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「自力で甲子園」手繰り寄せた離島の県立校 2022年も主役となれるか?

2022.01.06

「自力で甲子園」手繰り寄せた離島の県立校 2022年も主役となれるか? | 高校野球ドットコム
秋の鹿児島大会初優勝を果たした大島

 今年の一押しチームを挙げるならやはり鹿児島大島だろう。秋の鹿児島大会初優勝、九州大会準優勝で22年春は14年の21世紀枠での初出場以来、8年ぶり2回目となるセンバツはほぼ確実にしている。

 鹿児島大島の21年秋の快進撃は鹿児島県の高校野球史に残る快挙だが、好左腕・大野 稼頭央投手(2年)や4番・西田 心太朗捕手(2年)のバッテリー、主将の武田 涼雅内野手(2年)らを擁するこの代から急に強くなったわけではない。特筆すべきは14年のセンバツ出場をきっかけに、ほぼ毎年のように県大会8強以上の成績を残している点である。以下は、21世紀枠の選出にも大きく関係した13年から21年までの鹿児島大島の県大会の成績だ。

13年=春ベスト4、秋ベスト4
14年=センバツ出場(21世紀枠)、春九州大会出場、NHK旗ベスト4
15年=春ベスト4、秋ベスト4、秋九州大会出場
16年=春ベスト4、NHK旗ベスト4
17年=春ベスト4、NHK旗ベスト4、夏ベスト8
19年=夏ベスト8、秋ベスト8
21年=春ベスト4(3位)、NHK旗ベスト8、夏ベスト8、秋優勝、秋九州大会準優勝

 13年春、神村学園国分中央などに強打で打ち勝ち、4強入り。鹿児島大島の4強入りは91年秋以来21年半ぶりの快挙だった。練習試合が容易に組めない、遠征による金銭的な負担などいわゆる「離島のハンディ」があり、運動能力が高く、野球の力もある選手は潜在的に多くても、本土の強豪校に進学する選手も多く、鹿児島大島をはじめ離島のチームが県大会を勝ち抜くのは至難の業だった。

 13年に春秋と続けて4強入りしたことなどが評価され、21世紀枠で鹿児島の離島勢初の甲子園の土を踏んだ。以降も「次は自力での甲子園」へと目標を切り替え、16年秋に渡邉恵尋監督からバトンを受け継いだ塗木哲哉監督も、離島であることを言い訳にすることなく、毎年甲子園を目指すチームを作り、この8年間の県大会では、離島勢のみならず、鹿児島の公立校の中では上記のように群を抜いて上位の戦績を残し続けてきた。


「自力で甲子園」手繰り寄せた離島の県立校 2022年も主役となれるか? | 高校野球ドットコム
秋の鹿児島大会初優勝を果たした大島

「目標は甲子園ベスト8」。いつの頃からか、塗木監督、選手たちが異口同音に語るチームの共通目標になった。そのために「得点7点以上、失点2点以下」という県大会1試合の具体的な数値目標を定めている。塗木監督曰く「甲子園でベスト8以上の成績を残したチームの県予選での1試合平均得点と失点」が7得点と2失点だという。失点を2以内に抑えるために「1イニングの失点を1以下に抑えられる」ように計算できるバッテリー、守っているところに打たせる守備を作り、7得点以上挙げるためにバントではなく、打ってつなぐ打線を目指す。この8年間、県大会を勝ち上がる中で試行錯誤しながら「甲子園に行く」ための野球を作り上げてきた。この秋の鹿児島大会6試合の平均失点は2.06、得点は5.15。攻撃面はまだまだ粗削りだが、守備面では大野という抜群の勝負強さを誇る好投手を中心に、目標に近い数字を残せた。

 13年春まで21年半、ご無沙汰をしていた4強入りを、21年春までに8回果たしている。夏は17年、93年以来24年ぶりに8強入りして以降、19年、21年と準々決勝に勝ち進んでいる。毎回、フェリーで鹿児島入りし、勝ち進むたびにホテルでの滞在は長期になる状況は変わらない中で、これだけの成績を残しているだけでも見事なものである。

 ただ彼らの目指すのはあくまで甲子園であって、8強、4強入りすることではない。春、秋、NHK旗は決勝に、夏は4強に勝ち上がれない悔しさを味わいながら、果たせなかった目標達成を次の後輩たちに託し続けていた。地元紙・奄美新聞の記者でもある筆者はかつて「快挙」と表現していた4強、8強入りが、いつしか「決勝ならず」「4強ならず」へと変化し、壁を乗り越えられれないもどかしさを感じながら、記事を書いていたのを思い出す。

「1つ壁を破れば、ぐんと勝ち上がっていきますよ」

 秋の九州大会前、鹿児島大島OBの奥裕史コーチが予言めいたことを話していた。秋準決勝で強豪・樟南を相手に延長13回タイブレーク、3時間を超える死闘を制してようやく「壁」を破ると、県大会初優勝、九州大会初戦突破、初の4強入りと決勝進出…過去の先輩たちの思いも乗せて一気に勝ち上がった。

 22年春は掲げた「甲子園ベスト8」への挑戦となる。全国の猛者を相手に彼らがどんな野球を繰り広げるのか、興味は尽きない。

(記事:政 純一郎

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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