで、同校42年ぶり、徳島勢では03年・徳島商以来10年ぶり、四国勢では07年・室戸(高知)以来5年ぶりとなるベスト8。2校合わせれば2勝2敗と四国勢はようやく負のスパイラルから抜け出すことができた。
上昇ムードはなおも続く、夏の選手権は今治西(愛媛)、香川西(香川)、鳴門が初戦敗退に終わった一方で、明徳義塾(高知)が県勢としても10年ぶり。四国勢では04年に決勝へ進出した済美(愛媛)以来途絶えていたベスト4進出。よって四国4県代表の総合成績は3勝4敗。今年の甲子園成績は5勝6敗。この成績を見れば四国勢の低迷に一定の歯止めがかかったことは確かである。
とはいえ野球王国復権の道はまだ半ば。更なるレベルアップの必要性は四国地区指導者の一致した意見である。12月8日、香川県高松市のJRホテルクレメント高松で開催された「平成24年度四国地区高等学校野球連盟監督研修会」でも、その傾向は顕著に現れた。
熱き同志たち、高松に集う
ホスト県、香川からは同県高等学校連盟監督会・馬場博史会長(高松監督)など43名。徳島県からは岡田康志・同県高等学校野球連盟監督会会長(徳島池田監督)をはじめ15名。昨年のホスト県であった愛媛県からは木村匠(今治東中等教育学校監督)同県高等学校野球連盟監督会会長をはじめ37名。さらに昨年は高野連行事と重なり出席が叶わなかった高知県からも土佐監督を務める西内一人・高知県高等学校野球連盟監督会会長を筆頭に18名。今回は監督のみならず、部長・副部長・コーチも含め113名の同志たちが高松に集うことに。この人数だけを列挙しても、この研修会に対する指導者たちの対する関心、熱意の高さが伺える。
開会の挨拶に立った
野崎(※旧字)泰博・香川県高野連会長
一方、迎える香川県高等学校野球連盟(以下、高野連)もスペシャルプログラムとなる基調講演を準備していた。
題して「その時ベンチは」。
毎年12月の香川県高野連監督研修会では2009年にスタート。夏の選手権香川大会でポイントになった試合を抽出し、その両監督を講師に采配の意図や背景をディスカッションしていく香川県独自の企画を、今回は秋季四国大会で適用したものだ。
コーディネーターは今年4月まで香川県高野連会長・昨年5月まで日本高野連副会長を歴任した井上直樹・日本高野連顧問。講師は優勝を果たした高知・島田達二監督、ベスト4の徳島商・森影浩章監督、同じくベスト4の済美・上甲正典監督。準優勝の鳴門・森脇稔監督こそ所用で欠席したものの、豪華3トップが自らの野球観、戦術論を語り合う120分間は壮観そのものであった。
「その時ベンチは」四国版で、開かれたパンドラの箱
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上段左から:井上直樹・香川県高野連前会長、島田達二・高知監督
下段左から:森影浩章・徳島商業監督、上甲正典・済美監督
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かくして、まるでパンドラの箱を開くように始まった「その時ベンチは」。最初のテーマは「四国大会前における他県代表校情報の分析と選手への伝達方法、そして県大会から四国大会、大会中の調整方法」であったが、ビデオを収集する方法こそ各監督同じながら、それ以後の落とし込み等については、のっけから見方の違いが如実に表れた。
例えば四国大会前の調整法であれば、基本を大事にする高知・島田監督が「2週間のうち最初の1週間は追い込んで、自分たちに集中させて、あとは失敗点を確認させる」のに対し、独自のバッティング理論に定評のある徳島商・森影監督は、2週間でボール球に手を出さないトレーニングを徹底。さらに「完璧主義」を自認する名伯楽・上甲監督は相手投手のセットポジション時における首の振り方で攻撃パターンを決めることなど、「ここまで教えていいのか?」と思うほど、健康管理の部分も含め、相手を崩すプロセスをつまびらかに明かしてくれた。
大会中、勝てば来春の選抜大会出場に近づく準決勝までの調整法では今だから明かせる話も飛び出した。高知であれば、徳島商エース・坂本温基(2年)を想定した打ち込みを行いつつ走塁を強化したが、当時の投手陣は制球力に自信がなかったため、ひたすら低めに投げることを意識したこと。徳島商では高知エース・坂本優太(2年)と酒井有弥(1年)をイメージさせた打ち込みを行った反面、和田恋(2年)の登板は想定外だったこと。中でも上甲監督が明かした「準決勝前の練習中、エース安樂智大(1年)が「ちょっと1人にさせてほしい」と言ってきたので、グラウンド横の土手を1人で走らせた」エピソードは、正に「逸話」というべきものだ。
[page_break:準決勝映像を見ながら繰り広げられた論議]準決勝映像を見ながら繰り広げられた論議
秋季四国地区高校野球大会 準決勝より
メインとなる準決勝映像を見ながらのディスカッションでも、ベンチが様々な決断を繰り返しながら試合を進めていることが各監督の発言から明らかになった。(参考:2012年秋季四国地区高校野球大会)
高知対徳島商の準決勝第1試合。2回4失点で坂本優太が降板したのは「スライダーの修正がきかないので、2回を終えた時点で点差にかかわらず決めていた」(高知・島田監督)こと。5回の整備後、4番に代打を出すことや、投手交代のタイミングに徳島商・森影監督が悩み続けていたこと。
第2試合の鳴門対済美でも8回に林幹也(1年)がスクイズを決めた場面や、9回に3点差をひっくり返されてサヨナラ負けを喫した際の、済美・上甲監督の頭脳や心の動かし方は、実際の場面を見た後だけに、さらに戦いの深みを感じることができた。
ちなみに、この研修会で筆者の前に座っていたのは昨年は松本竜也(巨人)を擁し、甲子園1勝をあげた英明・香川智彦監督と、95年春には観音寺中央を初出場・初優勝に導いた丸亀城西・橋野純監督。
準決勝の映像を見ながら「この配球はどうなんかな?」「このバッターの打ち方は…」と議論を交わす姿は、四国内では名将の域に達しているにもかかわらず、決して現状をよしとしない攻めの姿勢がみてとれた。
ホップの2012年、ステップの2013年、そしてジャンプの2014年へ
こうして「四国地区監督会準備会」の2回目ともなる四国地区高野連監督研修会は、成功裡のうちに会を終えることに。3監督中最も若い島田監督は、終了直後、講師でありつつ得たものをこう話してくれた。
「自分でしゃべることで振り返りもできるし、勉強になることや反省点もわかりました。上甲さんの考えも深いし、講師の席にいながらにして勉強させてもらいましたね」
司会役を務めた上杉敬治・香川県高野連理事長
また、この企画にかかわり、進行役も務めた上杉敬治・香川県高野連理事長も、満足そうな表情で今回の成果と、次回以降への希望を語る。
「今回は香川県でやっていたこことを四国に広げてやってみたんですけど、色々なことを聴けたことはよかったし、ベテラン監督さんも反省している姿を見て若い監督さんも安心できた部分もあるんじゃないでしょうか。これからもこの研修会は4県で独自のものを出しながら定着を続けられればいいですし、これがまた甲子園で勝てる、『野球王国』を作るきっかけになれればと思います」
もうすぐ2012年も終わろうとしているが、願わくば今回の研修会が第85回記念大会のセンバツから始まる2013年へのステップになることを。そして次回は徳島県内開催が予定されている「四国地区高野連監督研修会」を経て、2014年がジャンプの年にできるように。野球王国復権の「ホップ」を形創った同会が担う役割は、ますます大きく、強くなろうとしている。
(文・寺下友徳)
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