Column

ドジャース スカウト・小島圭市 未来に向けてのメッセージ

2011.04.10

ドジャース スカウト・小島圭市 未来に向けてのメッセージ | 高校野球ドットコム

第3回 ドジャース スカウト・小島圭市 未来に向けてのメッセージ2011年04月10日

2011年――。
そこには、新しい時代を生み出そうとする一人の男の姿がった。
小島圭市。肩書、メジャーリーグスカウト。
オンヨネベースボールギアを取扱う、プロスペクト株式会社の主催により、大阪、長崎、東京で開かれた「Baseball Meeting Of ON・YO・NE」で講師役を務めた小島は野球界への提案を掲げ「新しい流れを作りたい」と呼び掛けた。
「時代とともに、新しい流れは必然的に生まれてくる。その中で、野球界を変えるのではなく、新しい流れを、日本の野球界に作りたい」。
小島がその場にいた野球指導者を前にして伝えたかったのは、その肩書を超えた未来へ向けてのメッセージである。「甲子園」をテーマに、出席者らが参加するディスカッション形式で、ミーティングは行われた。

スーパースターが出ない日本への危惧

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小島スカウト(ロサンゼルスドジャース)

まず、小島は、スカウトの立場として、日本野球の現状をこう話した。

「日本からはスーパースターは生まれないんじゃないかと思っています」。

野茂英雄(ドジャースほか)をはじめとして、イチローなど(マリナーズ)幾多のメジャーリーガーを輩出してきたという実績があるというのに、日本には「スーパースターが生まれない」というのである。衝撃的な発言である。

「日本の野球界には中学、高校、大学、社会人、プロとありますが、これらの段階を踏んでアメリカにきた選手には、正直、魅力を感じないんですよね。ピッチャーは、まだ魅力ありますが、日本の„やらせる野球“では、“同じ花”しか咲かない。“同じ色”にしかならない。長い歴史があっても、スーパースターはイチローしか出てきていないわけだから」。

メジャーを最高峰として考えた上での、スーパースターという観点だが、昨今、メジャーへ挑戦する日本人の野手たちが軒並み、活躍できないでいる現状、あながち間違った指摘とはいえない。
では、なぜ、スーパースターは生まれないのか。それでも、なぜ、メジャーは日本の選手を欲しがるのか。そこを明確にする必要がある。


なぜ日本人がMLBで選ばれるのか?

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今年も数名のアマチュア選手がアメリカへと渡った

小島はメジャーで30%のシェア―を締める中南米の選手を引き合いに出し、日本選手との比較論を展開した。
「寺原(オリックス)が高校生の時に、150キロ投げた高校生を見たことがないから、ぜひ見てくれって上司にいったんですよね。身体にパワーはあるし、17歳で150キロを投げるのはすごい、と。ドジャースも獲りに行くべきだといった。すると、上司は『ドミニカにいってみな。食べ物もない、靴もない国だけど、木がなっている、そこをボーンと蹴飛ばしたら、ドサドサっと人間が落ちてきて、そいつらにボールを投げたら半分以上のやつは150㌔投げる』って。

これは冗談の話なのですが、それくらいドミニカには素材がいるっていうたとえなんです。ドミニカのやつらは野球のルールなんかわかんなくても、投げたらすごい。走ったら、速いんです。アップシューズで100メートルを11秒台で走る。しかし、残念ながら彼らは伸びていかない。頭打ちなんですよ。ちょっとお金貰ったら遊んでしまう、人のものを盗んでしまう。教育を受けてないからなんですよ」

 一方の日本人はどうか。小島は中南米出身のスカウトが口にした日本人評を受け止めている。
「中南米の選手は、活躍してお金を手にすればするほど、練習をしなくなる。チームの和を乱すんだ。ところが、日本の選手を見てみろ。誰が活躍する、しないは別にしても、誰一人としてチームの和を乱した選手はいないじゃないか」。

メジャーが日本人選手に目を向けるのはソコなのだ。日本には列記とした「教育」がある。格差が如実に表れてきていると言われているが、それでも、中南米とは比べ物にならない。普通に生活していれば、教育を受けられる。

何をすれば変わるのか??

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アメリカには本当にいい選手がいるという

 ただ、小島は、そうした背景を理解しながらも、日本の野球界に歯がゆさを感じているのもまた事実である。
スカウトになって10年、日本の野球に少なからずの変化を感じながらも、そのスピードの遅さに、焦れったさを捨てきれないでいる。
「日本の野球界を良くしたい。アメリカは本当にいい選手がいる。残念ながら日本人には勝てないな、こいつら凄いなって思うんですけど、そこをひっくり返してやりたい」
何が焦れったいのか。


ある一つの提案

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甲子園球場

そこで「甲子園」というテーマが議題となってくる。
小島は「これほどの大会は世界を見渡しても、どこにもない。絶対、なくしてはいけない大会」とその存在の大きさを語る一方、「じゃ、甲子園に悪いところはないのだろうか」と、参加者らに投げかけた。

大阪、長崎、東京に集まった指導者たちは、それぞれの立場で答えた。
意見は様々である。

 良い意見としては……
「選手のモチベーションになる」(東京)
「夢、目標ができる」(東京、大阪)
といったものがほとんどだ。いや、言い換えれば、それがすべてに近い。

 一方で、良くない意見――。
「出場した選手が勘違いを起こす」(東京)
「練習試合過多による、部員同士のギスギスした関係」(大阪)
「指導者のための甲子園になっている」(大阪)
などだ。

この際、「甲子園は良いもの」だから、、むしろ、問題点はどこにあるかを探っていきたい。
良くないことの意見の多くは、「甲子園」の存在が大きすぎるために、甲子園に行けたら、どうなってもいいという価値感が存在するということだ。

衝撃的な告白をしたのはある整骨院の先生(大阪)だ。
「私は整骨院をする一方で、中学生のシニアのコンディショニングコーチをしているのですが、中学生でも怪我が多いんです。なぜかというと、甲子園に行ける学校に行きたい一心で無理をする。監督がやらせる野球をしますから、そこで無理して、故障する。ひどい場合には中学生でも手術をする。整骨院には、中学生だけでなく、高校生が来るのですが、中には授業をさぼって受診にくる生徒がたくさんいるんです。『授業を受けてから来い』というのですが、多くの生徒は『練習を休めない』と」

指導者自身がそこに酔ってしまっている、と指摘するのは、甲子園に2度出場の経験をもつ元高校野球監督である。
「私も、甲子園に出るまでは出たいと思ってやっていました。その中で初めて出た時に、甲子園に着いてバスを降りて、お客さんが来てっていう光景を見て思ったんです。これか!と。何10回も甲子園に出て、まだやっている人たちが心地いいのはこれなのだろうな、と。この気持ち良さがあるから、10回以上出ても、やり続ける。子供よりも自分が行きたいんです。行きたいから、選手を獲りにいく。甲子園がすべて。どんどん深みにはまっていく。」


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甲子園球場

 甲子園の存在が肥大化し、いわば、高校3年生の夏にすべての価値感が奪われてしまっている。
ある中学校の教諭(東京)は「甲子園で監督が何勝したということばかりがクローズアップされるけど、ソコの学校の生徒が将来どうなったかは、取り上げられない」と指摘。
甲子園が最優先され、「育成」という部分が疎かになってしまっているというのはメディアの取り上げ方も含めて、問題があると発言した。

 そして、ここで、小島の提案である。
「甲子園は、1年に2回大会がありますよね。これを1回にするというのはどうですか?」
この際、どこの新聞社が主催しているとかは抜きにして考えてもらいたい。その大会の歴史も無しにしての話である。
「甲子園」の大会が1回減るというのはどういう意味をもたらすのか。

「春には春のよさがある」というのが生まれた一つの意見だ。
小島の提案はさらに続く。
「甲子園大会を1回にして、予選を長い時間かけてやる。本大会も今の数から1、5倍にして…、それでも、目標がなくなるといえるのでしょうか」
この問題は単に甲子園の大会が一回減るというだけにはとどまらない。何度も書いているように、育成に置いても、大きな意味をもたらすだろう。

例えば、センバツは3月20日ごろが開幕となっている。規則で練習試合の解禁が第1週目の土日で、そこから短期間で仕上げなければならない。そうした無理強いが、果たして成長期の高校生に良いのかという疑念が生じる。夏においても、肩やひじの検査をしたからといって、連戦連投をしていいはずはない。選手の将来や育成を考えた時に、果たして、甲子園大会すべてが美化されるのは、危うい兆候といえる。

思い返してほしい。甲子園の優勝投手が、その後どうなっているか。
現在のメジャーで活躍している選手の中に、甲子園優勝投手は一人しかいない。
しかも、その唯一の存在である、松坂大輔でさえ、今は、居場所を模索している段階ではないか。高校やプロ入りしたまでは良かったが、一番身体に脂が乗り始める30代へ突入しようという今、スーパースターの階段に昇れていないのだ。
甲子園出場のない野茂英雄、高校時代は3番手投手だった黒田博樹(ドジャース)が、日本の誇るメジャーリーガーなのだ。

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スポーツと学業を両立して頑張るアメリカの球児達

 さらに、甲子園が1回になると、指導者自身の負担も軽くなると、小島は指摘する。
「今、高校生、特に、甲子園を目指そうとしたら、今よりも、野球に割く時間は短くできるんじゃないでしょうか」。

甲子園を目指すばかりに、高校生が本来目指すべきである学業を疎かにし、高校生の本分を見失ってしまうことが現実としてある。そのことが、野球選手としてではなく、人間としての成長を妨げる。

東京会場では、この議論が多くあり、「今の現状、野球に割く時間は70%以上」という意見がほとんどだった。
「練習時間を今より、半分より少なくなっていい。それでも、野球はうまくなる。今の現状で野球9割というのは、偏っていると思いませんか? 勉強とは言わないまでも、学ぶ時間があってもいいと思う。甲子園が1回になれば、それができる。指導者自身の負担が軽くなるはず」と小島は言う。

東京・大阪会場、共通して飛び出したのが、今ある高校野球連盟とは別の組織が存在してもいいのではないかという意見だ。
ある中学硬式クラブチームの指導者は言う。
「今、高校に行って、監督と合わなくて、野球部を辞めたとしたら、その子は野球ができなくなってしまう。高校生年代にも、クラブチームとか、そういう存在があってもいいのではないか」
 小島自身も、この発想には大賛成だ。というのも、今の日本の野球界には多くの障壁がある。そこには高校野球連盟のルール上、という理由ばかりのものだ。


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様々な意見がでた「Baseball Meeting Of ON・YO・NE」

例えば、プロアマの問題。先日、大学生とプロの試合が解禁されたが、日本高野連は「実現不可能」の姿勢を打ち出している。また、試合の開催だけでなく、プロと高校生が関わるという部分でも、壁が立ちふさがっている。さらには、高校野球部の監督が中学生には指導をしてはいけないというものまである。
いわば、高校野球連盟の現行のルールでは、プロと遮断され、中学生とも絡むことができない。
閉そく感ばかりで、野球界全体の風通しが悪い。

それが、高校野球連盟とは違う組織が存在すれば、異なった可能性を見いだせるというわけだ。

 ただ、そういう組織が存在したとして、間違ってはいけないのは、今の日本高校野球連盟と対立するため、反発するための発想ではないという点である。小島は言う。

「今あるものを変えることはできない。長い歴史があるわけだから。それは素晴らしいこと。ただ、それだけではない、違う流れがあっても、不思議なことではない。新しい流れを作っていけばいい」。
大阪会場では、実際、それが実現可能かどうかまで論議は進められた。今ある、「甲子園」という存在を捨てる高校生、ひいては保護者がいるのだろうかというものである。
「新連盟があったとしても、そこに所属する生徒たちのモチベーションはどこへ持って行くべきなのか」
「所属の校長先生は、それに賛同してくれるのかどうか」。
「マスコミの反発は大きいのではないか」などである。
小島は力説する。
「例えば、甲子園のような大会を、沖縄でもいい、そこで開催する。年に1回だけ。どこの縛りも受けないし、外資を受けられるわけだから。そこで、MLBが支援する。アメリカの企業が、日本の企業が支援するとなった場合に、話は変わってきませんか?」
もちろん、極論にすぎないが、今あるものがすべてという観点から、新しい発見があるという視野に立てば、思考も広がるというものだ。

小島のメッセージ

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小島氏

そこに、小島が提唱する「新しい流れ」というのが存在するのである。
小島は、今、堺ビッグボーイズという中学生のクラブチームのスーパーバイザーを務めている。そこでは、「強いチームを作っているのではなく、強い人間を作る」をテーマに育成年代の強化に尽力している。

練習時間をそれまでのものとは大幅に削減して、練習内容も選手自身が選択できる自由を与えている。勝ちにはこだわらず、指導者たちが罵声・怒声を響かせることもない。いわば、一つのモデルとして、中学球界に新風を吹き込もうとしているのだ。

「人に言われる前に自分で気付いて、行動できるようになった子は、社会に出ても、役立つ人間になる」。

 彼が繰り返し口にしている言葉である。
第1回目のミーティングでは、小島の野心からすれば、その一端を見せただけであろう。日本にはまだまだ乗り越えてはいけない難題がいくつもある。高校野球連盟脱退が現実的かどうかは別としても、新しい発想を生むという点では興味深いミーティングだった。
「これでよいと思っているわけではなくて、賛同していただける方と意見を交わしながら、より良いものを作っていけたらと思っています。一つの流れがやがて大きな流れになる。僕はそう思っています。形を変えていく転換期に、今は差し掛かっているんじゃないでしょうか」。

 ややもすると、小島がこうした改革を目指すのは、単に、彼が所属するドジャースに、日本人のスーパースターを連れていきたいからだと思っている人がいるかもしれない。
だが、それは正解な部分もあるが、大方は不正解である。もし彼がドジャースを強くするために、日本人を連れていくだけなら、野球界を変える必要はないはずである。よりよい野球界を作ること、その延長戦上に、アメリカで活躍する選手を生みだすというのがある。
「もっと良い野球界に。甲子園を1回にするなどして、日本野球の野球が風通しの良い一つの組織になっても凄いなって言われるようになれば、最高じゃないですか。アメリカを脅かす、そういう時代が来る日はある」

 小島が日本の指導者の前に発したメッセージには、日本の野球界が新たな領域へ向かうための道筋がみえた気がした。
何事も、始めは何もないところから始まっていくものである。
日本野球界の命運は、彼の言葉をどう受け止めるかに、懸っている。

(文=氏原英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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