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小刻み継投、エースはリリーフで投入…高校野球の投手起用のトレンドは過渡期か

2022.12.10

小刻み継投、エースはリリーフで投入...高校野球の投手起用のトレンドは過渡期か | 高校野球ドットコム
仲井 慎(下関国際)、古川 翼(仙台育英)、川原 嗣貴(大阪桐蔭)

球数制限による価値観が変わる高校野球

 今年の主要大会を見ると、球数制限が大きく影響していたように思える。これは昨年も同じだった。しかし、今年に関しては近江(滋賀)の山田 陽翔投手が先発完投型として投げていた状況が、その起用法は賛否両論となった。これに関しては、球数が多かったからこその意見が見られたが、球数制限が追い風になったのは間違いない。

 また、投手の複数人化によって公立高校と私立高校の格差が、さらに広がるのではないだろうか。公立高校が勝ち上がるにしても、最後力尽きてしまい、優勝までいかないのは、良くも悪くも何か突出した部分がなく、強豪私立高校に比べて物量でも劣るから大舞台のあと1歩という終盤に力尽きてしまうからと見ている。 結局そのあたりが、2010年以降の高校野球の公立の限界に繋がり、これから公立高校が覇権をとることへの課題だ。

投手起用のトレンドの移り変わりと落とし穴

 球数制限の影響で戦略の面で見ても、小刻みな継投策やエースをリリーフに回す高校も増えてきた。夏の甲子園で優勝した仙台育英(宮城)は、5人の投手をベンチ入りさせ、投手陣の1人あたりの球数を1試合につき多くても80球前後に制限した。これまでの高校野球の投手起用は、エースと2番手が1試合ごとで交互に投げたり、1試合で2人の投手が投げることが主流だった。しかし、仙台育英は1人の投手が短いイニングを少ない球数で抑え、次々に投手を変えていく継投策で決勝に進んだ。多くの高校は短いイニングですら試合を作れずに投手を変えてしまうところが多いなか、ここまでバランスよく投げさせながら失点を防ぐ起用法を構築させたことは非常に理にかなっていた。

 高校野球のレベルでは、強豪校となると2巡目以降で投手の球筋に合わせてくるが、細かい継投によって相手打線の「慣れ」を防ぐこともできる。また愛工大名電(愛知)戦のように、1人の投手の調子が良ければ5イニング投げさせるときがあるなど、バリエーション豊かな起用法が生まれる。仙台育英以外の学校でも同様の戦略が取られており、國學院栃木(栃木)も4人の投手に投げさせる細かい継投策で、智辯和歌山(和歌山)の強力打線をわずか3点に抑えた。4、5人の選手を投げさせる戦略が主流化する兆しはすでに見えはじめている。

 もちろん、この継投策にもデメリットはある。それは投手が実戦や練習から短いイニングと少ない球数を意識して投げることになるため、長いイニングを投げることが困難になることだ。また、仮に高校野球で短いイニングが主流化すると、将来的に大学野球やプロ野球で先発投手として長いイニングを投げられる投手が減る可能性もある。他のスポーツの例にはなるが、陸上競技の世界では箱根駅伝がマラソンよりも人気になったために、ほとんど大学の長距離走の選手は駅伝を念頭において練習するようになった結果フルマラソンで活躍できる選手がなかなか出てこなくなった、とよく言われるが野球でも同様のことが起こる可能性がある。

 実際、先発から中継ぎ、抑えに回ると活躍するケースは多いが、中継ぎや抑えから先発に転向するケースは少ない。ショートイニングは高校野球を勝ち抜く戦略としては有効かもしれないが、選手の将来性をつぶすことになりかねない危険性を含んでいる。

 その他を見ると、センバツと国体、明治神宮大会を優勝した大阪桐蔭(大阪)は状況に応じてエースを先発ではなく、後ろで起用した。前エースの川原 嗣貴投手を後ろに回す試合も夏が近づくにつれて増えていった。センバツの決勝に関してもまさにそうだ。明治神宮大会に関しても、最後は前田がリリーフで締めて2連覇を成し遂げた。大阪桐蔭の場合は、上級生に最後の場面で華を持たせる傾向もあるが、これは他の高校も同じである。

 夏に大阪桐蔭を破り、準優勝を果たした下関国際の継投策も、先発と抑えの2人で勝ち上がるという戦略だった。このパターンは、2017年に清水 達也投手と綱脇 慧投手の2枚看板を擁して、夏制覇した花咲徳栄(埼玉)と似ている。この時の花咲徳栄はエース級の実力があった清水をリリーフとして起用。清水は試合展開によっては、早い回から登板し相手の流れを断ち切ったり、終盤の抑えとして登板するなど、臨機応変な起用に応え、チームに優勝をもたらした。

 プロ野球のセットアッパーやクローザーのように、先発よりも打つことが困難な投手が後から出てくる方が、相手チームへの脅威になる。そのため、エース級の投手を後ろに持って来られるチームは、エースを先発させるチームよりも逆転負けが少なくなるというメリットもある。

 このような継投にも、デメリットはある。それは、先発の調子次第では片方の投手に負担がかかることだ。先発投手が大会を通して試合を作れないピッチングが続くと、リリーフでマウンドに上がる投手に多大な負担がかかる。2006年の駒大苫小牧(南北海道)がまさにそうだった。田中 将大投手(現楽天)をリリーフ待機させていた試合は、4試合あったが3試合で先制を許し、しかも4試合全てで田中が6イニング以上を投げている。後から田中が投げることによって、ピンチを抑えられることや流れを引き寄せられるが、先発とエースの力の差がはっきりとしていることや水準以上のゲームメーク力がないと、ほとんど後から投げるエース頼みになる。

 今後は新たな継投策が増えていくが、徐々に時代に合わせていきながら、勝ち方を変えていくことも重要になっていくだろう。

(文=ゴジキ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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