
千賀滉大投手
2017年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の開催前は、これまでの国際大会の中で、一番徹底した準備ができたのではないだろうか。プレミア12終了後に、2016年の開幕前には台湾と強化試合を行う。さらにシーズン終了後には、WBCを見据えてオランダとメキシコと強化試合を行った。さらに大会前の辞退者も少なかったため、本番を想定したメンバーで強化試合を行うことができた。唯一想定外だったのは、投打の軸として期待されていた当時日本ハムだった大谷 翔平投手(花巻東出身)が日本シリーズで痛めた右足首が癒えずに辞退。ソフトバンク・柳田 悠岐外野手(広島商出身)も肘の手術の影響で辞退した。
その辞退者を上手くカバーするかのように、2009年WBCの優勝を知るメジャーリーガーのアストロズ・青木 宣親外野手(日向高出身)が選ばれる。対戦相手を見ると、これまで対戦がなかったイスラエルや前回大会から成長したオランダと当たることになるなど、比較的真新しい対戦も見られた。2015年プレミア12の悔しさを晴らすかのように、日本が世界を相手に躍動する大会が始まった。
この大会で優勝したのは準決勝で日本に勝利した米国だ。野手陣はベストナインに輝いたホズマーやイエリッチをはじめとしたキンズラー、A・ジョーンズ、アレナド、ポージー、スタントン、マーフィー、マッカチェン、クロフォードを揃えた。投手陣は出場国の中でチーム防御率1位をとなる2.15を記録。MVPに輝いたストローマン、ロアーク、ミラーなどがいた。
この大会の米国はイメージするような豪快さはなかったものの、勝ち進むにつれて勝負強さが出た。1次ラウンド1戦目でホセ・キンタナを擁するコロンビアに苦戦。5回までリードを許す展開だったが、同点に追いついて最後はサヨナラ勝ち。2戦目も前回大会覇者のドミニカ共和国に敗れた。3戦目はカナダに快勝して2次ラウンドに進出。1戦目のベネズエラには勝利したが、2戦目のプエルトリコには敗れた。崖っぷちの中、ドミニカ共和国に逆転勝ちで準決勝進出を決めた。準決勝の日本に勝利し、決勝のプエルトリコとの試合は、完全に仕上がっていた状態だっただろう。全体的にみても、おそらく調整のために全員を均等に出場させなければならないことや、球団側の制約がある中で、死の組プールを勝ち抜いて優勝したのは真の強さを感じた。
日本もこの大会を通して成長を遂げた。ベスト試合はやはりオランダとの死闘と言ってもいい試合だ。参加国1位の打率.321と47打点を記録したオランダの現役メジャーリーガーを擁する野手陣と正面から渡り合う。そのオランダに対して、国際大会に強い日本ハム・中田 翔内野手(大阪桐蔭出身)を中心とした野手力の選手層で勝った。さらに、バントや守備、継投策など細かい戦術の総合力で僅かに上回って勝ち切った試合だったのは間違いない。
投手陣に関しても、先発のロッテ・石川 歩投手(滑川出身)を早い段階で諦め、オリックス・平野 佳寿投手(鳥羽出身)やソフトバンク・千賀 滉大投手(蒲郡高出身)、日本ハム・増井 浩俊投手(静岡高出身)など150km/h以上の速球にフォークを決め球とする投手を中心に、日本ハム・宮西 尚生投手(市立尼崎出身)やヤクルト・秋吉 亮投手(都立足立新田出身)、西武・牧田 和久投手(静清工出身)などを織り交ぜた小刻みな継投策もお見事だった。まさに球史に残る名勝負だった。
この試合以外も、キューバやイスラエルに対しては、ビハインドの展開から投手戦までバリエーション豊かに勝利していき、日本野球の強さを感じた大会だった。野手陣は参加国1位の本塁打数と盗塁数を記録し、得点は3位、打率は5位を記録した。投手陣はチーム防御率3.05で、7位を記録していた中で、ベストナインには先発から中継ぎまでフル回転の活躍で防御率0.82を記録した千賀が獲得した。投打がかみ合いメジャーリーガーがいる国とも対等に戦えることを証明した大会だった。
(記事=ゴジキ)