大阪桐蔭逆転勝ちは「スクイズ」にあり!?近江黄金期のエースが語る強さの秘密
大阪桐蔭を逆転で撃破した近江<写真:日刊スポーツ/アフロ>、林優樹(近江-西濃運輸)
この夏、優勝候補として期待された大阪桐蔭は2回戦で近江に逆転負けを喫した。近江は2回まで4点を先制され、苦しい試合展開だったが、1点ずつ得点を返し、8回裏に逆転勝ちを果たし、勝利を収めた試合運びは見事だった。勢いそのまま、近江は盛岡大附に快勝して3年ぶりの8強入りを果たした。今回は近江の強さを知るべく、近江高校時代に甲子園出場3回を経験している西濃運輸の林 優樹に話を伺った。
林が語る近江の強さ、今年の3年生にエピソードについて語っていただく。
なぜスクイズが勝因につながったのか?
大阪桐蔭戦を振り返ると、2回まで4点を先取される苦しい展開。しかし3回裏の場面で、2番 西山 嵐大のスクイズで1点を返した。この場面について、林は近江らしさがよく出た場面だと語る。
「今日の試合に関しては初回で、見てる人も含め、だれもが大阪桐蔭の勝ちを確信したと思うのですが、多賀監督の下で三年間やらせてもらった中で自分がずっと言われてきたことがあって、強い高校に勝つのは「三点差」とずっと言われていて、これ以上離されなかったら勝てるんじゃないかと思っていました。
三回裏の一、三塁の場面で、もしかしたらスクイズがあるんじゃないかと見てて思いましたし、見てる人からしたら『なんでスクイズ』と思った方もいたと思いますが、自分はあのスクイズで流れが変わったと思いましたし勝因はそこだったのかなと思います」
序盤、不安定だった山田も投球を組み立て、縦スライダー、カットボール主体の投球。無失点で抑えると、打線も着々と1点を返し、ついに7回で振り出しに戻した。林の目論見通り、スクイズによる1点が近江を生き返らせた。
近江は冷静にスクイズを決められるメンタルを作り上げるために、日々の練習から教え込むという。
「ここ一番で決められるように日頃から練習しますし、監督さんがサインを出すタイミング、意図を常に考えながら練習をしているので、4点差でスクイズのサインが出て、ビックリしながらするのではなく、想定内という考えを持ちながら打席に入るので成功につながったと思います」
気持ちよく打って、気持ち良く勝てる試合は強豪校と対戦したときは、ほとんどといっていいほどない。劣勢の中で、試合を行うことも多い。その時、打って返すだけではなく、こうした小技から点を返すのは必要な手段だ。多賀監督はこの場面をこう振り返る。
「3回のスクイズは強攻を考えず、初球振りに行ってくれて、確実に1点と思って出しました。しょっぱなを叩かれて動揺が見えて、1点入れば流れが変わるかなと。西山が決めたことが大きいですね」
スクイズをもの見事に決めた西山をたたえていた。
今年の3年生には特別な思いがある
高校時代の林優樹
緻密な戦術を進める近江だが、今回登場した林や、1学年下の土田 龍空(中日)、今年の2年生エースの山田 陽翔などキャラが立って、自発的にプレーができる選手が多く現れているのが特徴だ。その点について林は近江の指導者たちへ感謝の思いを述べた。
「自分の良さをどんどん引き出してもらいましたし、今の自分がいるのは近江高校でやってきたからだと思いますので感謝しています」
今年の3年生は林が3年生だったときに1年生。林はこの学年に特別な思い入れがある。というのは林はこの学年の教育係に任命されたからだ。
「3年生の時に当時の一年生(現在の三年生)の教育係に任命されたんです。甲子園の経験を伝えてほしいと多賀監督さんに言われたので。
僕自身、教育係をやって、いろいろ良かったことも多いですし、彼らと半年間一緒に深く関わって、高校野球をやらせてもらったので、結果も気になります。
春の大会で二回戦で負けて苦しんでいるところも見てきたので、大阪桐蔭戦の勝利は自分も本当に嬉しかったです」
主将の春山 陽生についてはこう語る。
「春山自身が一番苦しんだと思うので、甲子園でハツラツとプレーしている姿を見てすごく嬉しいです」
この大会、急成長を見せているエースの岩佐直哉については、
「凄く成長したなと思いますし、苦しんだこともあったと思いますが、勝たせられる投手になったのでこれからも頑張ってほしいと思います」
3年ぶりのベスト8を果たした後輩たちに、3回戦を前にこんなエールを送っていた。
「一戦必勝だと思いますし、近江の野球をすれば分かったと思うので、粘って近江の野球で自分たちが超えられなかったベスト8の壁を破ってほしいですし、その先の日本一に向かって頑張ってほしいと思います」
緻密さと選手の個性を引き立たせる指導が融合した近江。これからも高校野球をリードする名門になっていくに違いない。