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大阪経済大、準硬式の「甲子園」で 26 年ぶり歓喜

2021.11.15

 近年、高校球児の進路先の野球を続ける選択肢の一つとして注目を集めている準硬式野球。
 いわゆる「準硬」だ。今回、高校野球ドットコムでは、その準硬式野球の日本一を決める全日本大学準硬式野球選手権大会(以下、全日大会)の決勝戦を独自取材した。

困難の中の大会運営

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大阪経済大の優勝で幕切れ

 2020年は大会中止となったために、2 年ぶりの開催となった全日大会。今回の開催にあたり全日本準硬式野球連盟の松岡 弘記理事長は「選手と学生スタッフ達に準硬式野球で夢と希望を与えられたことに、全国の準硬式野球に携わるみなさんのご協力の賜であり、心より厚く感謝申し上げたい」と感謝の思いを述べた。

 ただ今大会は本来であれば、8月10日より岡山県で開幕する予定だったが、異例ともいえる夏の長雨により大会途中で延期を決定。新型コロナウイルス第5波の感染状況も考慮した上で、9月27日より愛知県に舞台を移して、大会が再開されることになった。

 そんな状況になるまで開催した大会意義について松岡理事長は「2020年開催予定であった全日本3大会はコロナ禍にて全て中止せざるを得ず、学生達に大変辛く悔しい思いをさせたからこそ、今年は全日本3大会を必ず絶対にやり遂げて学生達に夢を与えたいとの一心で、年度当初から考えていました」と昨年の実施状況を悔しそうに振り返りつつ、今大会への強い思いを話す。

 だからこそ「何としても再開して最後まで諦めずに大会を続けるために、すぐに全国で球場確保に当たり、東海地区で9月末に再開させ、無事に一人の感染者も出さずに優勝校を決めることができたことは、この上ない喜びでした」とコロナと異例の長雨にも挫けることなく、松岡理事長をはじめとした連盟全体で大会再開を目指し続けたのだ。

 新型コロナウイルスの影響で残念ながら参加を見送る学校もあったが、こうした様々な困難を乗り越え、各地区の厳しい予選を勝ち抜いた19校の精鋭によって大学準硬式の日本一を目指す戦いが始まった。

東西対決となった決勝戦

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3回、一安で出た伊藤元翔が盗塁、中飛の間三塁へ

 19校の戦いを制し勝ち上がってきたのは大阪経済大(関西)と専修大(関東)。
 決勝戦まで3試合で3失点、特に準決勝で近畿大学打線を完封した3年生・山登 涼哉滑川出身)を中心とした守備力の高い専修大。

 対する大阪経済大は3試合25得点と強力打線でライバルを打ち負かしてきた。準決勝まで毎試合ヒットと打点を記録した3番・成清 優市立尼崎出身)や、準決勝の國學院大戦で大当たりの8番・橋本 大志三田松聖出身)らを軸として攻撃でリズムを作ってきた。

 そんなチームカラーの対照的な両校による決勝戦は、序盤3回までは専修大ペース。先発した左スリークオーターの松岡 颯太海津明誠出身)が外角中心の丁寧な投球で、大阪経済大の攻撃陣をしっかりと封じ、専修大らしい野球を展開しかけていた。

 しかし4回から二巡目に入ると、大阪経済大打線も黙っていなかった。先頭の3番・成清と4番・橋本 圭介済美出身)が四球を選ぶなど一死二、三塁を作ると、6番・小川 圭吾知徳出身)がセンターへの犠牲フライを放ち、ランナーが生還。大阪経済大が先に試合を動かす。

 すると続く5回には1番・宇野 遥登常翔学園出身)が2点目のタイムリーを放つなど2点を追加して、3対0として前半を折り返す。

 大阪経済大は先発・齋藤 光太郎三田松聖出身)を4回でマウンドから下げ、5回から3年生エース・福島 拓弥光泉出身)をマウンドへ。130キロ台の真っすぐを軸に、準決勝まで12回3分の2で与四死球6、自責点4と安定していた福島は、5、6回と危なげなく専修大のスコアボードに0を刻む。

 だが、7回に5番・中村 哉太専大松戸出身)に二塁打。続く6番・高野 良輔滝川第二出身)にタイムリーと1点を失い3対1と詰められた。

 ただ8回にダメ押しとなる1点が入った大阪経済大。最後の打者をファーストライナーに抑え、4対1で大阪経済大が優勝した。

[page_break:優勝するべくして優勝した]

優勝するべくして優勝した

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26年ぶり3度目の優勝を果たした大阪経済大

 26年ぶり3度目の優勝を成し遂げた大阪経済大。チームを指揮する中野監督は「優勝するべくして優勝できました」と一言。これだけ聞くと、ビックマウスに感じられるが、その言葉の真意を続けて話す。

 「今年で5年連続全日大会に出場させてもらっていましたが、3回目あたりから『全日大会で優勝する』と選手たちから口にするようになりました。
 それまでは出場することが目標だったんですけど、そこを機に変わりまして、昨年の4回生は常々話をしていた目標です。新型コロナウイルスの影響で叶いませんでしたが、その時の悔しさを含めて今の選手たちは間近で見ていた。だからこそ、思いを背負って普段から過ごしてきたのを知っているので、優勝するべくして優勝できたと感じています」

 今年は8月、9月に開催時期が分かれるというイレギュラーな形で大会が進み、「不安な気持ちでした」と中野監督は振り返る。新型コロナウイルスという見えない敵と戦いつつ、開催されることを信じ、調整を続ける。忍耐力を要する日々だったが、「よく練習してくれた」と選手たちは、気持ちを切らすことなく、万全な準備を続けた。

 全体練習は週2日で、1日の練習は2時間ほど。専用グラウンドは持ち合わせないという条件下で練習を重ね、全日大会を迎えた。

 大会序盤は「申し分ない」と中野監督も納得する勝ち上がりでベスト4まで進出。ただ、準決勝の國學院大戦に関しては「これが全日大会の準決勝やぞ、と教えてもらいました」と苦笑いを浮かべながら振り返る。

 「2回までに8点も取れたので優位過ぎる、上手くいきすぎていると思いました。ですので、『このままだと終わらない』と思っていたら、やはり中盤から反撃にあいました。
 でも、今年の持ち味である全学年一体となる雰囲気の良さは健在でしたので、最後まで伸び伸び戦って勝ち切れたと思います」

 ベンチ入りのメンバーはもちろん、スタンドで仲間のために応援する選手たち全員で戦う。日々の練習で培った一体感には「本当にチーム、という感覚がした」と中野監督も高く評価する結束力で、決勝進出を決めた。

 戦う中で自信を深めた大阪経済大は、決勝でも全試合に登板してきた3回生・福島を早めに投入するなど、万全の試合運びで頂点に輝いた。春に卒業した先輩たちをはじめ、これまで大阪経済大の準硬式の歴史を繋いできたOBたちの思いを26年ぶりに結実させた。

[page_break:自信になった準優勝/準硬の魅力とは]

自信になった準優勝

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準優勝の専修大

 一方、準優勝に終わった関東地区代表の専修大。主将としてチームをけん引した高野 良輔は大会を振り返り「ここまで結果が出ると思いませんでしたのでうれしかったですし、ホッとしています」と話した。大会後に周りからの連絡をもらい、徐々に準優勝したことに対しての実感が湧いてきたそうだ。

 春季リーグ戦では3位とギリギリで予選会に参加。予選でも全日大会への出場チャンスは1度しかなかったが、その1回を埼玉大と日本大に勝利して掴んだ。そして全日大会でも、並み居る全国の強豪を倒して決勝戦まで勝ち進んだ。全日大会へ出場することすらできなくてもおかしくない厳しい状況から、全国準優勝まで駆け上がった。

 この要因を高野主将はチーム力だと考えている。
 「スター選手が多いわけではなく、個人成績もパッとしませんが、4年生中心にミスに対して悲観的にならず、いい意味で楽観的に考える。普段の練習から互いに鼓舞しあって前向きに戦い続けることが大きかったと思います」

 また松岡を中心とした投手陣の活躍も、準優勝の原動力になった。高野主将は「練習環境が厳しい中で練習をしているのを知っているので自信を持って送り出しましたが、よく踏ん張ってくれたと思います」と語り、感謝の思いを口にした。

 専修大の練習場所は、ブルペン2か所分の広さしかない。内野手はサイドノックを受けることができても、外野手はフライを取ることができない。またバッティング練習も学校内ではできないため、週1、2日ほどバッティングセンターを2時間貸し切って練習をする。

 さらに球場も月1回程度借りられれば良いほうだという。そんな厳しい環境から、全日大会で準優勝を掴んだ。常日頃から「練習場所があるだけいいですし、練習環境が恵まれていないことを言い訳にしたくない」とチームで話をして練習に取り組んできた成果といっていいだろう。

 だからこそ「こんな環境でもできるんだ」と改めて自信を深めたと話した。来シーズンの活躍も期待がもてる専修大の快進撃だった。

準硬の魅力とは

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専修大・高野 良輔主将

 最後に高校野球ドットコム編集部は大阪経済大・中野監督と専修大の高野主将に準硬式野球の魅力を語ってもらった。

 中野監督自身も大学時代は準硬式を経験し、全日大会にも出場した。そんな中野監督だからこそわかる準硬式とは「連盟からも文武両道というのが出ているので、そこはもちろんですが、凄く熱量のあるスポーツです。特に全日大会は、甲子園を目指すのと同じくらいだと思っているので、出場できないと寂しいし、物足りないです。だから、高校球児たちは、準硬式でも情熱を注げることを知ってほしいです」と話した。

 また専修大の高野主将は準硬式にしかない魅力をこう話す。
 「一芸に秀でた選手でも活躍できる場所だと思いました。自分自身、滝川二時代は捕手でしたが、膝の調子が悪くてピッチャーで1年間勝負しました。それでも結果が出なかったので自信を持っていた打撃で2年生から勝負したら、指名打者として活躍することができました。そうやって1つの武器で勝負できる世界だと思います。
 あとは、ケガをはじめ選手それぞれがいろんな思いをもって準硬式をやっているので、人生勉強にもなります。多くの方々と接する機会も野球を通じて増えるので、人としても成長させてもらえるスポーツだと思います」

 大学で野球を継続するかどうか悩んでいる高校球児も多いだろう。また継続するにしても、どこでやるのか。迷っている選手も中にはいるはずだ。そんな球児たちにとって、今回の記事を通じて準硬式が選択肢の1つになれば幸いだ。

(記事:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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