工藤明の執念
第10回 工藤明の執念2011年10月11日
[nophoto]
[/nophoto]
夏の日
能代商・工藤明監督
25年ぶり2度目の選手権出場となった2010年の夏。能代商はその大会で17度目の夏出場となった南日本の王者・鹿児島実に挑戦した。しかし、2年生エースの保坂祐樹が早々に捕まると、田村清司、畠山慎平と継投しながら合計23安打を浴び15失点。打線も3安打無得点に抑え込まれ、文字通りの完敗を喫したのである。
「とにかく悔しかったです。そこで新チーム発足後に、すべての目標をただの一点に絞りました。『鹿児島実を倒すこと』。それ以上でも以下でもない。本当にこの一点のみですね」
ただひたすら「鹿実」の名前を意識し、チームとしての統一スローガンをナインに植えつけていった工藤監督。「あの悔しさを忘れないために」と、練習場には鹿児島実戦のイニングスコアを、そっくりそのまま表示しナインを鼓舞し続けてきた。
[nophoto]
[/nophoto]
執念
能代ナイン(2011.8)
「全国に行くと、あの時の鹿児島実のレベルが当たり前なのだということを思い知らされました。試合中のプレーもグラウンド内外の姿勢も、すべてが模範的。本当に大きな目標でした」
つまり、能代商が設定した“全国”とは、神宮大会で準優勝を遂げるほどのチーム最低が最低ラインだったのだ。これでチームが強くならないわけがない。
[nophoto]
[/nophoto]
満場一致
マウンドに集まる神村学園(2011.8)
ファーストストライクを仕留める積極的な打撃、堅実な守備とダイナミックな走塁、そして「大会参加チーム中ベスト」と賞賛されたグラウンドマナーは、ファンや関係者の心をしっかりと捉えた。国体出場権は甲子園8強と地元校でまず決定するが、残る3チームの選考が難しくなる。しかし、満場一致で「9番目のチーム」に指名されたのが、この秋田県代表の市立商業高校だった。
その山口国体では石川金沢を相手に3-3と引き分け、大会規定による抽選で結果的には石川金沢の勝利に終わった。しかし、工藤監督が「全国トップクラスの石川金沢を相手に、すべてを出し尽くせました」と言うように、この1年間で全国の強豪と五分に組み合えるだけのチームに成長したことは、充分に見せつけたといえる。
「去年の悔しさに始まり、終わってみればこんな晴れやかな気持ちになるなんて……。国体での試合終了後、選手たちの晴れやかな表情を見て、本当に良かったなと思いました」
仇敵打倒に燃え、燃え尽きた1年間が過ぎた。その過程で立ち止まることを捨てた能代商は、さっそく秋季県大会で優勝。東北大会を経て、春の聖地を目指す戦いが続く。国体会場を後にする工藤監督の潤んだ目が、再び厳しさを帯びた。