1年秋に4番もベンチ外を経験したU-15代表経験者・井坪 陽生。関東一の1番・中堅手を引き継ぐ素質
2021年の春季都大会で、関東一のメンバーに井坪 陽生外野手(2年)の名前がないことが話題になった。前年の秋季都大会では1年生ながら4番を任されることもあった。U‐15日本代表のメンバーで、八王子シニア出身であり、1学年上の兄が日大三でプレーしていることでも注目されていた。怪我でもしたのか?米澤貴光監督の答えは、「そういうわけではない」ということだった。
夏の大会のメンバーにも名前がなく、迎えた秋季都大会1回戦の東京成徳大高戦。地元であるスリーボンドスタジアム八王子で行われた試合で、今度は背番号8ながら、1番・投手で登場した。
投手としては最速140キロの速球と、スライダー、カットボールなどを投げて6回を被安打2の無失点に抑え、勝利投手になった。打つ方でも二塁打を放ち、2対0という僅差の勝利に貢献した。
井坪の勢いは止まらない。[stadium]江戸川区球場[/stadium]で行われた2回戦の早稲田実業戦で、1番・中堅手として出場。本塁打、二塁打を含む4安打、1盗塁。守備でも好捕があり、この試合でもヒーローになった。
2ケタの背番号にも、ベンチ外にも指導者のメッセージがある
井坪陽生(関東一)
この活躍を見ると、なぜこれまで外されていたのか、やはり気になる。「考え方とか、取り組みが、まだまだ甘かった。上のステージに行って活躍してほしい。スケールの大きな選手になってほしいです」と、米澤監督は言う。メンバーから外したのは、将来性を期待しているからこそ与えた試練だった。もちろん試練を与えるには、本人とのコミュニケーションも欠かせない。外されたことに、井坪も納得していた。
時代が変わる中、指導法も今まで通りにはいかない。厳しすぎると逆効果になり、パワハラになることもある。といって、甘やかして勘違いさせてもいけない。そうした指導者のメッセージが、与えないということも含め、背番号に込められていることがある。
二松学舎大附の瀬谷 大夢外野手(2年)は、甲子園でも3番を打ち、新チームでは不動の4番だ。秋季都大会では2本の本塁打を放つ一方で、盗塁やセーフティーバントもこなす器用さもある。それでも背番号は17だ。「勘違いする可能性があり、刺激を与えるためです」と、市原勝人監督は言う。
帝京の不動の4番で、秋季都大会では2本の本塁打を放っている渡邊 礼内野手(2年)も背番号は20だ。こうした背番号は、指導者の期待の表れでもあり、彼らが2022年にどう成長していくか、楽しみだ。
関東一の1番・中堅手を引き継ぐ素質
井坪陽生(関東一)
関東一の1番・中堅手と言えば、抜群の身体能力で甲子園を沸かし、2015年の4強進出に貢献したオコエ 瑠偉外野手(現楽天)や、オコエをしのぐ俊足で甲子園を沸かし、19年の8強進出に貢献した大久保 翔太外野手(現新潟医療福祉大)など、強烈な印象を残した選手がいる。井坪も、彼らに並ぶ可能性を秘めた選手だ。
ただ井坪の場合、チームで一番長打が期待できる打者であり、本来なら3番か4番という感じもする。その点について米澤監督は、「考える子で、4番だと結果が出ないのです」と言い、井坪も、「1番がしっくりくる」と言っている。1番は、井坪の積極性を引き出す打順であり、それがチームの活力にもなっている。
秋季都大会は準決勝で二松学舎大附に1対6で敗れ、井坪もこの試合、3打数0安打、1四球に終わった。それでも米澤監督は井坪について、「我慢することを覚えました」と、成長を認める。2022年、井坪は1番打者のままなのか、それとも中軸を打つのかは、分からない。それでも、関東一が3年ぶりに甲子園に行くためのキーマンであると同時に、投打二刀流で東京の高校野球を沸かす存在であることは確かだ。
(記事:大島 裕史)