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ある意味、奇跡的。高校、プロでも共通の運用で佐々木朗希は予想を超える怪物に

2022.04.18

ある意味、奇跡的。高校、プロでも共通の運用で佐々木朗希は予想を超える怪物に | 高校野球ドットコム
高校時代の佐々木朗希

 ロッテ・佐々木 朗希投手(大船渡高出身)が、またもインパクト十分の投球を見せた。10日のオリックス戦で完全試合を達成。17日の日本ハム戦では先発8回完全の投球を見せた。高卒3年目とは思えない圧倒的なパフォーマンスに興奮しているファンも多いことだろう。

 佐々木に関しては、高校、プロで育成システムが一貫している。かなり稀なことだ。

 これまで多くの球児を取材してきて、プロで活躍できずに球界を去ってしまった選手を多く見ている。そこには実力不足だけではなく、その選手がその環境に合っていたか、適応できたかということもあったと思う。

 環境、指導者が違えば、方針が違って当然。個人が組織に対応していくのが一般的な流れだが、組織、そして指導者が佐々木朗のために動いている。動かざるを得ないほど傑出した存在なのが佐々木朗なのだ。

 今や佐々木朗の登場によって、選手のパフォーマンスアップ&コンディション維持についての議論が活発化するようになってきた。

 高校野球をずっと報道している者としては、ここまでの出来事を記録したいと思い、コラムとしてつづることにした。ある意味、佐々木朗にとって大船渡高とロッテの計約6年は奇跡的であり運命的な出会いだった。

 高校時代の佐々木朗は十数年で1人の逸材だと思った。

 長年、ドラフト候補だけではなく、甲子園や、地方大会、地区大会まで見て、多くの球児を見てきたが、佐々木朗は特別な存在だった。

 佐々木朗を預かった当時の國保監督は、どれだけ重荷だったか、責任を感じたか、その苦労は計り知れないものがある。ただ國保監督は医学的な知見から投手運用、練習のマネジメントができていた。まだ成長期だった佐々木朗の肉体にとって、並外れた速球を投げることがどれだけ負担がかかるのかを理解していた。イメージだけではなく、専門家から意見を仰ぐ柔軟性もあった。

 この運用はもちろん佐々木朗だけではなく、他の投手陣にも適用した。

 佐々木の中学時代のチームメイトでもある、駿河台大の和田 吟太投手(3年=大船渡高)は國保監督の方針について、
「本当に投手の状態を気遣ってくださる先生で、投手が全力で投げられるように調整させてくれる方でした」

 國保監督在籍時の大船渡高は、1週間ごとの球数を管理していた。あくまで目安だが、和田の場合、大会前では1週間で球数は100球以内、大会とは関係がない練習試合の場合、150球以内と決められていた。

 もちろん、理想的に球数を制限して公式戦で勝てるほど甘いものではない。佐々木朗は4回戦で192球投げた試合もあり、高校最後の夏の大会決勝の投手起用でも、いろいろな意見があった。

 地元の選手が集まった県立校があと1勝で甲子園出場となった夏の決勝。球場に向かう時、岩手県民の多くが佐々木朗へ大きく期待を寄せた。高揚した気分となった大人たちが多くいた。しかし佐々木朗は登板しなかった。それどころか、野手としての出場はなかった。エース&主砲を担う佐々木朗の欠場に、落胆どころか怒りをぶつけるファンもいた。


ある意味、奇跡的。高校、プロでも共通の運用で佐々木朗希は予想を超える怪物に | 高校野球ドットコム
高校時代の佐々木朗希

 試合後、報道陣から「なぜ投げさせなかったのか?」と質問された國保監督は「故障を防ぐため」と語った。続けて「試合展開に応じて試合に出す考えはありませんでした」とも付け加えた。

 チームの4番打者でもある佐々木朗が野手としても欠場した理由について「心の負荷がかかるからです。また野手として出れば投げる動作が入ります。そういうのもすべて排して、試合には出しませんでした」

 その後、テレビ番組内で、この決断に至って賛否両論が起こった。著名人から否の意見が多かったと思うが、個人的には佐々木朗が登板しなかったことに驚きはなかった。

 夏前から國保監督が専門的な知見を取り入れながら運用していることは聞いていた。そういう運用だったから、佐々木朗を取材するために関東から盛岡まで足を運びながらも、連投することなくメディア的にも「空振り」に終わることもある程度覚悟していた。

 前日の試合で、100球以上投げている投手が連投すると平均球速が落ちるのは必然。甲子園でも、地方大会を見てきても、ほぼ落ちている。準決勝の盛岡工戦、手元のスピードガンでは平均球速が147.33キロだった。その突出した出力を持つ佐々木朗が翌日に連投すれば、平均球速が落ちるだけではなく、故障のリスクが高まるのは想定できた。國保監督の運用は合理的だ。

 もちろん決勝戦に先発できる運用にすればよかったじゃないかという意見もあると思う。ただ、大船渡高の佐々木朗以外の投手陣を考えた場合、決勝戦まで与力を持って投げられるポテンシャルを持つ投手がいなかったこともある。接戦の試合では佐々木朗を完投させることは理解できるし、先発しないのであれば、故障を防ぐためには絶対に登板しない判断もありだろう。それで負ければ仕方ないというのが当時の大船渡高だった。

 佐々木朗にとっても、國保監督にとっても、幸運だったのは、抽選の末にドラフト交渉権を手にしたロッテが球団をかけて才能を守る育成計画を立てたことだ。佐々木朗の活躍を見ても、ロッテの指導者のタイプとも合っていた。奇跡的なベストマッチングだった。

 球団も首脳陣も、批判覚悟で1年目は1、2軍登板なしを決断した。それ以外で外部には語られないマネジメントなどがあったことも予想できる。

 そして、2試合連続完全試合達成という2度と訪れないかもしれない瞬間を見てみたい衝動にかられながらも、ロッテベンチ陣は熟慮の末、交代を決断した。

 今やロッテは佐々木朗を球界屈指どころか、歴史に残る大投手にするべく、これまでにない投手運用を行っている。それは多くの批判があってもだ。

 「少し冒険してもいい」「大記録のために続投させてもいいんじゃないか」「投げたところで怪我は起こらないかもしれない」。いろんな意見もあるだろうが、万が一のことが起こるのが野球であり、投手というものだ。

 自分たちが悪役、クレームを受ける立場となって、あらゆるリスクを守り、佐々木朗を育て上げる。そんな気概が感じられた。

 これまでにない育成計画により佐々木朗は周囲を圧倒させ、納得させるピッチングを見せている。懐疑的な反応だった解説者からも、理解し、絶賛する声が増え始めた。佐々木朗は自身の力で、自分を支えてくれる人たちを救ったのだ。

 プロ1年目から、よりよい佐々木 朗希を実現するために、状態をつぶさにチェックし続けた管理があるからこそ、今がある。それも変わらない。

 投げれば、満員になるような大投手となり、周囲の期待を超える投球を見せる佐々木 朗希。この1年、まだ驚くようなパフォーマンスを見せてくれそうだ。

(文=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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